04 そういう関係
「投扇興部って、そんなの許可が出るとは思えないけど?」
冷静に指摘する葵に、おうぎは得意げな笑みを返す。
「大丈夫! もう先生には確認してきたから」
「行動が早すぎない!? まだ入学式前よ?」
「ほら、よく言うじゃん。思い立ったが……えーっと……なんだっけ?」
「よく言うなら、忘れないでよ」
「とにかくっ! 高校入ったら投扇興部を作るって、ずっと前から決めてたんだよ」
「じゃあ、『思い立った』のも今日じゃないのね……」
「細かいことは気にしない!」
誤魔化すように笑って、おうぎは続ける。
「で、先生に確認してみたけど、部員さえ集まれば大抵は許可されるってさ」
この説明に、葵は苦笑をもらす。
「だから、その部員が集まらないって言ってるのよ」
入学したばかりで、誘える友だちがいない。
この二人以外に、同じ中学出身者もいないから、本当にゼロから人探しをする必要がある。
それに、もっと根本的な問題があることに葵は気づいていた。
「そもそも、投扇興のこと誰も知らないんじゃない?」
「え? あはは、そんなまさか~」
「…………」
冗談を言ったと思って笑っているおうぎ。
それを悲しそうな目で見つめる葵。
微妙な空気が流れて、さすがにおうぎも冗談ではないと気づいたらしい。
「マジで!?」
「だって、マイナーだもの」
「いや、でも名前くらいは知ってるでしょ?」
「私はおうぎに誘われるまで、聞いたことなかったけど?」
「そんなっ!?」
絶望するようにうなだれてしまったおうぎに、葵が慌てて言葉を投げる。
「そ、そこまで落ち込まないでよ」
「こんなに楽しいのに誰も知らないって、なんかショックで……」
「まぁ、知名度と楽しさは別問題だから」
この言葉を受けて、一転おうぎの目が輝いた。
「そうだよ! さすが葵!」
「今度は何!?」
「知らないなら、楽しいって知ってもらえばいいんだ! 葵みたいに」
まぁ、理屈は間違っていない。
「時間はかかるだろうけど、地道に部員を増やせば部活申請も出せるし!」
「なんか楽観的すぎる気もするけど……」
「大丈夫、大丈夫! もう二人も部員がいるんだし」
「え? 二人って、誰?」
「それはもちろん、あたしと葵」
「だ、だから私は手伝わないって言ってるでしょ?」
「えぇ~」
本気で驚いた様子のおうぎは、すぐに悲しそうな表情に変わった。
「そんな顔してもダメ」
「葵~、お願いだよ~」
「新しい部活作るとか、そういう目立つことしたくないし……」
「そう言わずにさー。葵しか頼れる人がいないんだよ」
「う……」
葵がわかりやすく、たじろぐ。
それに気づいているのか、いないのか、おうぎがたたみ掛けるように両手を握ってきた。
「葵がいなかったら、せっかく部活作っても楽しくないだろうし」
「……」
「だからお願い!」
必死に頼んでくるおうぎに、葵は顔を真っ赤にしていた。火が出そうなほどに。
「も、もう! 仕方ないわね。そこまで言うなら手伝ってあげる」
「マジで!? やったー! ありがとう、葵!」
「結局、こうなるのね……」
無邪気に喜ぶおうぎとは対照的に、困り顔の葵。
けれど彼女は彼女で、まんざらでもない表情をしていた。