38 葵と薫子
「あっ、葵ちゃん! よかった~」
教室に戻った葵を出迎えたのは、薫子だけだった。
「誰もいないから、今日は部活ないのかと思っちゃった」
「え、えっと……」
教室には薫子だけ。
葵は戸惑っていた。
自習室に置いてきたおうぎはいいとして、なぜもう一人もいないのか?
「あの……乙女は?」
「乙女ちゃんなら、いっぱい課題出されちゃったらしくて、自習室に行ってるわよ」
「二人そろって!?」
驚く葵の発言に、薫子が首を傾げた。
「ということは、もしかしておうぎちゃんも?」
「は、はい……」
返事を受けて、薫子が笑みを深める。
「じゃあ今日の部活は、葵ちゃんと二人っきりね」
「ふ、二人っきり……ですか!?」
「だって、あの課題の量だから、終わるころには部活時間も終わってるんじゃない?」
「たしかに……」
納得しながら、葵の心の中はぐちゃぐちゃになっていた。
(ど、どうしよう……? 二人っきりで、なにを話したら!?)
どんどん顔が赤くなっていく。
(ただでさえ、あんまり人と話すの得意じゃないのに……)
葵は赤くなった顔を見られたくなくて、自然とうつむいていた。
(しかも、相手があの薫子さんなんて……っ!)
無言でうつむいてしまった少女に対して、薫子が顔をのぞき込んでくる。
「葵ちゃん、どうかしたの?」
「い、いい、いえ! なんでもないですっ!」
突然のことに慌てふためく。
葵の顔は、さらに真っ赤になっていた。
彼女のこの反応も仕方ない。
相手は薫子なのだから。
美人で優秀で、次期生徒会長とまで言われている人だ。
学内ではかなりの有名人で、彼女に憧れている子も多い。
非公式のファンクラブまである。
だから仕方ない。
だって、そのファンクラブに、葵も入っているのだから。