36 投扇興部、設立?
初めてやった投扇興で、最高得点の夢浮橋を出す。
おそらくは偶然だが、薫子の「持っている感」がうかがえる。
このことに、おうぎが目を輝かせていた。
「即戦力の大型新人じゃん!」
「そうね。部員も四人になったし、また団体戦があっても私は出なくてよさそう……」
「ん? じゃあ、葵は個人戦かな?」
「なんでそうなるのよ!?」
「いやー、まさか葵は個人全にそこまで思い入れがあったなんて」
「だから違うってばーっ!」
いつも通りの二人のやりとり。
それを見て、薫子が笑みを漏らした。
「ふふ、にぎやかな部活ね」
「うん! すごくいい部活だよ」
乙女にとっては、いろんな意味でいい部活だろう。おかずに困らない。
しかも、さらにいいことがあった。
「今日からお姉ちゃんも一緒だから、本当に嬉しい!」
「あ、でも、ちゃんと部活として登録もしないとね」
薫子が思い出したように注意を入れる。
「じゃないと教室で勝手に遊んでるだけ、ってことになっちゃうから」
この学校の校則は、そこまで厳しくない。
放課後に校内で遊んでいても、投扇興の道具を持ち込んでも校則違反にはならない。
なので投扇興を勝手にやること自体は問題ではない。
けれど、部活として認められないと、部室もないし部費も出ない。
部活にしたほうが多くの恩恵が得られる。
だからこそ、乙女は胸の前でぎゅっと拳をにぎった。
「じゃあ、部員をあと一人集めないと……!」
やる気を見せる乙女に、しかしおうぎが気楽に笑う。
「そんなもん、なんとかなるって」
彼女は目を輝かせて、薫子に視線を投げた。
「なんたって、次期生徒会長の薫子さんが入部したんだからさっ!」
「あ、そっか」
乙女も、おうぎが言っていることが理解できた。
「お姉ちゃんなら、部員が足りなくても……」
形は変わったが、当初の目的通りだ。
部員が集まりそうにないから、生徒会の薫子に特例で部活を認めてもらう。
乙女とのすれ違いがあったために、最初は断られてしまったが。
すでに二人は仲直りしている。
それどころか、薫子自身が投扇興部に入ってくれた。
この状況ならば!
薫子に、三人から期待のまなざしが集まる。
その視線を受けて、薫子は優しく微笑んだ。
「もちろんダメよ」
「なんで!?」
予想外の返事に、おうぎが声を荒げる。
「これは、部活が認めてもらえる流れでしょ!?」
「ルールを破るのはダメ」
「で、でもお姉ちゃん生徒会だし……特例とか……?」
「生徒会だからこそ、校則は守らなきゃ。好き勝手はできないの」
「そんな……」
乙女とのすれ違いとか、関係なかったらしい。
「大丈夫! 部員集めなら、私も手伝うからっ」
期待が外れて落ち込む乙女たちに、薫子は気合いを見せるように拳を突き立てるのだった。