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35 ゆめのうきはし


 乙女が薫子と仲直りした翌日のことである。


 放課後、彼女はいつも通りおうぎたちのクラスへと向かった。


 そこには、すでにみんなそろっていた。


 おうぎが楽しそうに投扇興の準備を進めて、葵が呆れた様子で見守っている。


 その横に、もう一人の人物が。


 それは乙女がよく知る女性だった。


「もう乙女ちゃん、おそーい」


「なんでお姉ちゃんが!?」


「あれ、言ってなかった? 私も投扇興部に入ることにしたの」


「え……えぇっ!?」


 すぐには理解できず困惑する乙女に、薫子は笑顔で続ける。


「ほら、これならずっと乙女ちゃんと一緒にいられるでしょ?」


 この説明に、乙女はもろ手を上げて喜んだ。


「わーい! お姉ちゃんとおんなじ部活だー!」


「お姉ちゃんも嬉しいよー! わーいっ!」


 わーい、わーい、と何度も手を上げる二人。


 おうぎがその光景に呆れつつも、わずかに微笑みを浮かべる。


「いやー、入部するって言われたときはビックリしたけど、部員が増えるのは大歓迎!」


 嬉しそうなおうぎに続いて、葵が声を上げる。


 頬を染めて、どこか遠慮した様子で薫子に問いかけた。


「薫子さん、投扇興をやったことは?」


「試合は見たことあるけど……実際にやったことないのよ」


 その返事を受けて、おうぎの目が輝く。


「じゃあ、さっそくやってみよう! まずは習うより慣れろ、ってね!」


 おうぎの提案に、乙女が慌てて手を上げる。


「あっ、じゃ、じゃあ私が教えるね!」


 乙女にとっては、初めての部活の後輩だ。


 薫子を相手に教える側になれることも、ちょっとだけうれしかった。


 だから、張り切って指導役を買って出るのも仕方ないだろう。


 枕を置いて、その上に的となる蝶を置く。


 そして薫子に扇を渡して、定位置に座らせた。


「そこから蝶を狙って、扇を投げるんだよ」


 おうぎにしてもらった時のことを思い出しながら、乙女は説明をしていく。


 薫子は不安そうに、ひとつ頷いた。


「う、うん。やってみるね」


「失敗しても気にしないで。最初は扇を真っ直ぐ飛ばすのも大変だから」


 フォローのつもりで言った乙女だが、薫子の返事は予想外のものだった。


「あ、蝶に当たったわ」


「一回目から!?」


 驚くと同時に、乙女は納得もしていた。


 だって、薫子は何をやらせてもすぐに最良の結果を出してしまうから。


「さすがお姉ちゃんだね!」


「えへへ……それほどでもないよ~」


 照れるように頭をかいてから、薫子が興味深そうに重ねた。


「それで、これって何点くらいなの?」


「あ、ごめんね。私、まだ細かい得点は覚えてなくて……」


 だから乙女はベテランの二人に頼った。


「ねぇ、おうぎちゃん葵ちゃん、これって……」


 しかし、途中で言葉を切ってしまった。


 二人が驚きに目を見開いていたから。


「えっと……二人とも、どうしたの?」


 首を傾げる乙女に、おうぎがなんとか声を絞り出す。


「いや、だって……この形は……」


 おうぎは、薫子が扇を投げた結果を見つめている。


 それは乙女にとっても珍しい形だった。


 枕から落ちた蝶は、倒れることなく床に立っていて。


 その蝶と枕に支えられるようにして、扇が乗っていた。


 まるで、まくらと蝶の間に橋をかけるように。


 この銘の名前を、おうぎがつぶやく。


「夢浮橋。百点……最高得点の銘だよ!?」


「初めて見たわ」


 おうぎも葵も驚愕している。


 けれど、乙女だけは冷静だった。


 なぜなら――


「お姉ちゃんらしいなぁ」


 長い付き合いだからこそ、その一言で片づけることができてしまうのだった。


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