34 一件落着?
薫子の発言に、乙女は疑問符を浮かべることしかできない。
「え、えっと……私がお姉ちゃんを嫌いになったって……ど、どういうこと?」
「だって最近、一緒に帰ろうって誘っても、断るじゃない」
「えっ! そんなことで……」
戸惑う乙女に、薫子がそれだけではないと続ける。
「土曜も日曜も誘ったのに断ったよ!」
だから、と感情的に叫ぶ。
「私のこと、嫌いになったんでしょ!?」
「そ、そんなことないよ。ただ投扇興で忙しくて……」
「私と投扇興、どっちが大事なの!?」
「えぇ!? なにその二択!?」
乙女の困惑は深まる一方だ。
その様子を横で見ていたおうぎと葵も、拍子抜けした表情だった。
「なんか痴話げんかみたいになってきたなー」
「そうね……」
呆れていた葵だが、ふとあることに思い当たる。
「待って。ということは……薫子さんは乙女のことを怒ってるわけじゃないんですよね?」
この問いかけに対して、薫子は即答だった。
「もちろん! 私が乙女ちゃんを怒るわけないじゃない」
返事を受けて、葵が今度は乙女に向き直る。
「乙女は、薫子さんと仲直りしたいのよね?」
「うん……これまで通り、仲良くしたい」
「薫子さんが言ってるみたいに、嫌いになったってことは?」
重ねた問いに、乙女が慌てて両手を左右に振った。
「あ、ありえないよっ! 私、お姉ちゃんのこと大好きだもん!」
その発言に、薫子が表情を明るくする。
「乙女ちゃん、それほんと!? 嬉しいっ!」
けれど、それは一瞬のことで、すぐに申し訳なさそうにうつむいてしまった。
「ご、ごめんね。変な勘違いしてたみたい……」
「ううん、私のほうこそ。お姉ちゃんを何よりも優先するべきだったのに……」
「そんなこと気にしないで。応援してるから、投扇興頑張って」
「それでも、お姉ちゃんとの時間も作るよ。お姉ちゃんのこと大好きだから!」
「乙女ちゃんっ!」
「お姉ちゃん!!」
ひしっと抱き合う二人。
おうぎは、それを冷めた目で見つけていた。
「なにこの茶番……」
見ている側としてはバカらしいが、本人たちは幸せそうだ。
その光景に、おうぎも笑顔を浮かべる。
「まぁなにはともあれ一件落着かな?」
納得した様子のおうぎだが、葵はそうもいかない。
落ち込みまくる乙女を慰めて、薫子の代わりまで勤め、そのうえで胸が小さいことを指摘されるという辱めを受けたのだ。
怒りに声を荒げる。
「私の努力はなんだったのよ!?」