32 憂鬱な彼女
「はぁ……」
薫子は生徒会室でひとりため息をつく。
「乙女ちゃんにひどい態度取っちゃった」
激しく後悔している。
けれど悪いとは思っていない。
「先に悪いことしたのは乙女ちゃんのほうだもん……!」
それは少し前のお話。
薫子が乙女と一緒に登校していた時のこと。
「乙女ちゃん、今日は生徒会ないから、一緒に帰らない?」
質問しておきながら、薫子はどんな返事が来るか、確信を持っていた。
これまで彼女の誘いが断られたことはない。
それに乙女が入学してから、ほぼ毎日一緒に帰っている。
断られることなど万に一つもない。
そう思っていた。なのに、
「お姉ちゃん、ごめんね。今日は部活があるんだ」
「……え」
予想外の返事に戸惑う。
しかも、これは一度だけではなかった。
乙女が部活に入ったという話を聞いてから、毎日繰り返された。
それだけではない。
この前の土曜日である。
朝から、薫子は乙女に電話をかけていた。
「あ、乙女ちゃん? 今日よかったら一緒に買い物に行かない?」
土曜ならば部活もないはずだ。
けれど、乙女からの返事は色よいものではなかった。
「ごめんなさい。今日は部活のみんなと練習する約束なんだ」
「そ、そう……。じゃあ、明日は? 私、日本舞踊の――」
「あ、ごめん。明日も部活の用事があるの」
「……そっか」
これまで乙女が、薫子の誘いを断ったことはない。
それどころか、誘ってなくてもついてくるのが乙女という女の子だった
誰よりも薫子のことが好きで。誰よりも薫子の近くにいた女の子。
「昔はあんなに、お姉ちゃんすごいって追いかけてきてくれたのに……」
なのに、今は遠ざかっていく。
乙女から、部活に入ったと聞いた時は、本当に嬉しかった。
妹のように可愛がっていた子が変わろうとしていることに。
けれども、今の状況には不満がある。
我ながら情けない。
こんなにショックを受けるなんて思わなかった。
困惑しすぎて、それが態度にも出てしまっている。
結果、乙女に冷たい態度を取ってしまった。
よくないとわかっているけれど、制御ができない。
「はぁ」
再びのため息。
その直後だった。
ドアが勢いよく開く。
「たのもー!」
昨日と同じ言葉とともに、元気な女の子が飛び込んでくる。
「だから、その入り方は違うわ!」
続けて、大人しそうな女の子も。
その後ろには、
「お姉ちゃん……」
落ち込んだ様子の女の子がいた。