31 足りない成分
薫子の知らなかった一面に、乙女は大興奮だった。
けれど、ふと冷静になってつぶやく。
「やっぱり、お姉ちゃんとお話できないのは辛い……」
「結局、落ち込むのかよっ!?」
「だって、丸一日以上お姉ちゃんと触れ合ってないんだよ……お姉ちゃん粒子が足りない」
「なに、その粒子!?」
「お姉ちゃん粒子は……あぁ、ダメ。説明する元気もない」
「いやそれは元気が出ないんじゃなくて、いい説明が浮かばなかったんじゃ?」
おうぎが冷静に指摘するが、乙女にふざけている様子はない。
本当に力なく落ち込んでいる。
そんな乙女の肩に、おうぎが手を置いた。
「乙女、仲直りなら協力するから、元気出しなって」
「お姉ちゃん粒子がないから無理だよ……。せめて他の人のかわいい粒子をもらわないと、私もう立つこともできない……」
「ダメだ……乙女がなにを言ってるのか、さっぱりわからん」
「奇遇ね。私もよ」
呆れて声も出なくなる二人。
そこから先に復帰したのはおうぎの方だった。
「とりあえずこのままだと仲直りに連れてくこともできないし……葵、頼んだ!」
「私に丸投げ!?」
「大丈夫! 葵ならかわいい粒子っていうの、きっと出せるって……ぷぷ」
「笑いながら言われても説得力ないわよ!?」
「いやー、確かに冗談半分だったけど」
「やっぱり!」
「待った待った! 否定はしないけど、半分は本気だったから!」
疑いの眼差しを向けてくる葵に、おうぎは慌てて付け足す。
「ほら、葵って薫子さんに雰囲気が似てるから、いけるかなって?」
「え!? 私が……? に、似てるかしら?」
「うん。落ち着いてるところとか、髪型とか。あと、二人とも和風美人って感じだし!」
「そっか……」
葵は嬉しそうにつぶやいてから、頬を染めて視線をそらした。
「し、仕方ないわね。そういうことなら、やってみるわ」
「おぉ、さすが葵! 頼りになる!」
「任せておいて」
と引き受けたものの、葵はどうしたらいいかわからない。
乙女を元気にする方法など思いつくはずがない。
とりあえずお姉ちゃんとの触れ合いが足りないから元気が出ない様子だ。
ならば、代わりに触れ合ってあげればいいのだろうか?
「乙女……わ、私のこと、お姉ちゃんだと思って甘えていいわよ」
この宣言に、乙女の反応は素早かった。
「うわぁい、お姉ちゃーん!!!」
素晴らしいスタートダッシュで椅子から飛び出し、葵に抱きついていた。
「あなた、実は元気いっぱいよね!?」
葵が悲鳴に近い声を上げるが、乙女には聞こえていない。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん、お姉ちゃーん!」
抱きついたまま、葵の体に頬ずりをしまくっている。
「うわぁ……」
「おうぎ、引かないでよ! あなたがやらせたんでしょ!?」
「いや、ここまでひどい絵面になると思わなくて……」
などと二人が話していると、不意に乙女の動きが止まった。
それから気落ちした声が漏れる。
「はぁ……ダメだよ。こんなのお姉ちゃんじゃない」
まったく元気になっていないどころか、余計に落ち込んでいる様子だった。
「ご、ごめんね、乙女。私なにかいけなかった?」
「……柔らかさが足りない」
「え? 柔らか……?」
最初は何を言われているのかわからなかった。
けれど葵はすぐにはっとして、自分の胸元に視線を送る。
薫子は、女性の葵でも見とれてしまうほど大きい。
それに比べて、葵の胸は……。
「わ、悪かったわねっ!!」