30 はじめての感覚
翌日の朝。
乙女はベッドの上でため息をつく。
「お姉ちゃん、起こしに来てくれなかった……」
けれど乙女が寝坊する心配はない。
なぜなら、薫子のことが気になって、一睡もできていないから。
眠らなければ、寝坊の心配はない。
とはいえ、寝不足だし顔色もひどい。
学校を休もうかとも考えてしまう。
「……ううん。みんな、心配しちゃうよね」
元気を振り絞って、乙女はベッドから下りた。
制服に着替えて、食欲がなかったので朝食は食べずに家を出た。
「乙女ちゃん!?」
そこに薫子がいた。
インターホンを押すか迷っているような体勢で。
「お姉ちゃん……っ!」
来てくれていたのだ。
そのことが嬉しくて、乙女は自然を笑みを浮かべていた。
けれど、
「……さ、先行くね」
薫子は小走りで去ってしまう。
「お姉ちゃん……」
乙女の呼ぶ声は本人に届かず、悲しく響くだけだった。
その日の放課後、おうぎたちのクラスにやってきた乙女は、まだ気落ちしていた。
事情を聞いたおうぎが、悩ましそうに腕を組む。
「そっかー。それは明らかに避けられてるね」
「うん……廊下ですれ違った時も、全然お話してくれなかったし……」
乙女はうつむいてしまう。
彼女の様子におうぎも葵も慌ててしまった。
「だ、大丈夫だって! きっと仲直りできるよ」
「そうよ。あの薫子さんだもの、いつまでも怒ったりしないわ」
「必要なことがあったら、あたしたちも協力するし!」
「だから元気出して」
必死に励ます二人。
けれど、その声は乙女に届いていない。
彼女はうつむいたまま、わずかに肩を震わせる。
そして、呼吸は荒く、なぜか頬を染めていた。
「はぁはぁ……冷たいお姉ちゃんも、それはそれで……」
乙女の表情は、どこか満足そうである。
「……普通に元気だわ」
「あたしたちの励ましを返せっ!」