29 嫌われちゃった?
話が決まって、乙女たちは生徒会室の前までやってきた。
おうぎが何の躊躇いもなく先陣を切る。
「たのもー!」
「その入り方は違うわ!」
葵が指摘するも、時すでに遅く。
部屋の中にいた人が、驚きに目を見開いている。
「えっと……なにごと?」
困惑の声が漏れる。
部屋には、その声の主しかいなかった。
乙女のいとこ、薫子である。
「お姉ちゃん、ごめんね……ビックリさせちゃって」
「乙女ちゃん……!」
薫子は、いとこの姿を視認すると、一転して不機嫌そうに眉をひそめた。
投扇興の大会で、偶然会ったときと同じ表情。
「あ、あれ?」
この反応に、乙女の胸がざわつく。
薫子がそんな表情を向けてきたことは、これまでに一度もなかったから。
心臓がきゅっと締め付けられるような思いをしている乙女だが、そんなこと気づいていないおうぎが彼女の背中を押した。
「ほらほら、乙女! 頼んだよ」
「あ……う、うん」
おずおずと薫子の前に進み出る。
「乙女ちゃん、どうかしたの?」
口調はいつもの薫子だった。
だから乙女も勇気を振り絞って口を開く。
「あのね、投扇興部を作る許可がほしいんだけど……」
「あぁ、なるほど。そのことね」
彼女は納得するようにひとつ頷く。
それから、いつもの優しい笑みを浮かべて。
「ダメです」
事務的な声で返された。
「部員数が足りないなら、承認することはできません」
突き放すように、淡々と告げられる。
そんな薫子の様子に、乙女はすこし怯えながらも続けた。
「ど、どうしても……ダメかな?」
怯えて小さくなっている乙女は、自然と上目遣いでお願いする形になっていて。
もじもじと震えるその様子に、薫子がわずかにたじろいだ。
「う……っ」
「……? お姉ちゃん?」
「な、なんでもない」
気を取り直すと、薫子はすこし慌てた様子で続けた。
「とにかくダメなものはダメ! 特例は認められません!」
当てが外れてしまった。
追い返された乙女たちは、すごすごと教室に戻る。
「ダメだったかー。行けると思ったんだけどなー」
嘆いているおうぎの横では、葵が首を傾げていた。
「薫子さん、なんだか怒ってるみたいだったわね?」
「確かに。乙女と話すときって、いつもあんな感じなの?」
「う、ううん。いつもはもっと優しいんだけど……」
乙女の目から見ても、やはり不機嫌そうだった。
このことに、おうぎが予想を立てる。
「なんか怒らせることでもしたんじゃないか?」
「え!? そ、そんなこと……」
ここ数日のことを思い出してみる。
「寝坊しないように毎朝起こしてもらったり……宿題手伝ってもらったり……」
薫子にしてもらったことを並べていったら、キリがない。
「いっぱい迷惑かけちゃったし、頼りっきりだった……」
思い当たる原因が多すぎる。
「ど、どど、どうしよう!? お姉ちゃんに嫌われちゃった!?」