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25 チア服の真意


 葵の服装に、乙女は大興奮だった


「はぁはぁ、葵ちゃんかわいい……」


 そして、横に視線を移す。


「おうぎちゃんのチアも意外だし、これはこれで……」


 頬を染める乙女に、おうぎが一歩下がった。


「……さすがにあたしも、ちょっと引くなー」


「ひどいっ! おうぎちゃんが用意したんでしょ!?」


「いやー、まさかあたしまで守備範囲だとは思わなくて」


「なんで!? おうぎちゃんも充分かわいいよっ!」


「ほんと止めて。あたし、そういうのガラじゃないから」


 などと会話していた二人だが、そこにはかなりの距離がある。


 必然、大きな声を出すことになっていて。


 会場に響き渡る声に、係員が慌てておうぎと葵に詰め寄った。


「あなたたち、競技中なのよ! 騒ぐなら外に出なさい!」


 数人の職員によって、おうぎたちが連れ出されそうになる。


 これに慌てたのは乙女の方だ。


「ま、待って、ひとりにしないで……っ!」


 ただでさえ勝ち目がなくて不安なのに、ひとりになったら残り五投を投げ切る自信がない。


 そんな乙女に、連れ出されようとしているおうぎが、笑顔を向けた。


「乙女、その表情だよ!」


「え……?」


 無意識に、自分の顔に触っていた。


 わずかに口角が上がっている。


 それはそうだ。


 だって、おうぎと葵の可愛らしいチア姿を見れたのだから。


 嬉しくて笑ってしまうのも、仕方ない。


 これを、おうぎは良いことだと断言する。


「せっかく投扇興してるのに、深刻な顔はよくないって! 楽しもうよ!」


 その言葉を最後に、おうぎたちは係員に連れていかれてしまった。


 乙女は、二人がいなくなった入口を見つめ続ける。


「……楽しもう、か」


 乙女はすっかり忘れていた。


 投扇興を楽しんでいたことを。


 勝たなければいけないという思いから、楽しむことを忘れていた。


 せっかくの初めての大会だというのに。


「すぅ、はぁ」


 ひとつ大きく深呼吸する。


 そして扇を構えた。笑顔のまま。


「最後まで楽しもう」


 少し前まではありえなかった。


 負けるとわかった時点で逃げ出すのが乙女という女の子だ。


 もはや勝てる見込みは、ほとんどない。


 そんな状況で、乙女は楽しむために試合を続けようとしていた。


「――――」


 だからこそ、彼女はこれまでで一番の集中を見せていた。


 この世界に自分と投扇興しか存在していないかのように、意識が研ぎ澄まされていく。


 そうして、乙女は六投目の扇を投じた。


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