24 効果てき面
乙女を応援するためのチア服。
先に着替え終わったおうぎは、トイレから出てきた葵の姿に目を輝かせる。
「おぉ! やっぱり葵に似合うと思ってたんだ!」
「あんまり嬉しくないわ……」
「まぁまぁそう言わずに。張り切って乙女の応援に行こー!」
気合いを入れているおうぎだが、葵には気になることがあった。
「ねぇ、こんな格好じゃ会場に入れないんじゃないかしら?」
「心配いらないって! ……たぶん」
「確証ないんじゃない!」
「平気、平気。とりあえず当たって砕けろってことで!」
「砕けちゃダメでしょ!?」
「大丈夫、大丈夫」
心配そうな葵の手を引いて、おうぎは楽観的に笑っていた。
しかし会場の入口で、
「君たち困るよ。みんな集中してるんだから、そんな格好で入らないで」
係りの人が、二人の前に立ちふさがる。
「やっぱりダメだったじゃない!」
一方その頃。
おうぎたちがわちゃわちゃしている間に、乙女は五投目を終えていた。
「……また手習い」
ここまで五投すべてで、乙女の扇は蝶を捕らえることができなかった。
今のところ、得点はゼロ。
それに比べて、対戦相手の女の子は着々と点を積み重ねている。
これまでの点差も合わせて、すでに百点近い差がある。
「どうしよう、負けちゃう……」
乙女は焦っていた。
「負けたら……部活が」
もはや逆転は絶望的だ。
けれど、こんなに人が集まっている中で、途中で逃げ出す勇気も乙女にはなくて。
「と、とにかく投げなきゃ……っ」
六投目の扇を構える。
姿勢は悪く、呼吸を荒れていて、視線は泳いでいる。
まったく集中できていない。
だが、余裕のなくなっている乙女は、自分が集中できていないということにも気づけていなかった。
落ち着きなく扇を投げようとしてしまう乙女。
そこに、ふと声が聞こえた。
「そこをなんとかっ!」
「ちょ、ちょっとおうぎ! 係りの人を困らせちゃダメよ」
聞きなれた声。
「おうぎちゃん……葵ちゃん……?」
近くにいるものだとばかり思っていたが、姿が見当たらない。
遠くに聞こえる声を頼りに視線を巡らせる。
「……あ、いた」
おうぎの姿は会場の入口にあった。
スタッフの腕章を付けた人となにやら揉めている。
「どうしたのかな?」
心配になってしまう。
けれど、それ以上に気になることがあった。
彼女の服装だ。
なぜチア服なのか?
驚きに目を見開いていると、おうぎと目が合った。
そして、おうぎは何を思ったのか、一歩横に動く。
すると、おうぎの後ろにいた葵の姿も確認できた。
彼女の格好も、おうぎと同じチア服だ。
それを見た乙女は、頬を染めて息を荒げる。
「葵ちゃん、かわいいっ!」
「言うと思ったけど、私の名前を大声で呼ばないでっ!」