22 てならい
初めての大会、団体戦。
おうぎと葵が投げ終わって、点差は七十点。
そんな状態で最後を任された乙女は、悲鳴をあげていた。
「無理だよー」
「乙女なら大丈夫だって! だから帰り支度しないでくれー!」
「でも……」
「ほら、相手ももう座ってるし! 急いで!」
おうぎに促されて視線を向ける。
対戦相手の小学生チームはすでに三人目が位置についていた。
その子は黒髪ロングの女の子だった。
細身で、すらっと長い手足、モデルのような体型だった。
扇を持っている姿はとても様になっていて。
「あの子、かわいい……!」
「そんな場合か!?」
ブレない乙女に、おうぎは声を荒げていた。
「そ、そうだよね……でも、ちょっとやる気出てきたかも」
あんな可愛い子と対戦できるなら、役得である。
乙女の思考を読み解けたのか、葵が呆れたようにため息をつく。
「ま、まぁ棄権しないなら、なんでもいいわ」
「乙女、頑張ってよ! 部活がかかってるからなー!」
おうぎからの応援を背に、乙女が位置につく。
枕を挟んで反対側には対戦相手の女の子が。
正面から見つめ合う形になる
「はぁはぁ」
「?」
女の子が怪訝そうな顔をした。
「はっ! いけない、いけない……」
慌てて呼吸を整える。
目の前にいる女の子は可愛らしいけれど、今はそれどころではない。
ここで勝たなければ投扇興部が作れないのだから。
なんとしても実績を残して、部活を認めてもらう必要があった。
点差は多いけれど、高得点の銘が出れば可能性はある。
「すぅ、はぁ」
大きく深呼吸した。一投に集中する。
扇をかまえて、枕に乗った蝶を見据える。
充分に狙いを定めて、乙女は扇を投じた。
くるりと半回転した扇は、すーっと真っ直ぐに飛んでいく。
乙女の一投目の結果は……。
枕にも蝶にも当たらなかった。
ただただ、扇が床に落ちる。
手習い。
無得点の銘だった。
「……え?」
初めてのことに戸惑う。
これまで、ちゃんと集中していれば蝶を外すことはなかったのに。
「なんで……?」
原因がわからず、乙女はただただ困惑していた。