21 一回戦!
「五十点なんて無理だよー!」
これまで練習してきて、そんな高得点を取れたことがない。
乙女の平均点は、おおよそ八点。
絶望的である。
しかしおうぎは気楽に笑っていた。
「大丈夫、大丈夫。乙女も、初めてやったときに七十二点だったじゃん」
「あんなのまぐれだよ」
「偶然も実力のうちだって!」
「でも、昨日の練習はひどい結果だったし……」
「本番で練習以上の力が出るとか、よくあるじゃん!」
「そんなのマンガの中だけだよ……」
乙女は誰よりも知っている。
努力は人を裏切るし、運も人を裏切る、と。
練習でできなかったことが本番では成功したりとか。
絶対に負けられない戦いで奇跡が起きたりとか。
そんなのは、持っている人たちだけに許された出来事だ。
そして乙女は持っていない。何も持っていない。
これまでの短い人生で、嫌というほど感じてきた。
「……やっぱり、私帰る」
「あぁ、待った待った! もうエントリーしちゃったんだからさー」
おうぎが慌てて止めようとしていると、葵が声を上げた。
「見て、対戦表が張り出されたみたい」
「ほんとだ。どれどれ……?」
遠くの張り紙に目を凝らしてから、おうぎは周囲をキョロキョロと見回す。そして、ある一点で目を止めた。
「たぶんあの子たちだね。あたしたちの一回戦の相手」
おうぎが示した先には、女の子三人組がいた。
三人とも乙女たちより幼い。
おそらく小学生くらいだろう。
「……勝てるかも」
乙女の顔に、わずかに希望が湧いてきた。
対戦相手が子どもとわかって喜ぶなんて、大人げない。
本人もそれは自覚しているが、とはいえ勝ちたいのだから仕方ないだろう。
これなら、優勝は無理でも一回戦突破くらいはできるかもしれない。
そんな期待を抱く乙女に、葵が困ったようにため息をついた。
「あの子たち、団体戦の常連ね。よく優勝候補で名前があがってるわ」
「え!? あ、あんなに小さい子たちなのに……?」
「投扇興には年齢とか体格のハンデがないのよ。見た目と強さは一緒じゃないってこと」
「そんな……」
勝てるかもしれないと思ったが、現実はむしろ逆。
一回戦から優勝候補と当たってしまった。
「私、やっぱり帰るね」
「だからすぐ諦めないでくれよ!」
おうぎが慌てて止めて、自分と葵を指さす。
「大丈夫! あたしたちで大差つけておくよ。団体戦なんだから頼りにしなって」
「そ、そっか」
おうぎも葵も、乙女よりずっと上手い。
練習では五十点を超えることも何度かあった。
乙女一人では一勝もできなかったかもしれないが、三人ならあるいは。
わずかな希望を胸に、乙女たちの番がやってきた。
この大会での団体戦は、一対一の形式で順番に三人まで回っていく。
「よーし! 先鋒のあたしがしっかり点取っておくから、葵も二番手頼んだよ!」
「次鋒なら、あんまり目立たないから集中できそうね」
自信満々なおうぎに続いて、葵もやる気を見せていた。
その結果だが――
43 対 103
おうぎは19点で。
葵が24点。
こちらの合計が43点である。
対する小学生チームのほうが103点。
70点もの大差だった。
「二人で点取るって言ってたのに!?」