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20 はじめての大会


 そして日曜日。三人は大きな神社の敷地内にある、広い和室に来ていた。


「ほんとに来ちゃったわね……」


 葵が疲れた声でつぶやく。


 彼女の目の前では、


「うわぁ、すごいね! 人がたくさんっ」


「投扇興やってる人がこんなにいるって思うと、テンション上がるよなー!」


 楽しそうにはしゃぐ乙女とおうぎの姿が。


「二人とも、遊びに来たんじゃないのよ!」


 葵が声を荒げるのも仕方ない。


「ここで結果が出せなかったら、投扇興部は作れないんだからね」


 新しい入部希望者は望めない。認知度が低い競技なので。


 そうなると、部員を集めるという条件は達成できそうにない。


 実績を作って、部活として認めてもらうしかないだろう。


「そ、そうだよね……私のせいで負けちゃったら、どうしよう……」


 さっきまではしゃいでいた乙女だが、急に顔が青ざめる。


 おうぎがエントリーしていたのは団体戦。三人一組で戦うものだった。


 もし足を引っ張ってしまったら……。


 乙女が心配を募らせていると、おうぎがあっけらかんと笑う。


「大丈夫、大丈夫! フォローし合うための団体戦だからね」


「そうよ。昨日もいっぱい練習したし」


 はげましてくれる二人だが、乙女の不安は消えない。


「練習したけど、花散里ばっかりだったよ……」


 蝶を落しただけの形が花散里。ゼロ点の銘だ。


 無得点では、役立たずもいいところだろう。


 けれど、葵が慌ててフォローを入れる。


「安心して。この大会のルールでは、花散里は一点だから」


「え!? ゼロ点じゃないの?」


「投扇興は流派によって、得点が少し違うのよ。乙女は蝶に当てるのがうまいから、ゼロ点ってことはないはずよ」


 嬉しい情報だった。


 葵の評価通り、乙女はちゃんと集中すれば蝶を外すことがない。つまり最低でも花散里は出せる。


 ひと試合に十回投げるから、十点は獲得できるということだ。


 すこしだけ希望が持ててきた。


「勝つためには何点くらい取れたらいいのかな?」


 前向きな姿勢で問いかける乙女に、おうぎがわずかに考えてから答える。


「優勝しようと思ったら、最低でも五十点は必要かな」


「五十……じゃあ、一人十七点くらいだね」


 だとしたら、安心だ。


 花散里で十点は取れるとして、そのうちの一回でも十点くらいの銘にできればいい。これで足を引っ張る心配はなくなる。


 おうぎも葵も、乙女より上手いから、もしかしたら優勝も夢ではないかもしれない。


 そんなことを考えていた乙女に、おうぎは申し訳なさそうに訂正を加えた。


「あぁ、いや、三人じゃなくて一人で五十点だよ」


「え……?」


 ヒトリデゴジュッテン?


 すぐには言葉の意味が理解できなくて。


 一拍置いて、おうぎの言ったことが理解できた乙女は、荷物をまとめ始めた。


「私、帰るね」


「諦め早いな!?」


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