19 部活作りの条件
「投扇興部をちゃんと部活にするには、あと部員が二人必要なんだからね!」
新しい部活を作るには、部員が最低でも五人必要になる。
今いるメンバーは乙女とおうぎ、葵の三人。
あと二人いれば、条件を満たしたことになる。
けれど、その二人が遠い。
おうぎがクラスの何人かに声をかけてみたものの、みんな微妙な反応で終わった。
一番多かった返事は「そもそも投扇興ってなに?」
おうぎにとって一番ショックな言葉である。
そんな反応を受け続けたせいか、おうぎから覇気が消えていた。
「もう新しい部員はいいんじゃない? 乙女が入ってくれたんだし」
「ダメに決まってるわよ! 創部には五人必要なんだから」
わずかにイラつきを見せる葵に、おうぎは呆けた表情を浮かべている。
「な、なによ、その顔……何か言いたいことでもあるの?」
「いやー、なんか嬉しくて」
おうぎは本当に心底嬉しそうな笑みで、続ける。
「だって最初は乗り気じゃなかったのに、葵がやる気になってくれてて、嬉しいなぁって」
「なっ!?」
葵の顔がみるみる赤くなっていく。
「……そ、それは、やるからには手が抜けないっていうか……おうぎが適当だから、私が頑張るしかないってだけよ!」
「うん、そうやってあたしが苦手な部分フォローしてくれたりとか、ほんと助かってるんだ。葵がいてよかったよー」
おうぎの口ぶりから裏表は感じられない。純粋な気持ちを口にしているだけなのだろう。
そんなものをぶつけられて、葵の頬はさらに真っ赤に染まっていた。
「もうっ、調子いいんだから。そんなこと言ってるヒマあったら、手伝いさないよ」
「ごめんごめん、ちゃんとやるからさ」
怒っている葵と、謝罪するおうぎ。
けれど、どちらもわずかに笑みを浮かべていて。
そんな二人の様子を見て、満足そうにしている少女が一人。
「葵ちゃん、ごちそうさまです」
「どういう意味!?」
「それはもちろん、二人のやりとりでお腹いっぱいなった、って意味だよ」
「聞いた私がバカだったわっ!」
葵は恥ずかしさを誤魔化すように咳ばらいをひとつ。
「そんなことより、部員集めよ! 二人ともちゃんと手伝ってよね」
話を戻そうとする葵に、おうぎが慌てて手を上げた。
「そのことなんだけど、部活として認めてもらう方法って、もうひとつあるんだよ」
どや顔を浮かべて、得意げに続ける。
「部員が五人いなくても、実績があれば部活にできるんだってさ!」
乙女が首を傾げる。
「実績?」
「そう! 大会で好成績を残すとか、何かのコンクールで表彰された人がいるとか!」
この説明に、葵がため息を漏らす。
「そんな実績ないじゃない」
「ないなら、作ればいいんだよ!」
「作るって……もしかして?」
葵の表情が引きつる。
付き合いが長いから、おうぎが何を言い出すのか予想がついたようだ。
「これ見て! ちょうどいいのがあったから!」
そう言って差し出されたのは、おうぎのスマホだ。
画面には、投扇興に関する情報サイトが映し出されている。
今度の日曜日、近所で大会が開催されるらしい。
大会の名前を見て、葵が青ざめる。
「上級者もいっぱい参加するやつじゃない!?」
「うん! これに出て優勝すれば、部活も夢じゃない!」
「現実を見てっ! 優勝なんて無理よ」
「そんなの、やってみないとわからないって!」
「わかるわよ! 私、あんまり自信ないから、大きい大会には出たくないんだけど……」
「あ、エントリーはもう済ましておいたから」
「勝手なことしないでよーっ!!」
放課後の教室に、葵の悲痛な叫びが木霊するのであった。