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17 投扇興の大会


 葵は怒っていた。


「私たちはちゃんと勧誘のチラシ作ってるのに、なんで一人だけ遊んでるのよ!」


「ご、ごめんごめん……この前あった大会の動画、アップされてたから、つい」


「ついじゃないわよ!」


 なおも葵の怒りは収まらない。


 このまま説教ムードになりそうだったが、そこに乙女が割り込む。


 おうぎを庇うためではない。気になる言葉があったからだ。


「投扇興の大会があるの?」


「もちろんあるよ!」


「それってつまり、川柳甲子園とか書道甲子園みたいに、投扇興甲子園が……!?」


 期待する乙女だが、おうぎは悲しそうに首を横に振った。


「いやー、ないない。ありえない」


 そこに葵が続ける。


「大規模な大会が開けるほど、競技者がいないもの」


「そっか……やっぱり、投扇興ってマイナー競技なんだね……」


 小さなつぶやきに、おうぎが慌ててフォローを入れる。


「年代を気にしなければ、やってる人は多いんだよ! あたしたちの年でやってる人が少ないから、高校大会がないってだけで!」


「え? じゃあ私たちはなにを目標に練習すれば……?」


 すべての部活動が、大会などの目標に向かって頑張っているわけではない。


 しかし、これまで部活に入ったことがない乙女のなかでは、勝手なイメージが膨らんでいた。


「そっか……大会、ないんだ……」


 イメージと違ったことに、がっかりしてしまう。


「大会直前に地獄の合宿したり、山ごもりして必殺技を編み出したりすると思ったのに」


「大会があっても、そんなことしないわよ!?」


「合宿はともかく山ごもりはないかなー」


 乙女の謎イメージに苦笑しながらも、おうぎは目を輝かせた。


「でも大会ならあるよ。地域の投扇興協会が定期的に開催してるんだ」


 説明しながら、おうぎが自分のスマホを指さす。


「さっきあたしが見てた動画も、地域の定例大会のだし」


「地域……ご近所の交流会みたいな?」


「そんな小さい大会じゃないって。ほら、この動画見て!」


 スマホの画面が向けられる。


 そこに映っていた光景に、乙女は目を見開いた。


「広い」


 まず目についたのは、場所の広さだ。


 その和室は、体育館くらいのスペースがあった。


 しかも、たくさんの人がいる。


 子どもから年配の方まで、老若男女問わず多くの人が確認できた。


 一定の間隔を置いて投扇興の対戦が行われており、それを多くの人が観戦している。


 たくさんの人が映っているなかで、乙女の目は一人の女性に釘付けになっていた。


「この人……きれい」


 大学生くらいのお姉さんだった。


 凛とした表情で、真っ赤な着物を身にまとっている。


 乙女がその女性を指さすと、おうぎが楽しそうに語り出した。


「あぁ、その人がこの大会の優勝者だよ。やっぱ、実力者は雰囲気が違うよなー」


 その言葉通り、女性からは気品のようなものが感じられた。


 美しく正座して、扇を構える。


 それだけで、まるで舞を見せられているかのようだった。


 一拍の間を置いて、扇が投げられる。


 くるりと半回転して飛んでいく扇も、どこか乙女が投げた時と違うように感じられてしまう。


 そして驚かされたのはこの後だ。


 扇は真っ直ぐ蝶を捕らえる。


 けれど、蝶が枕から落ちることはなかった。


 それは、この前乙女が出した形に似ている。


 枕の上に扇が乗り、その上に蝶が乗っている。しかも、蝶は立った状態のままだ。


 この結果に、動画の中で歓声があがる。


 称賛の嵐を受けながらも、女性は落ち着いた様子で集中していた。


 動画はそこで終了する。


「いやー、やっぱ大会優勝者ともなると、すごいよ」


 最初と同じ感想をもらすおうぎ。


 これに対して乙女は、


「はぁはぁ」


 頬を染めて、息を荒げていた。


「なんで!?」


「あっ、ご、ごめん。きれいな人見てたら、つい……」


「そういえば乙女、初めて会ったときにも息荒げてたけど」


「違うんだよ! 私はただ、きれいな人とか可愛いものが人よりちょっと好きなだけで!」


「ちょっと……?」


「ちょっとだよっ!」


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