16 部活じゃなかった
「初めての部活動、楽しみだな~」
放課後になって、乙女はウキウキ気分だった。
これまで部活に入ったことはない。
投扇興部が、人生初めての部活だ。
だから放課後がすごく楽しみだった。
昨日は、薫子と一緒に帰る約束があったので、入部を伝えてすぐに帰ってしまった。
だからちゃんと部活に参加するのは、今日が初めてだ。
乙女はスキップしそうな勢いで隣のクラスを訪ねる。
「おうぎちゃん、葵ちゃん、今日からよろしくね!」
自然と元気のいい挨拶が出た。
今日から、投扇興の練習が始まる。
そう期待していた乙女だが、
「えっと、これは……」
彼女の目の前には大量のプリント用紙。
そこに次々と文字を書き込んでいく。「入部希望者、募集中」と。
練習をすると思っていたのに……。
「なんでチラシ書かされてるの!?」
予想外の出来事に声を荒げる。
思っていた部活動と違うのもそうだが、乙女にはもう一つ不思議なことがあった。
チラシに書かされている文字に、不穏な文言がある。
「それに、創部メンバー募集って、なに!?」
創部ということは、新しく部活を作る、ということだ。
思っていたのと、ちょっと違う。
そう感じている乙女に、葵が申し訳なさそうに苦笑した。
「ごめんね。部活って認められるには、最低でも部員が五人必要なのよ」
「え? じゃあ、投扇興部って、まだ部活じゃなかったの!?」
「そうなるわね……おうぎが急に言い出した部活だから」
後ろめたいのか、視線を逸らす葵。
乙女は、そっと荷物をまとめた。
「あの……短い間でしたけど、お世話になりました」
「待って! 昨日の今日でいなくならないでっ!」
「だ、だってムリだよぉ。新しい部活作るなんて、青春の一大イベント……私には荷が重いよ」
「そんな理由!?」
葵は困惑するが、乙女にとっては重要なことだった。
部活に入ることすら、大挑戦なのだ。
新しい部活を作るなんて、許容オーバーもいいところだった。
乙女は、本気で逃げ出すことを考え始めていた。
それを察したのか、葵が慌てて詰め寄る。
「ま、待って! えっと……えっと……」
しかし特に説得する言葉が浮かばなかったのか、そもそもの元凶に視線を投げた。
「おうぎ、私に任せてないで、なんとか言いなさいよ!」
話題を振られた扇だが、
「葵、見て見て! やっぱ大会優勝者は、すごいよ!」
スマホで動画を見ていた。
「おうぎが言い出したんだから、真面目にやりなさいよっ!」
葵が怒りの声をあげる。
これには、逃げ出そうとしていた乙女も同情してしまった。