15 お姉ちゃんが守ってあげる
乙女が投扇興部への入部を決めた翌日。
登校中の乙女は、
「えへへ~」
笑顔が止まらなかった。
そのことに一緒に登校していた、いとこの薫子も笑みを漏らす。
「乙女ちゃん、どうしたの? さっきからずっとニヤけてるけど」
「お姉ちゃん聞いて! 実はね、部活に入ったんだ!」
乙女からのこの報告に、薫子はすこし驚く。そして、すぐに満面の笑みを浮かべた。
「よかった~」
心底安心した様子で続ける。
「高校でも中学の時みたいに三年間勉強してただけってことにならないか、心配してたの」
「そんな……大げさだよ」
「もう、ほんとに心配してたんだからね。乙女ちゃんって、あんまり新しいことに挑戦しないから」
「そ、それは……」
否定できなかった。
乙女は返事に困ってしまったが、薫子はそんなこと気にせず続ける。
「でも、よく部活に入る気になったね。中学の頃の乙女ちゃんからは考えられないわ」
「う、うん……私も最初は入部を断ってたんだけど……」
ここ数日のことが思い出される。
「毎日勧誘に来たり、逃げても捕まったり、そのまま拉致されたりしたら、いつの間にか」
「えぇ!? その部活、大丈夫!?」
事実をそのまま伝えたせいか、薫子の顔は真っ青だった。
「乙女ちゃん、無理矢理入部させられたなら相談して! 私が全力で、その部を消し去ってあげるから! 私、生徒会だから、そのくらい簡単よ!」
これには乙女の方が顔を青ざめさせる番だった。
「だ、大丈夫だよ! 嫌だったわけじゃないから」
それに、と付け足す。
「あのくらい強引じゃなかったら、たぶん入部できなかっただろうし……」
そう語る乙女の表情は、とても嬉しそうで。
その様子に、薫子は落ち着きを取り戻していた。
少なくとも、乙女が嫌々入部させられたわけではないということが理解できたから。
ならば、自分で選んで、部活に入ったのだろう。
小さい時から乙女を見てきた薫子にとって、それは大きな変化に見えた。
だから、自然と笑顔がもれてしまう。
嬉しくなって、詳しい話が聞きたくなってしまうのも、仕方ないことだろう。
「ちなみに、どの部に入ったの?」
「投扇興部だよっ」
元気よく答える乙女に、薫子は小さく首を傾げる。
そうして、乙女には届かないほどの声でつぶやいた。
「あれ? 投扇興部って、まだ……」