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14 小さな夢から


「わ、私の話聞いてた? えっとね――」


 乙女が説明を繰り返そうとするが、おうぎがそれを止める。


「いや、言いたいことはわかったんだよ」


 つまり、と前置きして続ける。


「これまで一度も夢が叶ったことがないから、もう夢も見たくないってことでしょ?」


「う、うん……そんな感じ」


 自分で言い出しておいて、人に言われるとちょっと落ち込む乙女。


 対して、おうぎは疑問符を浮かべていた。


「それがわかんないんだよなー」


 おうぎが声を荒げる。


「夢も大事だけど、今が楽しければいいじゃん!」


 叫ぶように言ってから彼女は、乙女の方に向き直った。


「乙女は、投扇興やってて楽しくなかった?」


「それは……」


 あの日のことを思い出す。


 投げた扇は思った通りに飛んでいって。


 初めてなのに、高得点が取れて。


「楽しかったよ」


「なら、それでいいじゃん! 楽しいって理由だけでやっちゃダメなの?」


 おうぎが詰め寄ってくる


「え、えっと……」


 あまりの圧に乙女が困惑していると、葵が助けてくれた。


「こら、怖がってるでしょ。無理強いしないの」


 おうぎを下がらせた葵だが、どうしてか乙女に申し訳なさそうな顔を向けた。


「無理に入れとは言わないけど……人ごととは思えないから、私からもいい?」


「な、なに?」


「憧れたってことは、投扇興をやりたいとは思ったのよね?」


「……うん」


「じゃあ投扇興部に入って投扇興をやったら、それだけでひとつ夢が叶ったことになるんじゃないかしら」


「え……?」


 その考えは、乙女の中にはないものだった。


「そんな小さなこと、夢って言っていいのかな?」


 投扇興をやりたい。


 楽しいと思ったことをしたい。


 その気になれば、簡単に達成できてしまうものだ。


 そんなものを夢を言っていいとは思えない。


 けれど、葵は自信満々に頷いた。


「小さくても、夢は夢よ」


 むしろ、と続ける。


「小さいことからコツコツ叶えていったほうがいいわ」


 考え方の違いだろう。


 どこまでを夢と捉えるのか。


 小さい夢を積み重ねるのか。


 大きな夢を目指すのか。


 少なくともそれは、乙女にはなかった価値観だ。


「……そっか」


 だから、彼女は頷いた。


 これまで夢を叶えたことがない乙女にとって、その考え方はとても魅力的だったから。


 その言葉に納得してしまった以上、言うしかない。


 乙女は、二人に向けて頭を下げる。


「あのっ、私を投扇興部に入れてください!」


 この言葉に、葵とおうぎは満面の笑みで答える。


「もちろんよ」


「喜んでっ!」


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