13 憧れには届かない
投扇興との出会いから数日。
「乙女ー! 一緒に部活やろうよー!」
放課後におうぎが勧誘に来るのが、乙女の日常になっていた。
「だ、だからムリだってばーーーっ!」
乙女は慌ててカバンを持って、教室から逃げ出す。
けれど、彼女の足は非常に遅くて。
「捕まえたっ!」
「ひゃあっ!?」
あっさりとおうぎに確保されてしまうのだった。
そうしておうぎと葵のクラスに拉致されるのも、毎日のことだ。
さすがにもう慣れたのか、乙女は落ち着いていた。
「煮るなり焼くなり、好きにしてください……」
諦めたようにつぶやく乙女だが、
「どうして、顔を赤くしてるのよ!?」
「ご、ごめん……同い年の女の子に無理矢理、っていうのもいいなぁって思って……」
「そんなこと思わないで!」
乙女に対して声を荒げていた葵。
しかし気を取り直すように咳払いをすると、おうぎに向き直った。
「おうぎもいい加減にしないとダメよ。無理強いはよくないんだから」
注意されるものの、おうぎに引き下がる気配はない。
「嫌だね。だって納得できないし!」
葵に答えてから、彼女は乙女の正面に立った。
「投扇興、楽しかったんだよね? じゃあなんで入部してくれないのさ!」
「そ、それは……」
言葉に詰まった。
適当な嘘をつくことも考えた乙女だが、それは誠実ではないと思って正直に答える。
「私は、なりたい自分になれないんだもん」
「……?」
おうぎも葵も、どちらも首を傾げる。
わかりやすくするために、乙女は説明を重ねた。
「そんなふうになりたいって思ったり、何かに憧れたりしても、結果を出せたことがないの」
現実は残酷だ。
「憧れたものほど、叶えられない……」
そして、乙女は投扇興に憧れを抱いてしまった。
「おうぎちゃんみたいにカッコよく投げたい……高得点を狙って出せるような人になりたい……そう思っちゃったの」
憧れは叶わない。
これまでの人生で、嫌というほど学んできた。だから、
「私はもう、憧れたものには近づきたくないの」
自分に失望したくないから。
乙女は自分の気持ちを正直に伝えた。
ここまで話せば、二人もわかってくれるだろうと思って。
けれど、おうぎは難しい顔をして首を傾げた。
「えっと……つまりどういうこと?」
「え、えぇ!? ぜんぶ説明したつもりだけど……?」
ビックリする乙女。
それに、葵が呆れた様子で返した。
「ごめんなさい……この子、バカなの」