01 高校デビュー
「高校デビューがしたい」
花里乙女は胸の前で、ぎゅっと拳をにぎった。
彼女を一言で表現するなら――普通。
至って普通。平均的。
どこにでもいる女の子。
背が高いわけでもなく、低いわけでもなく。
体格も平凡で、いわゆる中肉中背。
胸だけは同年代と比べて、ちょっと小さいかもしれない。とはいえ、まっ平らということもなくて。
髪の毛はセミロングとロングの間くらいで、ポニーやツインテールにするでもなく、ただストレートに流しているだけ。
顔だって、特別可愛いということもない。
言ってしまえば、特徴がない。
特技もないし、逆にすごく苦手なこともあんまりない。
強いて言うなら、人付き合いはちょっと苦手かもしれない。
これまではクラスの中でも地味なポジションで。
何かを成し遂げたこともない。
それでいいと思っていた。
でも同時に、もっと何かして輝きたいとも思っていた。
だから――
「高校デビューがしたい」
高校進学をきっかけに変わりたい。
頑張ってみたら何かつかめるかもしれない。
友だちもたくさんできて、高校では人気者になれるかもしれない。
具体的に何をどうすればいいかなんてわかっていない。
それでも何もしないのが一番よくない。
だから、とにかく動いてみよう。
こういうのは初日が大事だ。
入学初日の今日こそ、失敗はできない。
完璧な初日を過ごして、高校生活のスタートダッシュを決めなければならない。
「うん、がんばらなきゃっ」
意気込む乙女。そこで――
「……乙女ちゃん」
彼女を呼ぶ声がした。
この声には聞き覚えがある。
「お姉ちゃん?」
姉として慕っている、いとこの声だった。
「乙女ちゃん」
けれど、その姿はどこにも見えない。
「乙女ちゃんっ!」
声だけが、どんどん大きくなっていく。
加えて、体が大きく揺さぶられた。
「乙女ちゃん、起きて! 遅刻しちゃうよ!」
「――遅刻っ!?」
その単語に、乙女は慌てて飛び起きた。
場所は自分のベッドの上。
目の前には制服姿のいとこがいて。
自分はパジャマのまま。
時計を見ると、もうすぐ家を出ないといけない時間だった。
「うわぁ! 初日から遅刻しちゃうーーー!?」
彼女の高校デビューは失敗に終わりそうである。