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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
1.意思編:2-37話
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9.ほのぼの生活改善



 ニーシアの服装も麻袋では無く、まともな物に変わっている。表情も明るい。動きやすさも違うのだろう。自分も彼女も、衣類を何着か選んで、大きさを調節していかなければならない。

 被っていた麻袋は布に解体して保管しておく、服として利用する必要も既に無い。

 ここに住み着くように物を揃えているので、彼女が逃げる心配はしていない。小部屋の入口に付けていた見張りもやめさせて、ゴブリン達は狩りに出かけた。

 食事の準備で彼女が離れている間にコアルームに入る。

 10429DP

 3日もの間DPを大きく消費しなかったので、随分と溜まっている。物が増えたついでに、部屋も増やしておく。

 ニーシアが使っている小部屋を倍ほどに広げ、通路の反対にも物置として小部屋を作る。

 ダンジョンの入口から見て手前にずらして物置部屋を作成したのは、部屋を出入りする際に彼女の部屋を覗かないための配慮だ。

 コアルームから出て、部屋が広がっている様子を観察する。同時にダンジョンを広げる場合は、それぞれ作業が独立していて作成速度は変わらないようだ。

「アケハさんは魔法使いなのですか?」

 隣に立ったニーシアが自分の部屋が作られる様子を見ている。部屋の壁が無くなった先で土が崩れて消えていく様子は、村で見られるものではないのだろう。

「魔法ってなんだ?」

「えと、火をだしたり、土を動かしたりするそうです」

 ダンジョンも魔法の一種だろうか。

「たぶん、魔法使いだろうな」

 そんなことを考えながら部屋が出来上がるのを待つ。

 土が削れて色の異なる壁が出来上がっていく様子が不思議なのか、覗き気味に見ている。ニーシアの部屋は、衝立を使って仕切れるぐらいの広さにはなったはず。反対側の小部屋は物置として利用する旨を彼女に伝える。


 朝食を終えると、物置部屋に置かれた荷物の仕分けを行う。

 村で回収できた通貨は、草貨が4枚、土貨は200枚近くある。以前から持っていた分を合わせれば、それなりに道具や食料が買えるだろう。

 ニーシアが言うには、村人個人と考えれば金持ちだそうだ。都市へ行って生活用品や食材を買ってもいいが、稼ぐあてが無ければ、いずれ生活が出来なくなる。これについては後で考えておこう。

 農具、工具で良く使う事になるのは斧やのこぎり、釘と木づちぐらいだろう。薪や家具を作る場合や、木を切り倒す場合や木材の細かい加工の際に、これらは使われる。村の家に置かれていた家具は揃えておきたい。

 都市に向かう際は警戒されることが無いように少数で行きたい。村で獣が警戒されていた以上、魔物を都市へ連れ込む事はできないだろう。2人だと夜の見張りも忙しくなるから何か対策を見つけたい。

 ニーシアは食料や調理器具を確認して整理している。自分が手伝うにしても、保存方法や用途が分からず邪魔になるだけだろう。時間があるときに整理の仕方を教えてもらう。

 

 ダンジョンの離れには畑を作っている。植えるものは豆類と薬味野菜ぐらいで、あとは長期保存のために山菜を埋める穴も用意するそうだ。土を掘り起こしただけで、畑を囲む柵も設置していない。

 それと同時にダンジョン内の一角に豆を植えて成長するかも試している。中であれば野生動物に襲われる事も無い。常に光が届く環境で植物が成長できるかどうかは、ニーシアも分からないらしい。早い段階で知っておきたい。

「収穫する前に豆は尽きてしまいそうですね」

「あの雑穀団子を中心に食べればいい」

「薬味野菜が村の畑に残っていて助かりました」

 家以外に畑も盗賊によって荒らされていた。村に来るのが遅ければ、雑草しか目に入らなかったかもしれない。

「収穫するのに手間がかかった分、美味しく食べられるさ」

「一緒に集めましたからね」

 畑に落ちていた豆は、発芽した物も含めて一つ一つ手で集めた。ニーシアが住んでいた村での滞在は、暇が感じられないほど忙しいものだった。

「定期的に山菜取りに行きましょう」

「そうだな」

 ダンジョンから離れると体調が悪くなるため、外出する目的が無ければ引きこもってしまう。ニーシアの提案は自分にとって都合が良い。


 木の加工をしてくれるホブゴブリンはこれから特に忙しくなる。適切な道具が手に入り作業効率は上がるが、欲しい加工品も多いためもう1体召喚する。

 狩りをするゴブリンのために投げ槍は欲しい。木材を掴みやすい太さの棒に加工してから、尖らせた石を先端に取り付ければ殺傷性の高いものができる。ゴブリン達も石を投げる事には慣れているので、訓練させれば槍を使ってくれるだろう。

 衣類片づける棚や木箱といった収納も欲しい。物干しは洗濯用とは別に狩り物を吊るしたり燻製をつくるための分も欲しい。

 後は布が厚く敷かれた寝台の上で眠りたい。床では服が汚れてしまうし、硬い場所に寝転ぶと体にも悪いはずだ。ニーシアは寝具を置く部屋があるが、自分の場合の置き場所に悩む。安全を考えるとコアルーム内に持ち込みたいが、寝具を作ったのに見当たらないとなると、ニーシアが疑問を抱くだろうか。


 洗顔のために木で作られた大きな食器を彼女の部屋に置く。ダンジョンの外まで続く側溝があって排水のために外まで歩く必要がない。作成にDPを消費したが日々の手間が省けるなら構わない。

 ダンジョン内に雨水を溜めることが出来ればDPの節約にもなるのだが。この辺りは雨も少ないらしい。

 水の確保のためにダンジョン内に水槽を作る。飲み水を除いた生活用水にも使える。これは汲み取るための場所を含めても、1m立方ほどの空間で十分だろう。

 数日かけて物を揃えていくとダンジョン内も生活感が増してきた。





「トチ豆もたくさん採れましたし、今日の夕食はいつもより多めに使いましょう」

「肉の燻製も食べきらないといけないな」

 山菜採りの帰りになると、ニーシアはよく話す。村でもこんな様子だったのだろう。

 背負ったかごには緑の物も入っている。

「あそこまで悪くなるなんて想像できませんでしたね」

「また、時間や木の種類を試してみないとな」

「煙はいい匂いでした」

 香りは良かった。肉も薄く切って木に吊るし全体を布で覆って燻してみたが、舌が痺れるような味になってしまった。噛み応えがある分、なおさら食べるのも疲れる。捨てる気にはならないので少量づつ食べている。今のところ体に異常はないが、ニーシアには食べさせないようにしている。意外と飽きない。

「煮込みにいれてしまいましょう」

「怖いから、小さな器で作ってくれ。味見はする」

「味も調節できますから、きっと大丈夫ですよ」

 薄めてしまえば変な風味で済まされるだろうか。すこし味に期待してしまう。ニーシアも料理の腕を試したいのだろう。

 

 山菜取りを終えて、日も暮れ始めるあたりでダンジョンに戻ってくる。明かりも少ないここでは、夜の外出を控えるようにしている。

 いつもならダンジョン内にいるはずのゴブリン達が入口付近にいる。武器や盾を持ちながら、それぞれが距離を保っているのは異常だ。

「どうしたんだ?」

 布を腕に巻いたゴブリンがこちらを見て寄ってくる。腕を引っ張り、首を横に振っている。近付くなという事だろう。


 ニーシアには離れているように言って、ダンジョンへ近づく。

 入口から少し進んだ場所に人が倒れている。

 服は各所が土で汚れて、焦げた跡もある。煙の臭いはしないからここで焼けたわけではないだろう。多く布を使われた衣服だ、触り心地もいい。胸まで届くような燃え色の髪がやや床にひろがり、這いつくばるように倒れているが、健やかに寝息をたてている。体つきからして女性のようだ。

 ゴブリンに指示を下す。

「見張っている間に、縄と布を用意してくれ」

 彼らがこの女性を避けながら物置へと向かう。

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