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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
3.潜伏編:63-93話
88/323

88.帰宅:前編



 ダンジョンから帰った日は忙しい。

 夕方に帰ってきたとしても、道具の整備は欠かせない。最低限汚れを落とす程度でも、道具の耐久が変わるらしい。武具屋で砥ぎを頼んだのは一度しかなく、扱いに慎重なレウリファのおかげで、廃棄する武器は溜まっていない。

 掃除は行うのは、寝台と調理場だけで構わない。寝台と調理場の掃除は楽だ。かけてある布を静かにめくり、外で布を叩けば終わり。出発前に手間をかけるが、疲れを残した状態で掃除をするよりは手間ではない。省略した掃除は、3人の手が要るものの作業時間は短い。

 棚に積もるほこりは、明日にでも片づけておく。

 次にはニーシアとレウリファが食事の準備を始める。

 地下室の入口を開けて、階段を下る。調理場の近くにも食料はあるが、大体は地下に貯蔵してある。乾燥させた野菜や肉、漬け物など、常温で保存できるものは常に量を保つようにしている。

 一階から届く光で地下室の最低限の灯りは確保できている。天井に照明石が埋め込まれているが、明かりを強めるために、魔石を付けた事は無い。

 室内が暗くなる。

 静かに下りてきたレウリファが、一度こちらに顔を向けた。棚から取り出された食料は、抱えているかごに積まれていく。レウリファは数回往復して夕食分を運び出す。

 レウリファが去った後に、自分は配下の魔物に与える食事を持ち出す。


 外の寝床には夜気鳥と雨衣狼がおり、休むように指示していた。

 各々の皿に食事を盛った後、指示をして食べさせる。

 指示を受けた雨衣狼達は、決められた皿に近付く。木の皿には目印として色が塗られており、雨衣狼の首に巻いた布と対応させている。塗装費を払う際には、2人にうかがい許可をもらった。

 水飲み用の桶は共有させているが、餌と同様に分けた方がいいのかもしれない。

 夜気鳥は2匹で1つの皿を使う。食事の回数が多く、少量づつであるため。量を積んで減っている時に足して調整する。始めの内は雨衣狼が横取りしていたらしく、言いつけた後は注ぎ足す頻度が減った。

 最終的に雨衣狼にも夜気鳥の餌を加えているため、横取りは起こらなくなった。餌の原材料は大して変わりないはずだが、食感の違いや、加工次第で好みが変わるのだろう。

 餌の指示はニーシアに任せる事もある。大抵は食事を任せている間が多く、自分が餌の用意をしている。

 食事の間は邪魔をしないように離れて待つ。

 最初に食事を終えるのは赤い布を巻いたルトが多い。雄という事が関係しているかもしれない。性格の上でも、急かし気味であり、撫でられる事は好まないらしい。

 次に来るのは緑の布を巻いたシードになる。目立った印象は無く、撫でる時は避けはしない。受け身というより、気にせずといった性格だろう。食べ残し、毛並みの汚れが少ない。

 黄色のヴァイス、構いたがり。


 配下の魔物は十分働いてくれている。

 襲い掛かられた事は無く、指示に従ってくれている。背く場合でも、指示間違いが多い。指示内容が細かい事が原因の1つだろう。苦労させているが、レウリファとの連携や、指示を練習したいという理由がある。指示する側もされる側も慣れておきたい。

 夜気鳥には警戒、雨衣狼には戦闘の補助を任せている。

 敵の数と大きさを接近前に知る事ができ、戦う準備を整えられる。

 自分とニーシアは戦い慣れておらず、危険な場合は待機や避難を行う。複数いる場合や強い魔物の場合は、レウリファと雨衣狼に戦闘を任せる事に相談して決めた。

 深手を負った事は無い、現状の判断は正しいだろう。小さな傷を数える気は無い。


 後遺症が残る事態になれば探索者を辞める事になる。他の稼ぎを見つけられない限り、数年で餓死するだろう。

 都市を離れて村に住む事は選択肢に入る。村人の結束は強く、よそ者が受け入れる事は無い。村の復興や作成は、知人同士で団結して行われるらしく、事前に準備していなければ難しい。

 都市から村への補助は、交易道の公布と地図の更新が主であり、戦力の斡旋まではされない。干渉を強くしないためや、廃村の損失を被らないという利点があるようだ。

 村主体で行う以上、時期と機会が合えば、村長候補の目に留まる可能性はある。安く雇われても、自衛団の教育係なら立場としては安定しているだろう。資金に余裕がある初期に武力を整えるのは当然の思考だ。

 怪我次第とはいえ、生き残った探索者が歩けない状態という例は少ない。

 加えて、辺境ほど村の新設は多く、王都近くでは十年は記録が無い。

 探索者は問題が起こらない限り、廃れていく仕事だろう。


 個人は別として、探索者という存在は定住者から悪く見える。魔物の駆除には助けられているのは事実だ。それでも接する機会は少なく、気が知れない。

 血濡れ、泥。汚れを身に着け、凶器を抱える姿に近づく者は少ない。探索者同士でもそうなのだ。出会い頭に問題を起こせば、切った殴った、果てには殺傷。一つ噂で三月は避ける。

 王都の探索者はダンジョンに入る事が多い。ダンジョンが無ければ探索者の数を維持できないの状態なのだ。外の魔物を減らすなら、辺境に向かえば良い。魔物は遠くから移ってくる。

 移住するのはダンジョン目当て、と浅慮する事は当然であり事実だ。

 ダンジョンを残すのは最低限の戦力を保つため、貴族様も我慢しているのだろう。

 街の治安を守る衛兵と違って安価な労働力だ。勝手に湧いて、勝手に鍛える。知らない内に魔物を倒してくれれば、顔触れが変わろうと問題ない。


 定住者なら壁の外であっても壁の方を向く、収穫する間でさえ逃げる気を持つ。

 魔物を倒すのは高潔な聖者と英雄、兵士。私たちは彼らを養うだけ耕地を保てばいい。

 壁の外でしか生きられない探索者など不潔で粗野なのだ。それなのに教会は慈悲を与えている。高貴な者たちは何とお心が深いのか。私たちには理解が届きませぬ。

 風刺の詩。さげまれる役として、ほどよい対象は他に無いだろう。


 足に怪我負った探索者を見かけた事が一度だけある。

 助け合いの慣例に従い、救助を行った。応急手当の後で怪我人を荷車にのせ、彼ら仲間を連れてダンジョンを脱出する。組合の施設まで運び、彼らと別れた。

 謝礼金は後で組合に預けられ、受付から知らせを受けた。

 怪我の治療の途中なのか、進むダンジョンを変えたか、年齢も近い彼らは、あれ以来見かけていない。

 同じ顔に出会う事が少ない程度には、魔物も広く活動している。人の関わりを減らしたい、自分には一番適した仕事だ。


 雨衣狼の歯を磨き終えた時には、雨衣狼の毛が服に絡みついている。

 他の洗濯物と分けて、後で毛玉取りを行う。専用の道具を買った事で、大分時間を省いている。毎日であれば専用の上着を揃えたはずだ。洗濯するのは十日に一度になっただろう。

 薄着一枚、雨衣狼からすれば、無いに等しい。長く接していると配下の魔物に対する警戒が薄れてくる。裸で接するのと変わらない以上、水洗いの容易さを考えれば、全裸の方が適している。同居人あるいは隣人から、問題視されるに違いない。

 撫でられた事に満足したヴァイスから離れて、3つの大皿を拾う。

 唾液で汚れた皿を洗った後は、自宅内に片づける。

 台車より盗まれにくいが、色を見て価値を誤解する可能性もある。


 毛玉取りを終えるのが先か、食事の呼び声が来るのが先か。途中の妨害を防ぐためにも、そばにいるヴァイスへ顔を向ける。

 隙を狙うというより、体を見せるために動いているらしい。尻尾も揺れるが、急な動きはひとつも無い。押し留めるために手を出すと、体をよじり擦り付けてくる。膝まですり寄られるなら、作業を諦めるしかない。

 面倒ではあるが、指示を出すほど重要な問題ではなく、ヴァイスが満足するまで撫でる。


 レウリファが庭に現れると、ヴァイスは寝床に逃げていく。指示した以降、毎回このような光景を目にする。

 玄関脇で毛玉取りを手伝ってもらい。ようやく自宅に入る。餌やりの道具を片付け、汚れた手を洗い。居間に戻った。



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