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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
3.潜伏編:63-93話
85/323

85.ダンジョンを知る:前編



 王都の中に唯一存在するダンジョンに向かう。

 地図では自宅と討伐組合の間に位置し、危険地域と示されている場所には、広場が設けられている。

 中央の石壁付近に他の建物は無く、10軒分は遠ざけられているだろう広い道。軽い荷車を押して進む。

 露店も屋台も無い。住民の大半は距離を保って歩いているが、石壁に群れる姿もある。壁に肩や背を預けて座り、寝転がる姿。修繕や洗濯はされていないが、外で夜を越せる程度には重ね着している。

 軽い荷車が音を立てて近づいても、顔を向けられる事は無く、目を閉じている。石壁の入口に寄る者はおらず、向かう邪魔にはならない。

 2度目の鐘が鳴る前だが、ダンジョンに警備は欠かさないらしい。入口には兵士と討伐組合の職員がおり、識別票を見せて立ち入り許可をもらう。付き人は探索者以外でも良いらしく、年若いニーシアでも入る事を許された。

 迷宮酔いを感じる中、門が開かれる。ニーシアが配下の魔物を呼び寄せ、まとまった状態で進むんだ後、後ろの門は閉ざされた。


 石壁の囲む内側、支柱のある木の柵や土壁が中央に向けて設置され、石壁に寄るように建物が数軒並んでいる。

 一番近い建物には討伐組合の看板はあるが、受付だけで酒場は無いだろう。扉を叩くと呼び声が聞こえ、一人で建物へ入る。


 暖かい室内には職員が一人、受付台も小さい。机と椅子は置かれているが座る人はいない。1階の半分が見えている。

「一人か?」

 受付に近づく前に職員の男が声をかけてきた。

「外に2人待たせている」

「それなら良い」

 識別票を受け取った男が書類を取り出す。

「昨日6体だと、今日は多いかもしれないな。気を付けろよ」

 男が奥の部屋へ顔を向ける。

「レクター、予約組が来たぞ」

 奥から返事が聞こえた。

 顔を戻した男に識別票を返される。

「待つ間、中に連れを呼ぶか?」

 受け取って、首にかけた。

「獣魔がいる。外で待つよ」

「そうか、体は温めとけよ」

 男の心配に頷いた後で建物を出る。


 待っていたニーシアとレウリファは体を動かしていた。2人のそばにある荷車に近付き、預けていた盾を身に着け、鞄を背負う。

 剣と盾は過去に殺した探索者たちの持ち物で、以前の装備も予備として荷車で持ち込んでいる。鎧に予備は持ち込まなかったが、壊れる様なら後方待機か帰る。整備や実力が不足している状態で進む気は無い。

 配下の魔物は雨衣狼も夜気鳥も連れてきている。夜気鳥を使う場面は少ないはずだが、ニーシアの言葉で命令できるかの確認にはなる。

 軽く素振りをして留まっていると、先ほど入った建物から武装をした男が現れる。

「待たせたな、今から案内するって事で良いか?」

「よろしく頼む」

「任せておけ、経験は長い。このダンジョンで死んだ奴は数年いないから、安心していい」

 男がこちらを見ると後ろの二人も見ていく。配下の魔物を最後に、こちらへ顔を戻した。

「組む以上、自己紹介はしておくか」

 兜を脱いで顔を見せた男に続いて、自分とニーシアも外す。

「俺の名はレクター、武器は剣だな。他もそれなりに使える」

 レクターが腰に付けた剣の鞘を叩いて示す。兜を持つもう一方の腕は盾を持っている。

 自分とニーシア、レウリファが順に名前と武器を答え、自己紹介を済ませる。

「獣使いの2人は真ん中、俺が先頭でいいか?」

 前衛をする実力は無い。予想していた配置だ。

「レウリファは代案があるか?」

「いいえ、問題ありません」

 レウリファの次、ニーシアを見ると頷きを返された。

「まあ、戦いたくない時は言ってくれ。ここは訓練に適している」

 歩き始めたレクターに続く。


 木の柵を越えると空堀があり、中央にダンジョンの入口が見える。

 王都中を探したとしても他に存在しない、大きな石材から削り出されたような建物。迷宮酔いが無くとも、不審な物に近づく住民は少ない。雨と夜闇を避けられるため、旅の途中なら雨宿りに使う者も現れるかもしれない。

 近付いてみると、中の様子がわかる。

 剣を振り上げる事に不安がある天井と地下へと傾斜。床が濡れていれば荷車は使えなかっただろう。

 ダンジョン手前でレクターが振り向く。

「入口と曲がり角は特に注意しておけ」

 任せきりにならないよう、足音を抑える。中に入ると荷車が揺れる音も小さくなった。

 他の物音に気を付けながら、建物2階分下りる。

 傾斜を過ぎると、奥まで見通せる通路が見える。道幅は4人並ぶ程度で狭い。床や壁の低い位置にある血の汚れや、一瞬感じた獣臭さは、以前の暮らしていた場所とわずかに異なる。

 隙間が見える薄い土を踏んで歩く。

「屍肉漁りだな」

 通路奥から、駆けてくる存在。ダンジョンの資料を読み、出現する魔物は確認してある。

 筋狸と呼ばれる魔物は弱い。

 体格は小さく、最大でも人の4分の1程度。人の足より遅く、衝突で体勢が崩される事は少ない。4つ足にある爪に鋭さは無く、あくまで壁や隙間を進むために使われる。

 威嚇のために持つ牙だけ危険だが、取り付かれなければ問題は無い。小さく弱いという油断で、被害を受けた例があるだけだ。

 荷車を手離して、自分も剣を抜いておく。


 通路の途中に見える分岐でも、逃走と加勢は無い。

 レクターが歩み出る。

 盾と剣は下げたまま、走りくる小動物を蹴った。

 筋狸は壁に当たると、その場に倒れる。

 駆け寄ったレクターが胴を踏む。

 筋狸は尻尾と足を振り、もがく。

 踏み付けている革靴に、噛みつかれる危険はあるが、取り付けられていた金属板が以外にも補強があるのかもしれない。

 レクターが持つ剣が振れ、叩いたような音が響く。

 毛皮の意味も無く、気絶したのか筋狸の抵抗が止まった。

 姿勢を落としてからレクターが離れる。

 筋狸に動く様子は無い。


 レクターは胴衣の収納から布を取り出し、剣の血を拭き取っている。

 剣を鞘に戻してから、荷車を押す。

「帰りに積んでくれるか?」

「わかった」


 隊列を戻すと、筋狸を横切って進む。雨衣狼達も死体に構わずについてきた。

 目が疲れない明るさが広がっているため、正面の通路に魔物がいない事がわかる。

「視界は確保されているが、何も無い場所から、魔物が現れる」

 前を向いたままのレクターが語る。

「さっき倒した魔物もおそらくそうだ。昨日もダンジョン内の魔物は狩りつくした」

 説明された内容は資料と違いは無い。

「外と違って安全な場所は少ない。不寝番が役に立たない至近距離に現れた事もある」 

 隙を作らないとなると、数日留まるような広いダンジョンに入れなくなる。食事や睡眠、排泄といった生理現象は防げないし、守りも薄くなるだろう。

「通り穴があるでもない。壁や床を布で覆う程度では防げない。何にしても長居する場所ではないな」

「出現を防ぐ方法は無いのか?」

 間を突かれたような声をレクターが出す。

「良い質問だ。確実ではないが、出現を防いでいるだろう方法は、いくつかある」

 あいまいな。急に表れる事は少なく、確かめる術が無いのだろう。

「簡易的な拠点は無駄だが、分厚い素材で囲えば抑えられる。天井と壁、もちろん床までな」

 荷物が多くなって運搬道具が要るなら、少人数だと難しい。

「他にも拠点を床から浮かせる事で防げる。木の上で寝たりするのも有りだな」

 落ちて怪我をする危険はあるが、寝る間に襲われるよりは対策できる。

「軍だと専用の魔道具で防いでいるらしい」

 魔道具の大きさはしらないが、拠点を組むより利点があるのだろう。

 壁外での野営と比べ、安全の確保が難しいという事は分かる。

「知っているのは、このぐらいだな」

「教えてもらえて助かった」

「そのための講習だからな。生きて帰るのが一番だ」

 魔物の見えない通路を進む。



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