表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
3.潜伏編:63-93話
80/323

80.王都の朝



 鐘が鳴る前でも変わらない王都の景色。城壁が囲む、並ぶ屋根をこの数日見ている。街の人混みから離れ、城壁に届く高さがある、この場所から見える空は広い。長く暮らしていれば、アンシーが言う街並みの変化を楽しめるようになるだろう。

 旅を終えて余裕が生まれた今は、好きな時に景色を見渡し、疲れるまで訓練を行う。

 準備運動を終えてから見ると、ダンジョンに暮らしていた時より、社会に近寄ったという実感が湧く。


 寝台を離れる時は、両隣の2人を起こさないように、静かに身を動かす。物音を立てないように注意して体を動かすため、靴を履く時には眠気が消えている。

 武具を抱えて庭に出ると、手軽な動きをして体を慣らす。


 ダンジョンに暮らしていた頃は、レウリファと配下の魔物に頼り、来る脅威を排除していた。

 探索者として活動するという事は、ダンジョンや壁外を攻める側になる。自分が狙われる事は当然ある。

 レウリファと並んで戦う技量は無いため、戦いの場では、助けが来るまで持ちこたえる事を優先する。敵を分散させて配下の魔物に攻撃させる。ニーシアも同じような役割になるだろう。


 雨衣狼達に訓練相手を頼んでいるが、一体が相手でも守り切れていない。

 先ほどまで相手にしていた赤色のルトは、突進を絶え間なく行うため、こちらの体力が尽きる。小休憩では抜けない疲れが溜まり、避けるの動きが悪くなる。

 黄色のヴァイスは回り込む動作が多く、向きを変える仕草が来るまで目で追いかけておく。

 緑色のシードは騙しを加えてくるため、無駄な動きを誘われて隙を突かれている。

 個性がある戦い方を、首に巻いた布の色で覚えた。

 疲労具合に違いがあるが、選り好みせず順番に行うつもりでいる。


 噛みつきを禁止したのは正しい判断だった。手加減されたとしても訓練初日に大怪我をして死んだはずだ。

 人間大の体は止められず、雨衣狼の突進は避ける他ない。盾でそらす事に集中するため、持っていた木剣を休憩時に拾う事が多い。

 良く叩かれる足は、実戦では噛みつかれた状態になる。足に怪我を負えば、逃げられず体勢も整えられない。足を砕かれた時点で餌同然だろう。


「助かったよ。ルトは休んでくれて構わない」

 頭は避けて撫でていた手を離すと、ルトは寝床に向かって歩く。2体と合流すると庭を駆けまわる。訓練では満足に動けないのかもしれない。

 地面から立ち上がって、手を払う。

 訓練を終えた辺りから、こちらを遠く見ていたアンシーが歩いてくる。討伐組合で寝起きしていると一度は考えたが、同じ庭で暮らしていたようだ。

 隣に来たアンシーが向きを変えて、青い髪をこちらに揺らした。

「一体欲しいくらいだね」

「譲るつもりはないぞ」

 落ち着いた声に同じように返す。

「見るだけで我慢しておこう」

 こちらに顔を向けてくる。

「そうだ、アケハ。排泄物が見当たらないけど、どこにある?」

 アンシーが庭を見回す。庭に撒くような事はしていない。

「寝床の裏にある、穴で処分している」

「見に行っても?」

 少し声を高めて質問してくる。

「構わない」

 先に歩いて、アンシーを連れていく。


 寝床の裏にある排泄場所。少し縦長に掘った穴の周囲には汚れが見える。

「ここでさせている」

「覚えが早いな。それに、……無い」

 穴まで数歩のところまで進み、体を傾けたアンシーが止まる。

「アケハ、もしかすると現物が手に入らなかったりするかい?」

「そうだな」

 穴に入れたアメーバ達に処理させているため、現物は無い。

 体勢を戻したアンシーがその場から下がる。

「アメーバに処理させていたのか。これは仕方がない」

「必要になるなら残しておこうか?」

 アンシーが考える仕草を見せ、最後に頷く。

「いや、止めておこう。野生というわけでもないから、そこまで重要でもない」

 野生の個体であれば欲しかったのか。

「あくまで趣味だから、気にしないで良いよ」

 うつむいた後、落ち込んだ声を出して、顔を背ける。

「どんな趣味なんだ?」

 振り向いたアンシーが抑えるような声を出しながら、近寄ってくる。

「ここだけの話だが、……実は私、絵が好きなんだ」

 服に入れた手が動いてみえる。

「もっぱら描く、公開はめったにしない。おかげで探索者でも同士が少なくてね、作品の感想に飢えている」

 取り出された、鉛筆と手に収まる大きさの紙。

「よければ、自宅にある作品を見ていかないかい?」

 覗き見た白紙には、名前と自分を連れていく旨が書かれていく。

 書置きを用意するほど、連れていく気があるらしい。

「わかった。見に行こう」

「よし、気が変わらない内に向かおう」

 こちらは武装をしたままだが、気にしないらしい。

 アンシーが扉に書置きを差す間に、盾を外して壁に立てかける。待っていたアンシーに案内されて、自宅を離れた。


 アンシー宅は同じ庭にあり、建物の大きさも形も似ている。

「ようこそ、アケハ。来客は何年ぶりだろうか」

 扉を開けたアンシーが建物の中に入ると、中の照明が光る。

 玄関に入ってすぐに見える、首に黄色の布を巻いた雨衣狼の模型。背骨辺りの黒い毛あるため雨衣狼である事は確かだ。ただ、黄色の布まで用意する必要はないと思う。

「雨衣狼の模型だよ。ヴァイスを見本にした」

 アンシーは毛並みに逆らうように触れている。

「つぎはぎしていて、本物は一切使われていない。毛質も似たものを選んだよ」

 手を離したアンシーが奥へ歩く。

 歩く両脇に並ぶ棚。上段に仕切りがあり、下段に引き出しがある。

 仕切りの中には、こぶし半分ほどある魔石が飾られている。形状も違う、青から色味が離れたものまである。引き出しにも魔石が仕舞ってあるのだろうか。

「魔石を集めているのか?」

「趣味というか、癖というのか。まあ、かなりの数はある」

 魔石に巻き付けてある紙には、名前らしき文字が書かれている。

 自分が今まで見てきた魔石は、大きくても親指程度でおそらく質も劣る。並ぶ魔石のどれか一つを売るだけでも、宿屋の個室に数日泊まれるほどの価値があるはずだ。

「種類ごとに1つは残すようにしているから、棚が足りなくなるかもしれない」

 部屋に出たアンシーが中央に机に手を置く。椅子も机も使い込んだ跡が見える。

 机の上に一枚置かれた紙には、植物らしきものが写実的に描かれている。描きかけだが、見本は近くに見当たらない。

「ええと、何を見せようか」

 机の背後に側面を見せて並ぶ棚。間に入ったアンシーが紙を数枚だけ抜き取ってくる。抜き去った後の棚から紙がはみ出ている。

「大衆に受けが良いのは、こういう魔物かな」

 机に並べられた紙に描かれた1種類の魔物。鉤爪のある広い翼が目立つ、鱗をまとった生物。内の数枚には骨格や筋肉、魔石の位置とその形状まで細かく描かれている。説明まで書かれているため、絵ではなく資料だろう。

「飛竜の一種だね。物語ではお姫様をさらうために登場させる事がある」

 絵の脇に人型が描かれており、人間の十数倍の体格を持っている事がわかる。空を飛んでいれば目立つ大きさだ。

「国を滅ぼした存在、なんて言い伝えがある。真実なら人間は滅びているけどね」

 言い伝えを否定できるのは、飛竜の情報を持っているからだろうか。

「この飛竜を見た事があるのか?」

「もちろん。何度も逃げてきたよ」

 解体図まで描かれているが、討伐したとは言わないらしい。想像で描いたものだろうか。

「アケハは会いに行かない方が良い」

「会いに行けるものなのか?」

 素人の探索者が見つけられるなら、討伐組合で話題になるだろう。

「私がこいつに出会った場所だからね。個体を選ばなければ確実に会えるよ」

 アンシーは机に設置されている照明を、指で押して遊んでいる。金属の関節があり、照らす位置を動かせるものらしい。天井の照明だけでも部屋は明るいとは思う。

「王都で確認されているダンジョンの1つ。落とし穴、底の大地なんて呼ばれる場所だね」

 王都から4日歩いた距離にあったはずだ。

「組合の資料と似た説明になるけど、聞くかい?」

「頼む」

「よし、言おう」

 後ろ髪を手で払ったアンシーが机へ体を預ける。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ