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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
3.潜伏編:63-93話
74/323

74.王都の住宅紹介:前編



 3つ目に紹介される物件は、地区の中でも平地側に位置する。

 この地区とその周辺では、舗装された道は少なく建物にも囲まれていない。周囲の自然な地形を覚えておけば、迷う事は無いだろう。

 街灯がないため夜は暗いそうだが、照明を持ち歩く事は大した手間ではない。


 向かい間に高さもわずかに下がり、数回ほど柵のある曲がり道を通った。

 比較的傾斜が強い場所では、地形を削って整形された、くぼみに収まる道が作られている。道の両側には靴一つ分ほど段差はあり、柵が無い場所でも、荷車が勢い余って落ちる事を防いでくれるかもしれない。


 つづら折りの道の途中の折り返しに来ると、石敷きの道から外れた砂利道を進む。

 奥まった先に平地が広がっていた。身長程度の崖を背にした平地には建物がある。

 平地は縦長で、奥行は城壁2つ分あり幅のその半分はある。斜面を切り開いたような広い平地だが、背後の壁には自然な岩の凹凸が見えている。

 入る道も狭まっており、山の傾斜に背中を預けたこの場所は、そばの道や上の傾斜から覗かれない限り、生活の様子を見られる心配はない。平地の中であれば他人を気にせず獣魔を遊ばせる事ができるだろう。

 2軒ある建物は共に崖側で、距離を離して中央と奥に建てられている。

「最後の一軒はこの手前の住宅だね」

 手前には平屋根で2階建ての住宅がある。

 一階部分、自分たちがいる方向には屋根が飛び出ている。その中に玄関扉があり、脇の屋根が伸びている空間は車庫に使えるだろう。

 二階は平地側の3分の1ほど切り取られた形をしており、手すりと物干し台が見えている。

 王都の景色を望む両開きの窓が、それぞれに階に複数見えている。早朝でも照明に頼る必要は無いだろう。

「さあ、中も確認してみないか」

 ニーシアとレウリファに追いついたアンシーの案内に従って建物に近づく。

 建物から飛び出た屋根は、玄関を含めて建物の端まで続いている。

自分たちが持つ中型の荷車なら2台とも収まる空間、その壁際には石レンガで組まれた薪棚が設置されている。

 アンシーが扉の手前に来た自分たちに振り向く。

「照明石を使われているけど、魔石が無い場合でも玄関の位置が分かる程度には光るから、整備の面倒も少ないよ。家の中も案内しよう」

 扉を開けて中に入るアンシーを見て、獣魔を外で待機させた。

 建物に入ると土間が横に広く伸びている。

 入ってすぐ横の床に、木板が並べて敷かれていた。

「アケハ。その下は地下収納になっている。後で見るから今はこっちに来てくれ」

 アンシーたちが見ている場所は調理場で、外に薪棚があった辺りの壁には収納棚が並んでおり、かまどや勝手口がある。

 かまどは同時に3つの火が起こせるもので、背後の管が壁に届いているため、煙を浴びる心配もない。

「管は簡単に取り外せるから掃除が楽でね。あえて煙を留めれば暖房や防虫にもなる。排気口で燻製を作るなら先に管の掃除をすると良いよ」

 アンシーが勝手口の外に誘導して、排気口の場所を示してきた。

「勝手口は排水や薪の補充が楽になる。それ以外にも崖の脇に川の分水があってね。食べ物を冷やせる」

 アンシーが建物の横、身長程度の崖まで近づいてしゃがむ。

 崖に沿って作られた溝には水が流れている。アンシーの辺りは溝が大きく作られており、食べ物をかごに入れたまま冷やす事が可能だ。

「水は冷えていますか?」

 ニーシアがアンシーに寄る。

「もちろん、触ってみると良い」

 ニーシアは並ぶようにしゃがみ、水へと手を伸ばした。

「この地区の水は他より冷たいですね」

「建物も少ない分、脇道や利用が少ないからね。この溝は川から直通しているから、汚れる事も少ない」

 すくった水を指の隙間から落としたアンシーが、手拭いを取り出した。

 受け取ったニーシアが濡れた手を拭う。

「建物に届いている水道とは別だけど、水質は変わらないよ」

 返された手拭いを戻して、アンシーが立ち上がる。

「次は地下室だったね」

 勝手口から土間に入り、正面を奥へ進む。

 玄関のすぐ脇にある、地下室の入口は木板で塞がれている。近くの窓を利用する際に、誤って落ちる事を防ぐためのものだろう。

 取っ手を掴んで持ち上げて、厚めの木板を脇に立てかける。

 地下へ降りるための階段がある。

「暗いから足元に注意してね」

 アンシーが先に降りるとそれに続く、

 角を曲がると収納棚が両側に並んだ部屋に着いた。

「ここが地下収納だよ、入る時は照明を用意しておいてね」

 照明石が魔石無しに光る様子が見える。天井からの薄暗い明かりは、足元までは届かない程度で、身の丈はある棚の上数段しか見えないだろう。

 地下室への入口から届く光がなければ、顔の区別も付かないかもしれない。

「使わない物や光に弱い物を保管しておくため場所だね」

 地下室は棚で狭くなっているが、途中で入れ替われるだけの幅がある。

「排水能力は弱いね。水物はこぼさない方が良いよ」

 建物の壁材に広く使われる凝固土は、頑丈で雨水も染み込みにくい。

 地下室の壁に触れた時に滑らかな表面に気付いたが、これは地中の湿気を防ぐための塗装かもしれない。

「見どころはもう無いから、次は上に行こう」

 アンシーが明るい方、階段に向かった。

 地下室から出たところで、木板で入口をふさぐ。

 土間から板間へは中央を除いて壁で仕切られている。

「これが食卓だね」

 建物の中央に4人席の食卓がある。

 建物外に崖や小川がある側は、壁が近く、別の部屋があるだろう。

「壁の奥は、更衣室と浴室、便所がある」

 アンシーが奥の階段より、手前を示す。

 近寄ると通路があり、扉が二つ並んでいる。

「手前が更衣室。奥が便所だね。更衣室の奥には扉で仕切られて浴室がある」

 アンシーが棚が置かれた更衣室を進み、

 靴を素早く脱いだアンシーが浴室へと入った。

「浴室を使う場合は靴を更衣室で脱ぐけど、面倒だったら入口から覗くだけでいいよ」

 ニーシアとレウリファが靴を脱ぎ、自分も脱いで浴室に入った。

 手のひら大の石が敷き詰められた床が目立つ空間だ。壁の一角には管が飛び出している。

 腰掛けと桶が残されている以外には、何も物が置かれていない。

「板間よりも水が使いやすいから、体を洗う場合や雨の日の洗濯場所に使える。水を使った後は滑りやすくなるから注意した方が良い」

 そう言ったアンシーが窓の近くの管を指さす。

「水道があるから、水を運ぶ手間も省けるよ」

 壁近くの管、拳程度に太い場所があり、取っ手がつけられている。

 アンシーが取っ手を握り、動かすと水が流れてきた。

「一度にでる水量は少ないけど、桶に溜めておけばいい。お湯の場合は調理場で作って運ぶ必要があるけどね」

 アンシーが取っ手を戻して水を止めたる。

 床に落ちた水は、部屋の隅に流れて溝に落ちていく。

 アンシーは広がる水が靴下に触れる前に、その場から離れた。

「靴を履いたら便所を見よう」

 アンシーが便所がある辺りの壁を軽く叩く。

 水を使う場所がまとまっているため、整備も楽だろう。

「とは言っても宿屋とそう変わりないけどね」

 通路に戻り奥の扉を開け、交代で便所を覗く。

 水を溜める桶や拭き物を置いておく木箱がある、宿屋と変わらない便所だった。

 少量の水が常に流れているため、汚れも付きにくい。



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