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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
1.意思編:2-37話
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7.たき火の集まり



 雨も二日ほどで止み、ニーシアを道まで連れていくことになった。腹切りねずみと夜気鳥を連れて森を進む。

「動物と言葉を交わせるなんて変わった人ですね」

 ニーシアに言われるまで気にしていなかったが、魔物に命令する時はニーシアに内容が伝わらないみたいだ。あれだけ形が異なる魔物達が同じ言葉で従うもの変な気分だ。ダンジョンから生み出される配下は言葉を教わっているのだろうか。

 自分の元に戻ってきた夜気鳥を再び飛ばす。この辺りでは見ない種類と言いながらニーシアは鳥と触れ合っていた。ダンジョンは近くに住んでいる魔物を連れてきているという事では無いのだろう。

 配下たちの合図を確認しながら道が見える場所まで歩いていく。

「村なら半日で行けそうです」

 道に着いた時にニーシアが言ったが、自分の位置は途中で気付いていた可能性もある。

 他の人間に出会うこともなかった。雨を避けるために道を使わなかったと考えるべきか。都市の方から来る人も今は少ないのだろう。

「道のこちらを進んでいけば村に着くと思います」

 指して進む方向を示す。

「洞窟に帰ろう、村に向かうのは明日だ」

「はい」

 道を離れてダンジョンへ帰る。急ぎの予定も無い。

 村までの遠さを確認するという目的を達成して、気が楽になっていた時にニーシアが立ち止まる。

「アケハさん。途中にある食べ物を持ち帰っても構いませんか?」

 麻袋を着たニーシアがこちらに体を向ける。

 ゴブリンが外で獲物を得るなら、自分も周囲で食べられる植物を探した方がいいだろうか。

「好きにしていい」

「摘み終わるまで、少し待ってください」

 ニーシアは麻袋をめくりあげると、片手で端を掴んで場所を作った。何かの植物を摘み取るとその空間に置いていく。元の麻袋は彼女が収まる大きさだったため、歩きやすさのために多少を短く切っていても、物を置くことができている。

 彼女のために何度か止まりながらダンジョンまで帰る。


「ここに帰ってくると何だか落ち着きます」

 ダンジョンの入口に戻ってきたときに話し掛けてくる。逃げ出さないか警戒していたが無用だった。ゴブリンから借りた剣も、一度も使われずに、ベルトにある留めにしまわれている。

 ニーシアを小部屋まで連れて行く。部屋に置かれている腰かけは、ホブゴブリンが木を加工したものだ。村に道具が残っていればもっと細かい加工もできるだろうか。

「食事の準備をするなら呼んでください、味を整えられます」

 村娘からすると、ここで出す食事は美味しくないらしい。少しでも改善したいのだろう。時々食べる、焼きねずみは良いとしても、餌の方は自分も不味いと断言できる。ゴブリン達も、この2日は狩りに出ていないから、味に飢えているに違いない。ニーシアから調理法を聞き出して、食べられるものを増やしていこう。

「暮れになったら呼びに行く、それまでは休んでいてくれ」

 明日はニーシアが住んでいた村へ向かう。村に盗賊がいないとしても、運び手としてゴブリンを増やしておくべきだろう。長時間の移動なので、休憩を多く挟み2、3日かけて往復するつもりだ。


 夕食のたき火の集まりにはニーシアも加わっている。夕暮れの中、彼女は目の前で料理を作っている。雑穀団子のような、いつもの餌を石台の上で切ったり千切ったりして、小さな実のいくつかを砕き振りかけている。火の傍に置いて木べらで動かしながら焼いている。

 ニーシアが最初に食べて、納得した味だったのか頷いた。

「アケハさんもどうぞ」

 葉の皿にのせられたそれは、普段の味に塩味と僅かに酸味が加わっており。ずっと食べやすい。はっきりとした塩味は、このダンジョンに来てからは始めてだ。

「肉なんかの保存に使われる木の実をまぶしてみました。あと口直しにビフレの実があります、種は捨ててください」

 ニーシアが切ってかじってみせる、切り口には繊維質な白い果肉がみえる。切り分けた物を食べてみる。気持ち程度の甘みで、噛んでも残る果肉は、確かに食事の最後に食べたくなる。

 周りを見るとゴブリンたちも調理された餌の方を食べている。調理前の餌よりも食べる勢いがある。

「調理してもらえて助かったよ」

「今はこのくらいですが、道具と食材があればもっと美味しく作れます」

 ニーシアが村に行く事を勧めた理由だ。食事に飽きないためにも調理法を増やした方がいいし、食材も探せるようになった方がいい。

 ニーシアが作ってくれた食事も終えて、たき火の薪も燃え尽きる頃になる。

 この頃になるとダンジョンの外は暗く、気温も低くなる。ダンジョンの外に光が漏れないように土を盛っておいてよかったと思う。

 ダンジョンの前を監視するために壁の一部は隠していないため灯りができているが、この近くに人間の住処も無いので問題ないだろう。

「アケハさんは、何故この場所に住んでいるのですか?」

 ニーシアはこんな外れに住んでいることを気にしているようだ。確かに、道も遠く食材も限られる、この場所は生活には向いていない。

「自分でもわからない、気付いたらここにいたんだ」

「変わった人ですね」

 自分のように魔物を連れている人は少ないのだろう。そんな人でも魔物を連れて都市に住み着くのだろうか。

「そうかもしれない」

「私はここに来れて良かったと思います。もしアケハさんに助けてもらえなかったら、聞いた事も無いぐらい酷い扱いを受けていたはずです」

 盗賊たちはニーシアを都市で売ろうとしたのだろうか。人売りの制度があるのか、あるいは強制労働させるのか。実際に行ってみないと分からない。

「それなら助ける事ができて良かった」

「私も出来る限りのことはしますから」

「そうしてくれると助かる」

「はい」

 料理も食べた事の無い味だった。何が食べられるか判断できない現状では、村で住んでいるニーシアの知識が頼りになる。

 最期に残った自分とニーシアがたき火の跡から離れてダンジョンに帰る。明日は村に行くので早く寝た方がいい。

 ダンジョンを少し進むと、1体のゴブリンが武器を身に着けて座っている。

 自分が寝ている間でも侵入者に気付くように、交代で見張りをさせるようにした。侵入者に気付いた場合は見張りが叫んで、ダンジョン内にいる他の魔物が襲いかかるという形にしている。小部屋までの通路で配下たちが眠っているが、彼らが実際に起きてくれるかは試したことがない。隣を歩くニーシアも眠っている彼らを見ている。

「あの、アケハさんは何処で眠っているのですか?」

「この通路の最奥だ」

 ニーシアがコアの方を見ている。

「小部屋にいる私の方が快適なのでしょうか?」

「そんなところだ」

「私は守ってもらえているんですね、……おやすみなさい」

 少し笑った後に優しく言われる。ニーシアが小部屋へ入っていく。

 彼女の姿が見えなくなった所でコアルームに入る。

 DPの表示も最初に見た値に戻ってきている。

 8520DP

 コアルーム内に映るダンジョンの様子を見ながら、配下の召喚を行う。

 ゴブリンが3体をダンジョンの入口に新たに生み出す。荷物運びや盗賊との戦闘をさせる。村に行っている間の守りは、ねずみ数匹とホブゴブリンにまかせるつもりだ。

 外出中の食料の用意も終えている。ダンジョンに残る配下は自分の好きな時に食べることになる。

 最後に小部屋内を監視すると、ニーシアが寝ているのが見えた。

 明日は早くから行動することになる。今日の疲れが残らないように早く眠りたい。

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