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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
1.意思編:2-37話
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6.初めての交流



 男たちから手に入れたものを確認する。武器は配下に渡したが、それ以外はコアの収納機能で預けてある。

 特に気になったのが、硬貨らしき、絵が刻印された金属。異なる絵柄があり、外周に文字のようなものも刻まれている。これがこの辺りの通貨なら、価値だけは知っておきたい。

「ルクス通貨の土貨、草貨ですね。それともう1つ木貨があります」

 気を取り戻した少女に、これらの質問をした。

「私の村では土貨と草貨を使っていて、村長しか木貨は持っていませんでした」

 土貨20枚で草貨1枚といった具合で価値が釣り合い、草貨から木貨でも同じく、草貨20枚で木貨1枚が等価であるらしい。彼女の村では土貨と物々交換で、ほとんど済ませていたそうだ。


「貴方の事は何と呼んでいいですか?」

「アケハでいい」

 久しぶりに名前を聞かれて、明かるげな口調の精霊を思い出す。

「アケハさん、私を村に連れて行ってもらえませんか?」

「村に帰すつもりはない」

 少女を生きて帰せば、この場所を言い広める可能性がある。

「いいえ、村に調理道具や食材が残っているかもしれないので」

 外に向かわなくても、ダンジョン食材は手に入る。

「獲物も長く保存できた方がいいと思います」

 与えた食事は、ダンジョンから生み出したものであるため、保存の必要が無い。ダンジョンの事は知らないのだろう。

「場所はわかるのか?」

 この場所から逃げ出すために、村を勧めてくるのかもしれない。

 今いる部屋は出口が1つで隠れる場所は無いが、外に出られると逃げられる事もあるだろう。逃げる方向も様々で、木々で隠れる事もできる。

「ここがどこか分かりませんが、道まで連れて行ってもらえれば、多分大丈夫です」

「今度、道まで連れていこう」

 村の場所を知っておけば、少女が逃げ出す方向もわかる。逃げた少女が村から戦力を連れてくる場合でも、村の方向に間違えて進む事がなくなるだろう。

「それと村についてですが……」

 彼女の村は盗賊の集団に襲われたそうだ。村の外に逃げようとして捕まった時には、村の中は血と死体で溢れていて。村を完全に盗賊に乗っ取られていたらしい。

「盗賊は何人いたんだ?」

「……最低でも30人はいたと思います」

「少し考えさせてくれ」

 明らかに戦力が足りない。村を襲うぐらい武器を持っているなら、数を増やしたところで対応できないかもしれない。そもそも、数をそろえるほどDPに余裕がない。それら維持する必要がある、となると難しい。

「でも、都市が近いので盗賊は住み着けません」

「都市があるのか?」

「はい、村から2日ほどで辿り着きます。私も洗礼の歳なので、連れて行ってもらうはずでした」

 盗賊が立ち去っているなら、焼かれでもしない限り、何かしら村に物が残っている可能性はある。金も少ない現状では安く済ませられるなら、それに越したことはない。盗賊なら農具を残していることもあるだろう。あるいはかさばる衣類なんかも。

 物を揃えるために都市に向かう際に、少女が麻袋を被っている姿では目立つだろう。

「一度、村と都市までの距離を確認してから、向かうか決める」

「ありがとうございます」

「あと洗礼について教えてくれ」

 この辺りの風習は知らないので致命的な失敗をしそうだ。

「12歳になると教会で洗礼を受ける決まりでした。洗礼後に自分の印が手の甲に浮き出るそうです、村の大人も大体浮き出ていました」

「少しの間、待っていてくれ! 印について聞きたいことがある」

 手の甲、殺した男はどうだったか。

 小部屋から出て男2人を調べる。こちらに剣を投げてきた男の手に印が浮き出ている。木の板に炭で印を書き出して小部屋に持っていく。

「この印はどういうものなんだ」

「どこで見かけたのですか?」

「お前を麻袋に詰めて運んでいた男たち、おそらく盗賊だ」

 少女の視線が揺れたのを見た。

「これは戦士の印だったと思います」

「戦士か」

「はい、力が強かったり、戦闘することに長けている人だったのではないですか?」

「そうか」

 横にいた小柄な男は、この印を持つ男が死んで戸惑っていたのか。

「この印を持っていても、畑を耕す人もいたので、必ず強いわけではないと思います」

「ありがとう。教会では厳しい決まりがあったりするのか?」

「村の人は洗礼の時以外では行くことは無いみたいです」

 村の人と語れば問題があっても誤魔化せそうだ。


「その洗礼が凄く凄く痛いみたいで、良い男が泣くのは洗礼と親の死だけ、という言葉もあります」

 少女の口元が優しく緩んでいる。

「悪いことをすると洗礼の痛みが増すぞ、なんて婆たちによく言われてました。水の入った桶を倒したときなんて、その日中、言われ続けました」

「そ、そうか」

 早口になった少女がこちらをまばたきせずに見ている。

「はい! それで洗礼に行くときは一緒にいてくれませんか?」

「ああ、わかった」

「約束ですよ」

「ああ」

「洗礼をみんなでいくと、洗礼の痛みを分けてくれるそうです」

「うん?」

「あはは、いえごめんなさい」

「いや謝らなくていい」

 勢いに押されて頷きを返してしまう。とりあえず、洗礼は村で良く知られている事はわかった。


「そういえば、お前の名前を聞いていなかった」

「ニーシアです、シアと読んでください」

「ニーシアだな」

「はい、アケハさん。それと盗賊から助けていただき、ありがとうございます」

「ああ、勝手に監禁している側ではあるが、いろいろ教えてくれてありがとう」

「これからもよろしくお願いします」


「それで、あの、アケハさん?」

 ニーシアが僅かに戸惑っている。

「どうしたニーシア」

「お花摘み……いえ、排泄は何処ですればいいでしょうか?」

 小部屋の中でする事は考えてなかった。この部屋には今は何も置いていない。

「案内する、付いて来てくれ」

「できれば早めにお願いします」

 雨でも出来るように用意していた通路の途中にある便座を示す。座れる高さの丸太、内部を底近くまでくり抜き、アメーバを詰めてある。重たいが、傾けて転がしながらここまで運んだのだ。

 これからは他人に見られないように衝立でも用意した方がいいだろうか。それとも最初のように外で済ませるか。

「ここですか?」

「ああ、葉も水も用意してある」

「この底にあるものは何でしょう?」

「臭いを抑えてくれる」

「わかりました」

 入口側に離れてからニーシアが済ませるのを待つ。自分が外でしていた時は野生動物がいるか警戒しながらだった。ダンジョンの中でする際も配下に気配に慣れるのに時間がかかった。

 彼女の場合は近くに武器を持った複数の知らない存在がいる中で行う事になる。恐らく慣れないだろう。

 雨が止んだ次の日には、ニーシアを連れて道へ向かわなければならない。約束通りに村へ連れていくまでに、魔物達に慣れさせておく必要がある。ひどく怯えるようなら2人で向かうことになるが、逃げられる事を考えると難しい。村や都市に行く際にはニーシアに気付かれない、目立たない魔物を連れていきたい。

 他の魔物も確認しておくべきか。


 ニーシアを奥の部屋に入れた後は、コアルームに戻ってダンジョンの地図を確認する。

 100mの直線の先に小さな小部屋。数日に渡って外出するなら、少しは広げるべきだろうか。

 自分以外はダンジョンを操作できない。定期的に配下や食べ物を呼び出すことができるから、食料の問題は大丈夫のようだ。予め食料を出しておいても腐らせることはないだろう。

 ゴブリンたちの訓練している音が聞こえる。コアルームからも命令できたりするのだろうか。

「ゴブリン達、一旦訓練を止めてくれ」

 ダンジョン内が少し静かになる。

「ありがとう、訓練を再開してくれ」

 コアを触っている間はダンジョン内に命令が下せるようだ。ダンジョンを広くなったら場所ごとに異なる指示ができるか試してみよう。

 遠出の際に便利になりそうな魔物をダンジョンから生み出す。

 手の上に留まる灰の外見、細長い体に、開くと倍ほどの大きさになる羽。

 次に外出する時は夜気鳥を連れて行こうと思う。ねずみと比べ、移動移動が速い分、広い範囲の状況確認ができる。速い分、見落とす可能性もあるが、進路が決まっていれば大した問題にならないはずだ。

 夜気鳥を2羽呼び出した後、鳥を解放させる。ダンジョン内に太い枝でも置いておけば休憩場所になるだろう。

 ダンジョンの留守番はゴブリン達に任せることに決める。

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