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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
2.逃亡編:38-62話
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58.雨宿りの昼



 道が見える距離で野営の準備をした。

 視界をさえぎるものが近くに無いため、警戒をするには良い場所だ。

 組み立てた屋根のおかげで、雨漏りはせず、雨水は両側に流れ落ちている。雨避けの布を始めて使ったが、良い買い物だった。

 3本の支柱に縄をかけ間に布を張った、2つの屋根はそれぞれ四隅の穴に紐を結んで地面に固定されている。

 布の穴周りは蝋で補強されているため、多少の風では破れない。破れた場合も縫うか、新しく穴を空けて使い続けられるだろう。

 2つの屋根の間には隙間があり、火の粉が移る心配も少ない事も良い。

 体長が人間一人に届くほどある雨衣狼達も一緒に、屋根の下で寝られる広さがある。


 ダンジョン跡を出発して6日。

 長い移動を考慮して休憩を増やす、というレウリファの提案に助けられた。

 身体に染み着いた疲れが今以上ならば、旅を諦めていたかもしれない。

 道の凹凸、荷物の揺れ、荷車の持ち手についた汗、これらは許容できた。

 だが、着衣によって体の動きが妨げられ事が気になり、革鎧は当然、服や下着まで脱ぎたくなっていた。

 レウリファには疲れが見えない。隠しているか、元々無いかはわからないが、獣人が人間より優れている事は知っている。

 ニーシアは自分と同様に疲れが見え、武具を脱いで、寝転んでいる。

 雨と疲れ。昼から休む事を気にする者はいないだろう。


 城壁の外を歩いていた時点で雨になる気配はあった。雨に濡れれば道も悪くなり、移動の疲れが増すため、普通の旅人であれば雨が過ぎるまで都市で滞在する。

 雨を避けて都市や村を移動すべきだが、避けられない理由があった。

 魔族の警戒をしている聖女に見つかる事や、検問でダンジョンコアを見られる事を避けるために都市クロスリエに入りたくなかった。

 その結果、村に着く前に雨が降り、疲れで長い休憩が必要になった。

 都市を越えてからは旅人の姿は減りだしていた。そして今、自分たちの他に野営をしている姿は見えない。

 国の中央に繋がる主要道であるのに、人の姿が一切見えない。魔物の被害が多い地域では、壁の無い所で休む人間も少ないだろう。

 脇道を進めば廃村があるはずだが、整備されずに壁も崩れているだろう。魔物の領域に近いため、盗賊さえ定住しない。そんな場所だ。


 配下の魔物も含めて、たき火を囲むのは久しい。

 食事や狩りといった生活習慣の違いで、一か所に集まる事は少なかった。

 こうして旅をすると、一緒にいる時間も増えるという意味では気持ちがいい。

 雨衣狼達の毛並みを櫛で整えた事も新しい。汚れも思ったより少なかったが、後で毎回、櫛をお湯で洗っている。手櫛で済ませる自分が櫛を持っていて良かった。

 そんな雨衣狼達が首に巻いている色布は、レウリファの提案によるものだ。旅人に野生の生物と勘違いされないように、という理由がある。

 赤、黄、緑、と異なった色布を付けさせたため、生物の本来の特徴、と考える者は少ないだろう。

 夜気鳥の方は、襲われても脅威に見えない大きさであり、飛ぶ際に邪魔になるため付けていない。

 アメーバは、樽に詰められたままだ。食事としてダンジョン産の餌などは与えている。

 雨衣狼が餌を食べる頻度は少ない。一度に食べる量は多いが、日に一度あるか無いかという程度だ。

 ダンジョンで生活していた時はゴブリン達の獲物を分け与えていた。

 今は肉に飽きているのか植物を好む。調理をしているニーシアに近づき、身を伏せて高く弱い声を出して、野菜の端切れを貰っていたりする。

 道中で一度だけ、魔物の群れに出会った。遠くまで追い払ってもらい、最後は口に咥えて運んできた獲物を分け合って食べていた。

 鮮度が落ちやすい生肉も、途中で買う事を考えていた。検問がある都市でもニーシアとレウリファに頼んで買いに行ってもらう事もできる。

 食費を節約してくれるのは都合がいい。

 夜気鳥もダンジョン産の餌、雑穀団子を食べてくれている。体格の小さい彼らの食事は少ない。


 問題があるとすれば、配下の魔物とは別に、一体いる鳥だろう。

 雨が降り始めた時に飛んできた深紅の鳥。最初に出会った時、この鳥が落とした大きな羽根は、今もニーシアが持っている。

 出会ってこれで3回目になるが、逃げる様子もなくニーシアのそばで休んでいる。

 縮めた体でも人間の頭より大きく、翼を広げれば片腕を越える大きさになる。

 本来は襲われる危険もあるため、知らない生物を近寄せる事は避けるべきだ。だが、ニーシアの言葉にも従っていたり、言葉を理解している様子が見られた。

 野生の生物のように襲い掛かってくる可能性は低いだろう。

 先ほど、ニーシアが水を拭きとる間も素直に従っていた。

 監視にしては無駄が多い。

 離れていても目立つ体の色、近寄る行動も露骨で、こちらが無駄に警戒している気がする。

 元は誰かの獣魔だったのだろうか。

 ニーシアが撫でていても避けていない。


「レウリファ、次の村までは大体2日距離か?」

 レウリファはあぐらをかいて休んでいる。

「はい、おっしゃる通りです。石碑も2つ通り過ぎたので、村までは2つになります」

 遅い歩みでも、出発して3日目の夜には村へ到着するだろう。

 わだちや足跡で道はわかるが、距離を確かめる目印が少ない。

 周辺地図には太い脇道しか書かれていなかったため、1日距離ごとに設置されている石碑だけが頼りだ。林の中を進むよりは楽だ。

 道の方に顔を向ける。

 草が生えない道は、雨に濡れて泥道に変わっているだろう。雨が止んだ後も乾くまで時間がかかる。ぬかるみに足を取られないように道から離れた場所を通った方が良いかもしれない。


 目的地の方向から現れる大きい馬車、10台前後が連なる周りには人の姿もある。

 あの規模であれば、天候はもちろん、多少の魔物は関係なく移動が可能だ。

 馬車の見た目が揃っているため、複数の商人が集まったものではなく、一人が率いているのだろう。

 馬車の側面には見覚えのある紋章が描かれている。

「商隊……、とは違う。何か知らないか?」

「馬車の紋章や白を基調とした色合いは、光神教の関係でしょう」

 円の右上に、横線が1つ入った小さな円がある紋章は光神教のものだったようだ。

 都市クロスリエの方へ向かっているのは、魔物の襲撃で教会が壊れた事と関係があるのだろうか。

 あるいは、聖者が魔族を探しにいった事で都市に残された聖女を迎えに行ったか。

 光神教の事を調べる時間が無かったので、正しい事はわからない。

 魔族を倒したという噂があるので、怪しい存在である自分は近付かない方が良い。

「これだけ雨が降っていれば、都市の牧場も臭いが抑えられているか」

 都市の壁外、道から離れた場所にある牧場は、害獣対策に複数の柵で囲まれていて、その中で様々な家畜が自由に動き回っていた。

 最初は牧場の臭いに驚いたが、鼻も慣れてしまい、服に臭いが残る以外は気になる事もなかった。

 自分と違って住み慣れた人間なら、臭いに驚く事は無いかもしれない。

「ご主人様?」

 レウリファの方から弱い困ったような声が聞こえて、振り向いた。

 首を傾けて力の無い、気の抜けた顔をしている。

「どうかしたのか?」

 首を振りレウリファが元の顔に戻る。

「……いえ、何でもありません」

 目が細められ、頬が少し上がっている。

 優しそうな笑顔をしてきたレウリファに、こちらも笑顔を返す。



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