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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
2.逃亡編:38-62話
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57.ダンジョン放棄



 翌朝には雨も止み、ダンジョンを離れるための準備を始める。

 客人がいる間は、監視や情報を知られないために、侵入者の遺品整理もしていない。

 3人の獣人奴隷を所有していた事からも予想はしていたが、あの主人は金持ちだった。所持金は探索者を合計よりも多く、聖光貨も1枚だけだが見つかった。聖光貨が使えないとしても、王都までの道中で金に困る事はなさそうだ。

 加えて運んできた荷物の質も良く。今と比べると、王都では良い生活ができるだろう。

 それに調理が必要ない保存食は持っていて損が無い。便利な調理道具があるかもしれないと期待したがそれは無かった。


 地面の湿りが減ったのを確認して、ニーシアとレウリファを連れて畑に行く。

 都市から帰ってからは山菜取りをしていないが、それ以前に得ていた植物は畑に残してある。

 畑の植物はニーシアと一緒に掘り起こして、種類ごとに集めていく。

 食べない部分を切り落としたり、天日や火を使って乾燥させてから袋に仕分ける。

 使い切るつもりで余っている薪をたき火に与え続けながら、レウリファが持ち運べる形に加工する。

 途中で自分とニーシアも加わり、出来上がった物から、順に荷車に積み込んでいく。

 畑の一部にあった柵も、薪として消費されていた。

 作業を終えて遅めの夕食を食べた後は、身体を休ませた。


 訓練はせずに早めの朝食を食べる。

 外は晴れていたが、最後の食事という理由で、ダンジョンの中で食事をした。広場にあった運べない家具を運び込んでいたためでもある。

 ダンジョンの収納機能で保管しておけば、取り出す事も不可能ではないかもしれない。ダンジョンを放棄した事で収納した物が消えたとしても問題ない。荷車には最低限の生活ができる物がのせてある。


 ダンジョンを放棄した際に壁や天井が崩れる事を警戒して、安全のためにコアを入口に移動させる。

 壊したコアを持ち帰った探索者がいるので崩壊の可能性は低いが、壊した場合と放棄した場合で結果が異なるかもしれない。

 荷車をダンジョンから離れた場所に停めて、武装をしたレウリファに荷車を守らせる。

 ニーシアにはダンジョンを操作できるか確かめてもらう。

「ニーシア来てくれ」

「はい」

 一緒にダンジョンへと歩く。

 入口にあった壁は壊してあり、通路に作った畑が見えている。

「ダンジョンのコアに触れてみてくれ」

「いいのですか?」

 ニーシアが顔を上げてこちらを見てくる。

「確認したい事がある」

 ニーシアはコアを見て手を伸ばした。

 コアに触れた、ニーシアが止まっている。

「何か変わった事はあるか?」

「いいえ。ただ、冷たくて表面が滑らかですね」

 ニーシアが台座とコアの境目に指を当てたり、コア表面を広く触っている。ダンジョンの操作ができる様子ではない。

 次はニーシアをコアルームに連れ込んで確かめる。自分が操作できる事を知ったのは、コアルームの中でコアに触れた時である。

 ニーシアの手を持って、コアに触れる。

 反抗する相手にはダンジョンの事を知られたくないが、何か有効な使い方を探すためにも相談できる相手が欲しい。

「視界が変わるけど驚かないでくれ」

「はい」

 コアルームに入り、見慣れた壁に囲まれた空間を見渡す。ニーシアも顔を動かして周りを観察している。

 10124DP

 コア自体にDPが溜められているなら、王都で暮らしを整えられるように、使い切らない方が良い。

 ダンジョンに置かれた家具を収納させる。

 収納した食料が傷む事は知っている。外に放置する事と変わらず。傷みやすい果実で試した時は色が悪くなった。途中で取り出せない可能性があるため食料は収納しない事に決めている。

 時間をかけてDPが消費されていき、ダンジョン内の家具が次々と消えていく様子を見る。

「えっと、アケハさん?」

「どうかしたのか」

「ここで何をするのですか?」

 ニーシアにはダンジョンの様子が見えないのだろうか。

「ニーシアは、この部屋がどう見えているんだ?」

 見回しながらニーシアが答える。

「自分の部屋より少し広くて、……ダンジョンのコアが中央にあると思います」

 首を傾け、困ったような顔をする。

 ニーシアにはダンジョンの様子が見えないようだ。

「そうか」

 コアルームから出て、ダンジョンの入口に出現する。

「ダンジョンが崩れる可能性があるから、レウリファのところまで離れてくれ」

「はい」

 ニーシアが離れてから、手を伸ばしてコアに触れる。

 ダンジョンの放棄をした。視界の先が暗くなる。

 先からこちらへと明かりが一気に消えて、通路の奥は見えなくなった。通路の途中に植えた豆は、水も光も与えられず、育たなくなる。

 台座の固定が無くなったコアを抱え、2人の方へ向かう。

 広場に進むと、頭痛や吐き気など、慣れている不快感が表れた。ダンジョンを放棄した瞬間に一気に感じる、と考えていたが違うようだ。

 壊れたダンジョンでも、迷宮酔いの効果が残っているのだろう。

 ダンジョンコアに人間を誘い込む効果が無いのは都合がいい。道や村で他の人間に出会う場合に、怪しまれなくて済む。

「大丈夫ですか?」

 ニーシアが声をかけてくる。

「問題は無いみたいだ」

 ダンジョンを操作してみようと思ったが、コアルームにも入れず、収納した物を取り出す事はできない。

 ダンジョンは作成できるが、DPを消費する可能性があるため、試す事はしない。

 DPは確認できた。

 荷車で運ぶ間は、他人に見られないように、布に包んで隠す。

 ガラス細工やダンジョンコアといえば検問も通れる可能性はある。

 嘘でも真実でも、高価で目立つ可能性があるため、検問がある都市には寄らない。

 王都では検問の避けようがない、あきらめる。


 3人は、武装を身に着けている。

 遠出をするため必要な事ではあるが、今から使う用事がある。

 離れた場所、配下の魔物たちが止まっている。動こうとしても身動きを取れないようにしてある。

 雨衣狼は手足や口を縄で縛り、地面に転がしてある。

 夜気鳥は麻袋に入れてある。

 命令に従わない可能性を考えて準備はしていた。こんな対応をすれば獣使いとは思われない可能性があるが、ニーシアとレウリファには、ダンジョンを操作する瞬間を見られているので心配は不要だ。

 動かないように命令いていたが、ダンジョンを放棄した後も待機しているようだ。あるいは攻撃の機会を待っている。

 比較的安全そうな夜気鳥を先に解放する。

 麻袋の口紐を緩めたが。襲われる事がない。

 中に手を伸ばす事はせずに、袋の口を広げてから、命令する。

「夜気鳥は、袋から出ろ」

 羽ばたけないのか、跳ねて袋の表面に形が浮かび、歩いて袋からでてきた。

 夜気鳥は2羽とも地面で止まっている。

「飛んで、あの柱へ行って、戻ってこい」

 地中から伸ばしていたダンジョンの柱へと飛んでいき、すぐに戻ってきた。

 ニーシアとレウリファの方を見る。

「命令は従ってくれるみたいだ」

 かさ増し食材、もとい雑食系の動物用の餌を食べる機会が減る。

 配下の魔物の分も荷車にのせてある。少しなら美味しいが、こればかりになると口が疲れる。

「良かったです」

 ニーシアが答え、レウリファは頷く。

 雨衣狼の3体は、1体ずつ拘束を外して命令して確かめた。

 餌をあげたり、走らせたり。

 問題は無かったため、道中で魔物に襲われても多少は戦えるだろう。

 人間には獣魔と紹介して、離れさせなければ問題ないだろう。

 アメーバは樽に詰めてある。

 命令を聞いているか確認できないが、樽を分解する様子はない。


 配下の魔物を試したところで、ニーシアとレウリファを見る。

 ニーシアは洗礼を受けて仕事を得れば、都市クロスリエで住む事もできる。

 こちらの事を口外しなければ、ここで分かれてもいい。口外されたら逃げるしかないが。

「ニーシアは付いてくるのか? ここでの生活を口外しなければ解放できる。都市の近くまで送って、所持金も分けても良い」

 顔が止まる。すぐ後に見開いたニーシアが、

「アケハさんには、命を救ってもらった恩があります」

 拳を握って、答えた。

「それに王都の生活でも役に立ちたいです!」

 革鎧を片手で叩かれた後、ニーシアに抱き着かれる。

 ダンジョンを失った後に配下の魔物は命令にしたがってくれたが、ニーシアには強制できない。

「ありがとう、ニーシア。いてくれると助かる」

「はい」

 腕をニーシアの革鎧にまわして、抱き返す。

 ニーシアが離れた後に、レウリファの方へ体を向ける。

「レウリファには――」「護衛として。付き従います」

 レウリファはひざまづいて、頭を下げる。

 命令しようとしたが、自分から言ってくれた。

 奴隷であるため解放はできない。奴隷店に頼む場合も、他の主人に移るだけだろう。

 奴隷から解放する方法があったとしても、洗礼が受けられず表の仕事は得られない。捕らえられるか、逃げるだけだ。

 捨てる事はできない。

「レウリファの力を借りるよ」

「お任せください。ご主人様」

 こちらを待つようにレウリファの動きが無い。

「立ち上がってくれ」

 風を起こさないように立ち上がり、目を開けたレウリファと視線が合う。

 首輪がある。共存が続けられるように警戒は欠かせない。

「王都に向けて出発しよう」

 同じ境遇の人間を知らない以上、手探りで生活を改善していくしかない。

 ニーシアやレウリファ、配下の魔物を連れてダンジョン跡を離れる。



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