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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
2.逃亡編:38-62話
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56.切れない関係



 食事を終えると食事の後片づけをする。

 雨が降りそうな天気のため、広場の道具をダンジョンの中にしまう作業も待っている。

 人手が減ってしまうが、レウリファには休ませる事にした。

 普段より時間がかかると考えていたが、客の2人の手助けで早く終える事ができた。

 後は雨を待つだけになり、ダンジョンの通路に設置した、食卓と腰掛けで休憩をする。

 ダンジョン内を暖めていた、たき火も消えて、ダンジョンの明かりだけになる。

 確認していないが、外も暗くなっているだろう。

 正面に座る2人はこちらを見ている。


 都市の状況について、分かった事は少ない。

 彼女たちは何も知らされず、何も知らなかった。

 ダンジョンに向かう事も、周りの会話を盗み聞きをして知ったらしい。

 普段は屋敷の中で暮らし、布をかけられ、気付けば外。

 主人の命令でここまで荷車を押した。

 ただ、それだけだ。


「もういいのか?」

「はい、アケハさん。今までありがとうございました」

 机の上に並べてある、陶器で作られた小さな容器が目立つ。

 探索者の荷物にあった鎮痛薬だ。容器自体に印が書いてあったがレウリファに匂いを確認してもらった。

 それぞれの前に置かれた温かい茶は、まだ飲み始めたばかりで、湯気が見えている。

 食卓の隅にある水差しには、数杯分の茶が残っている。

「手助けは必要か?」

「いえ、自分たちで行います。ただ、監視と後片付けをお願いします」

 自死をするために2人は武器を持つ。

 抵抗を受けても対応できる者を選ぶべきだが、逃げるだけなら自分でも可能だろう。

 魔法や想像もできない何かを使われたら難しいかもしれないが、雨衣狼に助けてもらいダンジョンに閉じこもればいい。入口に壁を作り閉じこもれば安全になる。この理由であれば、DPを消費してもいいだろう。

 2人は時間が経つだけで首輪によって殺される。

 首輪が締まる事自体が嘘だとしても、都市に向かい戦力を連れてくる頃には、自分たちはここを離れている。途中で出会った探索者が協力する事が無ければ問題ないだろう。

「俺が見届けるよ」

 ニーシアもレウリファも、顔を向けると頷いてくれる。

「改めて、お願いします」

 相手と目を合わせて確認をする。

 配下の魔物が減って、客人もいなくなる。すぐに忙しくなるが、それまでの間は静かになる。侵入者に気付きやすくなるが、住人が減った事を実感してしまうはずだ。

 十分に準備をしてから、ダンジョンを出た。


 先を歩く彼女たちの自死に使われる道具は、荷車にのせている。ダンジョン内で襲われる事は防ぎたい。

 死体の運搬や武器を洗うために、布と水も用意してある。自分は雨具を着て雨に備えている。

 雨衣狼2体には護衛をさせる。残り1体はダンジョンの防衛をまかせた。

 緊急事態に備えて夜気鳥も2羽とも連れている。周囲の警戒もそうだが、有事にはレウリファに早く状況を伝える事になる。怪我をかばえる状況ではないだろう。

 雨は降っていないが薄暗いが、広場に伸ばしたダンジョンの、柱の明かりはまだ見えない。

 解体場の近くで足を止める。

 DPを得るために一度はダンジョンに戻すが、血の汚れを洗いやすい場所を選んだ。

 荷車から離れて、後は彼女たちに任せる。


 鎮痛薬は先に飲み終えている。

 剣を持つと、荷車から離れていき、場所で向かい合って立つ。

 頷いた2人。

 「テフ!」「エノファ!」

 互いが迫り、首へと振った。


 再び、客人の元へ向かう。

 風が見える細かい粒の雨は、今日一日は止みそうにない。

 死体は濡れ、服や地面には血の汚れが染み着いている。

 剣を落とした後に、2人の首から血があふれ散り、それぞれが流血を止めようと両手で首を押さえ始めた。

 片方が地面に倒れると、もう片方も膝をついたすぐに崩れ落ち、もがいていた。

 自分は2人の勢いがなくなるまで、遠くで観察していた。

 途中で雨が降り始めたためダンジョンに戻り、流血が弱まるのを待った。

 剣の血を落として、荷車に置く。あとで拭いて乾かす必要がある。

 死体を動かしてみたが、首から血が大きく流れる事はない。もう運んでも大丈夫だろう。

 血が染み着く服は一緒に処分する。

 布を敷いた荷車に死体をのせてダンジョンの入口に運んだ。

 通路手前で服を着替えて、中に汚れが入る事を防ぐ。肌に付いた臭いは防ぎようがない。

 ニーシアとレウリファが座って待っていたが、コアルームに入る瞬間を見られたくないため、部屋に入ってもらう。

 食卓に置かれた水差しには、熱の逃げた茶が残っていた。

 飲んで嗅覚をなおしてから、ダンジョンのコアに触れてコアルームに入る。


 死体によってDPが増えるまで待つ。

 配下の魔物が減ったためDPの増加も早くなっている。 

 人間を除いた、魔石を持たない生物ではDPの増加はしない。

 人間の死体の場合は、周辺の魔物よりもDP増加が大きい。ダンジョンを操作する人は、人間を殺す事に利益があるため、優先して狙うだろう。

 討伐組合に管理されているダンジョンは、探索者を相手にしてDPを稼いでいるのだろうか。

 探索者の死体で得られるDPは、殺すために必要な魔物を生み出すには足りない。探索者が大量に殺される場合には、討伐組合が対策をするはずだ。

 大きなダンジョンでは自然増加するDPの量も異なるのだろうか。


 DPが増加した。自然増加ではないようだ。

 ただ、増加した量が人間よりも少ない。

 狩りの得た魔物と同程度。

 コアルームからダンジョン内を監視する。

 ニーシアとレウリファ、配下の魔物たちは生きている。他の存在は見えない。

 入口には死体が2体、壁にもたれてさせてある。

 死体をダンジョンに置いた事で増えたDPだろう。

 確信するために普段より待ってみたが、自然増加以外にDPが増えた様子はない。

 コアルームを出る。


 ニーシアとレウリファに告げてから、自分がダンジョンの外に向かう。

 荷車を使って、死体を解体所まで運んだ。

首輪を無理に外す場合は苦痛を与える魔法が発動するが、奴隷が死んでいるため、その心配は必要ない。

 胴体と頭が離れた後は、使役の首輪を回収する。魔道具であるため売る事もできるだろう。

 主人ではない自分だと指輪も首輪も操作する事はできないが、奴隷商店なら再利用する方法も知っているはずだ。

 頭を割って中身を樽に落としてから、さらに砕いた。

 透けた青色の結晶。

 女獣人の頭には魔石があった。

 大きさも同程度の体格ものと変わらないようだ。

 獣人は魔物だ。

 もう一人の頭でも同様に魔石が見つかったので、男獣人の中にもあったのだろう。既にアメーバに与えたので魔石は手に入らない。

 魔物とはいっても、自分と似た形の生物を解体する気は起きない。

 死体を廃棄処理の穴に投下して、アメーバに分解処理をさせる。

 雨のおかげで臭いが抑えられているため、穴の近くで留まっていられる。離れたところから、死体が見えない程度の深さの穴だ。

 身体が冷え切らない内に、道具や荷車を洗ってダンジョンに帰る。

 魔物の生物である事に変わりはない。雨衣狼たちの身体も拭いておかないと寒いかもしれない。

 ダンジョンの入口で、汚れや水けを落とした後、自分は着替えた。

 通路の奥ではニーシアとレウリファの2人が座って休んでいる。

 たき火が付いていて、近づいて確認すると、お湯を作っているようだ。

「終わったよ」

 火の番をしているニーシアは途中からこちらを見ていた。

「そうですか。お疲れ様でした」

 後はダンジョンを放棄して離れるだけになった。まだ準備も残っているが、難しい作業はないだろう。

「ご主人様……。温かい飲み物は、お飲みになりますか?」

 レウリファは、こちらから一番離れた、腰掛けに座っている。

「レウリファ……、そうだな、身体を温めるために飲みたい」

 食卓の腰掛けも3つに戻っていて、客が使っていた片側が片づけられていた。

 ニーシアが座りやすい手前の椅子は空けておく。



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