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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
2.逃亡編:38-62話
49/323

49.信頼



 寝過ごした。冷え込んだ空気は既になく、寝台から出る気力はある。

 上半身を起こそうとすると、片腕に重りがある事に気付く。体を横に向けて、布団をめくるとニーシアが眠っていた。

 寝過ごした事はない。横の寝台では、同じく眠っているレウリファが見える。

 布団を遠ざけたためか、ニーシアが身をくねらせる。みだれた寝巻から肌が覗いていて、寝巻の紐がほどけている。下半身だけ下着を履くという事は聞き逃していたかもしれない。

 ニーシアに布団をかけ直して、寝台から離れる。

 体を軽く動かして眠気を抜いている間に、二人も目を覚ましていた。

 サブレが呼びに来たので、食堂に行き食事を済ませる。

 部屋で出発の準備をした後は、馬車で討伐組合の近くまで送ってもらった。ダンジョンの件をどのように処理するか、オリヴィアには答えを返せていない。それでも馬車の中でも気にせずに話し掛けてくれて、気が楽になった。


「また会おう、君たち」

「ありがとう。オリヴィア」

 馬車を降りたオリヴィアと言葉を交わす。サブレもニーシアから離れてオリヴィアの元へ帰っていく。

 討伐組合の宿泊所に向かい、預けていた荷車を持ち出す。鍛冶屋で修理された農具を受け取った後に、食料を買い込みに行く。

 積まれた食料によって、水を溜める樽が端に追いやられている。水を考慮しなければ、直接王都へ向かう事が可能な量だろう。

 布を買い足す事を提案すると、レウリファが雨避けの布も一緒にすすめてきた。荷物を濡らさずに済み、雨宿りの場所も作る事ができる、長期の移動には必須な道具らしい。布に果実の油脂を染み込ませてあり、臭い移りも少ないという店主の演説を聞いて。雨着も買い揃えた。

 日の中頃には、都市を出て帰路につく。

 山積みになった荷車だが、行きほど重くない。都市を出た時点で決心はできた。ダンジョンを諦めた事になるが嫌な気はしていない。

「王都に行く際の道案内は頼むよ」

「お任せください」

 レウリファは資料館でも国の地図を見ていた事に加えて、使用人になるために教えられているそうだ。自分だけでは王都までの道のりに確信が持てなかったので助かる。道から外れない限りは目的地にたどり着けるので、道の分岐を間違える程度なら大した問題にならない。

 都市周辺を探索者が調査するとオリヴィアが教えてくれたが、道を歩く人が増えた様子もない。ダンジョンに調査が来るまで余裕がある。数日はダンジョンで過ごしてもいいだろう。

 日を越した夜にはダンジョンに着く。ダンジョンの周辺では、迷宮酔いと呼ばれる、心地よい感覚を覚える。ダンジョンの内部に入り、この感覚に溺れたくなる気持ちもわかる。

 配下の魔物もダンジョンの入口から出てくる。都市の滞在中に探索者は来なかったようだ。

 ニーシアはダンジョンを壊す事を知っているが、荷車をダンジョンへ運んでいる。物置部屋に残っていた食料は部屋の端に寄せてあり、離れた場所に今回買い込んだ食料を置いていく。

「明日は畑の様子を見に行こうか」

「はい、きっと以前よりも育っています」

 荷下ろしを終えてニーシアが夕食の準備を始める。荷車に食事に必要なものをのせるとダンジョンの外に向かった。

 日は落ちて外は暗い。調理する手元を明るくするには、たき火やオイルランタンでは足りないだろう。

 調理をするニーシアの元までダンジョンを伸ばしてみよう。ダンジョン自体が、薄明るい光を常に放っているので、調理場の助けになるかもしれない。ダンジョンを壊す前に、溜まっているDPも使い切っても構わない。周囲の監視をするための案だったが、単なる照明器具になってしまった。

 ダンジョンの最奥にあるダンジョンのコアに触れて、コアルームに入る。

 8761DP

 ダンジョンのラインを伸ばすだけなので、DPを使い切る事は無い。

 食料として魔物を生み出す事も可能だ。縛って餌をあげていれば長く生かせる。旅の間は肉を得る機会も少ないだろう。

 ニーシアのいる場所は、ダンジョンの壁から監視ができる。ダンジョンの地図で距離も分かっているため正確に照明を設計できるだろう。

 ダンジョンを地中に細く伸ばし、食卓の辺りで柱を作成させる。距離があるので完成まで時間がかかるので、地表に柱が作られる前に、ニーシアに伝える事もできるだろう。最小の大きさで伸ばしたため、消費DPは小部屋ひとつで済む。


 ダンジョンを伸ばす事が可能なら、縮める事も可能ではないか。操作方法を探してみると縮小も可能で、ダンジョンの放棄も可能だった。

 台座からコアを取り外せるなら、別の場所にダンジョンを作れる。


 2人と相談するために広場へ向かう。

 身長より高い柱が周囲を照らしている。たき火が消えた後でも足元が見えるだろう。

 ニーシアが、食卓に置かれた鍋に具材を刻み落とした後、こちらに振り向く。

「おかげで明るくなりました」

「それなら良かった」

「あの、アケハさん。まだ、作り始めたばかりで……」

「腰掛けに座って待つよ」

 手伝おうとしても邪魔になる。

「ありがとうございます。近くに誰もいなくて不安でした」

「レウリファはどこにいるんだ?」

「さっきは林の手前にいました」

 ニーシアの腕が示した先は暗く、レウリファを見つけられない。

「警戒するために明かりから離れるそうです」

「ここだと明るさに慣れてしまうからな」

 護衛をしているレウリファの事を、逃げていないか疑ってしまう。

 ニーシアは調理を再開する。荷車が普段よりも近い位置に停めてある。

 たき火に鍋が並ぶ頃に、武装をしたレウリファが戻ってきた。

「ニーシアさん。手伝いましょうか?」

「レウリファさんは座って休んでください」

 レウリファが隣に腰掛ける。林から戻ってきた時と違い、足音を抑えている。

「周囲から目立っていたか?」

「はい、離れる際は布で隠すべきでしょう」

 レウリファも同じ考えか。今後は目印にならない遠い場所に設置すべきだろう。その場合は複数設置しないと死角が広い。

 星が見える空も暗く、広場を囲んでいる林も輪郭しか見えない。食卓の真ん中に置かれたオイルランタンの火が見える中、3人で食事をした。

 食事を終えた二人をうかがう。

「ダンジョンを諦めなくて済むかもしれない」

「本当ですか?」

 ニーシアが声をあげる。

「今のダンジョンを放棄して、新しく作る事になる。最初は部屋も何も無いが、時間をかければ今の大きさにする事も可能かもしれない」

 自分たちだけで守る事になるが、十日ほどで小部屋を作成できるDPが溜まる。

「王都にダンジョンを作るのですか?」

「まだ、何も決めていない。二人には悪いがダンジョンのコアは売りたくない。王都に行ったとしても人間らしい生活が出来ないかもしれない」

 魔族の疑いがある自分の身を守るために、力を残しておきたい。

「私はアケハさんに付いていきますよ」

「レウリファはどうしたい?」

「ご主人様の意思に従います」

 レウリファも反対する事はないようだ。

「二人ともありがとう。明日以降に、また相談してもいいか?」

「はい、いつでも声をかけてください」「かしこまりました」

 ニーシアには食事を頼り、レウリファにも戦力を頼っている。自分は住処を提供できている。逃げられるニーシアに、殺せるレウリファ。自分も魔物と首輪で二人の命を狙える。そんな関係でも生活を維持できている。

 会話を終えると3人で食後の片付けをして、眠る準備をする。

 荷車をダンジョンに戻した後、再び広場に戻る。たき火を消しダンジョンの柱に布をかぶせて隠す。布から漏れているが、他の人を引き寄せる明るさではないだろう。



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