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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
2.逃亡編:38-62話
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41.頂点



 魔道具屋の店員に調べてもらったが、探索者の遺品に魔道具は無かった。

 遺品の中にあった武器を使う事ができるようになったので得はしている。

 魔道具屋にいった後は、壊れた農具の修理を鍛冶屋に頼みに行った。こちらは数日後に取りに行けばいいだろう。


 預けた素材の買い取り額を確認するために討伐組合に向かう。

 丸一日後には鑑定が終わっていると説明を受けたが、まだ半日程度しか経っていない。鑑定が終わっていなければ、市場で時間を潰すか部屋で休めばいい。ニーシアもレウリファも特に用事は無いと言っていた。

 討伐組合の本館に入って手前の受付に向かう。討伐組合に登録した時に対応してもらった人だ。

「生きていたのか。長く離れるなら、先に言っておいてくれ」

「素材の売却額を受け取りにきた」

「識別票を見せてくれ」

 首にかけていた識別票を手渡す。

「少し待ってろ」

 男が受付の奥の扉に入っていく。

 隣にいるニーシアとレウリファが着ている革鎧の傷は少ない。近くの武具店で買ったものであり、商品の中でも高いものでは無かった。

 後ろを向くと並んでいる掲示板が見える。依頼の張り紙がまばらに貼られているが周りに探索者の姿はない。

 奥の酒場では円卓が等間隔に並べられた状態になっている。夜になれば騒がしく食事を楽しむ様子が見られるが、今は気配も痕跡も見つからない。

 端の方に装備を付けた数人が座っている。

 扉が開く音がしたので振り返ると、男が書類と袋をもって受付の席に着く。

「溜め込んだ分、初心者とは思えない稼ぎだ」

 男が手にしている書類の内容はこちらから見えない。

「墓守熊も近くまで来ていたか、ここら一帯の魔物が増えたのはつらいな。大物を狩れているとはいっても、お前たちも気を付けてくれよ」

「わかった、心に留めておく」

「そうしてくれると管理する側も助かる」

 こちらの顔を見た男の口がゆるむ。

「これが買取額だ、受け取ってくれ」

 識別票と一緒に手渡された袋の中には、ルクス通貨が入っている。

「草貨28枚と土貨51枚だ。ここで確認していくか?」

 後から気付いた不足分が補填される事は無い。男の目の前で確認した方がいい。

 受付台には低い仕切りがあり、他の探索者が覗かないようになっている。

「素材ごとに留めてあって職員が喜んでいたぞ。初めの内はそういった事まで気が回らないからな」

 素材を紐で縛ったのはレウリファだ。おかげで保管や積み下ろしが楽だった。討伐組合側も都合がいいのか。

 袋に入っていた通貨も数え終わったので、積んでいた通貨を袋に戻した。

「外で長く活動するなら、勧められる依頼が無いな」

 都市に暮らしていないから、素材の鮮度が重要になるような依頼は難しい。

 配下の魔物を他人に知られたくないので、討伐系の依頼も難しい。

「今は素材を買い取ってくれるだけで十分だ」

「そうか」

 ダンジョンで長く暮らしていける保証はない。

 魔物の襲撃があって警戒も高めている。そんな中で魔物を生み出すダンジョンの存在を報告されれば、普通なら壊す事を優先するだろう。

 討伐組合に管理される事になったとしても自分たちは暮らしていけない。

 ダンジョンを囲まれる事態になる前にコアを壊すしかないのか。

 コアを売れば都市で生活するだけのお金は手に入るが、人の多い場所で暮らすのは難しい。

 ニーシアは人に対して抵抗があるし、獣人のレウリファに浴びせられる視線は自分も気になっている。

 一番の問題は、自分が洗礼を受けていない事だろう。

 洗礼の印が無いのに魔道具を扱っているという事が知られたら、魔族として扱われる可能性がある。

 討伐組合では気づかれずに探索者の登録ができたが、目視で確認されるような場合は言い訳できない。洗礼の印には種類があるので、それを確認される事もあるだろう。

 人から離れた場所に暮らすなら、魔物の危険が少ないところへ行きたい。ダンジョンを壊すため、今のように魔物に防衛させる事はできなくなる。資料館で移住する候補を探しておくべきだ。


「まだ鎧は治らないのか?」

 受付の男が建物の入口を向いている。受付を利用する探索者が来たなら離れた方がいいだろう。

「新調したんだ、調節に時間がかかる」

 探索者がこちらに近付いてくる。腕や足に防具を着けているが、鎧の中に着るような服があらわになっている。

 この場から離れようとしたが受付の男に止められる。理由が分からない。

 自分が動かない事に、ニーシアとレウリファも戸惑っている。

「貴族に絞められてきたか、ルーカス」

 腰に差している剣は片手で扱える大きさだが、普通より短い気がする。他に武器は見当たらない。背負っている小さな鞄に隠しているのだろうか。

「ジョーンズ頼む」

「よせ、ルーカス。俺に貴族の趣味は無え」

「構わん。お前が良い」

 探索者のルーカスは受付台に両手をつけ、職員のジョーンズに迫る。

「担当のところに行け。ほら、マリン嬢が見ているぞ」

 二人は目を合わせたまま会話を続ける。

「尻に敷かれそうなんだ」

「それは無理だな、大地に打ち付けるだけだ」

「同類に首輪をつけられた」

「いいかげんに感謝しろよ。ここじゃ、人気株だ」

 並んでいる受付の入口から遠い方へ視線を向けている。

「ルーカス様、こちらへどうぞ」

 奥の受付嬢が身を出して軽く手を振っている。

「ほらな、かわいいだろ」

 控えめに振る舞う様子と明るい表情は、悪い印象がない。人混みに隠れていても、気付けるような声だった。

「ジョーンズ」

「欲しけりゃ若手のを一から育ててくれ」

「若手か、聖者の件は駄目だった」

 聖女が広場で演説をしていた時に、聖者も近くにいたのだろうか。

「圏外にいく奴が中央に行ってどうする、しかも今回はそれで呼ばれたんだろ」

「あれは素直に伸びる」

「おまえ、まだあきらめていないのか」

 ジョーンズが顔の片側に手をあてて、ため息をつく音が聞こえた。

 ルーカスがこちらを向く。

「剣、弓は違う。斥候、少し触るぞ。罠師、ああ。ここの匂いも独特だが、これは外だな」

 急に迫ってくると体の各所を触られる。

 肩を揉まれ、手を掴まれ、腕を振られた後で顔を近づけてくる。

 短めの髪は後ろに束ねられている、髭も無い。

 顔に添えてきた手は柔らかく、傷が見当たらない。

「墓守熊の成体をやっていたぞ」

 後ろの二人を見た後で、こちらに視線を向ける。

「魔物の臭い、それも警戒していないな。遠い獣魔だ。相棒はここに来ていないのか」

 体も洗っていて服も着替えている。臭いが残っているかをレウリファに聞いた方が良いかもしれない。

 獣魔登録をしていないため連れて来ていない、と答えればいいだろうか。

「確か中央からきた将軍には特設部隊があったな、魔法で誘導していた。そろそろ帰るはずだ。引き抜かれるなよ、ジョーンズ」

「もう帰るのか、今以上に兵士が減るのは困る」

「魔物の襲撃のせいで、生態系が乱れたか、はぐれか、追われたか」

「古参も戻ってない」

「襲撃の時点で十分に死んだよ。逃げれば助かったのに」

「やってのけたお前が非常識だ」

「いや奴らの目的がはっきりしていた」

「目的とは何だ?」

「あれだよ」

 ルーカスが目線で女神の像を示す。

「人間に飽きたら次は信仰まで殺すのか、魔族が入り込んでいるって聖女が警告してたのはそれか」

「ここの住民は圏外でも生きられるか?」

「無理だ」

「なら滅びるしかない」

「おいおい、発言が危ないぞ」

「道中は隠れるさ、数日後にはまた出ていく」

「そんなに楽しいか?」

「矮小だと実感するさ、お前も俺も」

 ルーカスがマリンの元へ向かう。

「あれじゃ、当分帰ってこないな」

 奥の扉に案内されて姿が見えなくなった。



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