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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
2.逃亡編:38-62話
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40.素材買い取り



 目的地が見えてくると気が引き締まり、荷車を押す力も増す。

 都市クロスリエの城壁に入るための行列は以前より短い。城壁の外にいる兵士の数も減っている。

「日が落ちる前に辿り着けましたね」

 自分が押している荷車には紐で留めるほどの荷物が積まれている。食料などの荷物は道中で消費していたが、荷車が軽くなった気はしない。

「何回も交代させて悪かったな」

「気にしないでください。初めから3人で運ぶべきでした」

 林を抜けるまでは自力で押していたが、その時点で体力が尽きてしまい、ニーシアとレウリファにも交代してもらいながら道を進んでいた。

「アケハさんは、もう少し体を大切に扱ってください」

 予想以上に荷物が重かったのだ。

「分かったよ、ニーシア」

 行列に並んでから都市に入るまでの時間は短かった。

 探索者の識別票を持っていた事もあるが、魔物の襲撃から時間が経った事と関係があると兵士は答えてくれた。

 検問のために広げた荷物を積み直す手間もあったが、行列で何もできずに待っているよりは気持ちも楽だった。

「今日は討伐組合に行くだけでいいか?」

「はい」「かしこまりました」

 荷車にある素材を預けた後は、討伐組合が管理している宿に泊まる事になる。

 食事は残っているものを消費すればいいだろう。足りなければ組合特有の肉料理で胃が重たくなるだけだ。

 重い荷車を押して討伐組合の施設が集まる場所へ向かう。


 紐で結ばれた毛皮と牙、膨れ上がった鞄、布を被る荷車。荷物を持った探索者たちは、受付がある建物の横、路地にしては広い脇道に吸い込まれていく。

「すごい人数ですね」

 列に並んでいるとニーシアが列の先へ向きながら話す。

 幅のある建物はその入口も幅が広く、一度に大量の荷物を運ぶ事ができそうだ。

 基本的に探索者が持ってきた素材はこの建物に持ち込まれる。特定の箱に移し替えられた素材は鑑定を受けて記録に残される。

 探索者は素材を持ち込んだ際に手渡された札を受付に確認させれば、買取金額を受け取る事ができるという仕組みらしい。

「ニーシアもレウリファも近くにいてくれ」

 道自体は広いが、行き交う量が多い。集まっていないと他人とぶつかる可能性はある。

「大きな動物も運ばれていますね」

 紐で縛られているようだが荷台から手足がはみ出している。都市から近い場所で狩る事ができたのだろうか。

 ダンジョンにやってきた墓守熊は大きかった。骨と毛皮になった今の状態でも荷車が山積みにされている。解体されていなければ荷車に乗り切らなかっただろう。

「解体もしてくれるのは楽だな」

 肉を高く売りたいなら、解体は都市の職人に任せた方が良い。肉が欲しい場合は自ら解体するか、職人に直接会って解体を依頼しないといけない。

 進んでいくと途中で列が分かれていく。並んだ様子をみるに、肉の有無や素材の量で並ぶ場所が違うようだ。

 建物の手前で探索者に組合の職員が応対している。素材が詰められた箱から中へ運ばれていく。

 自分の番になると担当の男に呼ばれた。

「荷台ごと預けますか?」

「一部は違うので、自分たちで箱に詰めます」

 3人で指定された箱に素材を入れる。

「識別票を出してください」

 首から伸ばして見せると、男は識別票に刻まれた文字を二つの木札に書き込む。

 箱の番号が刻まれた札を受け取り、軽くなった荷車を押して、この場を離れる。もう片方の木札は箱の中に投げ込まれていた。

 建物の奥では、様々な大きさの箱が積まれている。その近くで数人が集まっている。

 鑑定をする人なのか、組合の職員と違い服装が統一されていない。

 探索者の列の横を抜けて通りに戻ってくる。

「都市にいる間は荷車を宿泊所に預けておいていいか?」

「はい、荷物は私の鞄に入れましょう」

 ニーシアの持つ背負い鞄は頑丈にできているが、自分とレウリファにも背負子があるので3人で分ければいい。盗難の危険もあるので分けておきたい。

「疲れもあるので部屋で休みたいですね」

 宿泊所の受付で部屋を借りる。

 荷車を預けるために料金を余分に払うつもりだったが、宿泊する客は不要だそうだ。

 宿泊する客のほとんどが探索者であり、荷車を持ち込む事が多いため、最初から宿泊料に含まれているらしい。

 部屋の鍵を受け取った後は、荷車を宿泊所の裏庭にある倉庫に入れた。


 前回とは違う部屋だが内装は同じで、寝台が目立つ。

 2つ並ぶ寝台の手前側に座り、ニーシアは奥へ行く。扉を挟んだ対面の寝台をレウリファが使う。

 背負子を下ろし、寝転ぼうとした時に二人を見る。

 部屋に備え付けの箱に装備をいれている。

「二人とも、重い荷車を運んで体に異常は出ていないか?」

「はい、疲れも寝れば治ります」

「異常はありません。ご主人様はいかがでしょうか?」

 自分は歩く事さえ気が重くなっていた。

「普段より体が重いな」 

「お体をほぐしましょうか?」

 明日に疲れを残さないようにしておきたい。滞在するお金はあるが自分のために待たせるのも二人に悪い。護衛がレウリファ一人なので別行動も出来ない。

「レウリファ。頼む」

 レウリファが荷物から大きな布を取り出し、寝台に重ねる。

「ご主人様、上着脱いで、うつ伏せになってください」

 一緒に訓練をしていく間に、殺される心配が減ったのだろう。

 都市に向かう途中で野営をした時も、配下の魔物を連れていない状態で、眠る事ができていた。

 腰あたりに移動したレウリファの温かい手が背中に触れる。濡れた布で手を拭いていたので、冷たいと予想していた。

 手の内側を使って、腰から肩まで逃すところなく、こすられていった。

 背中も温まり、背骨に沿う筋肉も力が抜けた時にレウリファの動きが止まる。

「ご主人様、腕を伸ばしてください」

 顔の下に置いていた腕を戻すと、指の先から優しく揉まれていく。

 指の間や手のひらまで細かく指圧される。

「筋肉も付いてきましたね」

「鍛えてくれているからな」

 他の探索者と見比べれば細いが、訓練を始める前と比べれば体付きも良くなった。

 金属の剣を扱える最低限の筋力に届いたと判断されて、素振りの後半では金属の剣を使うようになっている。

 多少筋力が増えたところで、レウリファとの対人訓練では木剣を使用しているし、軽くあしらわれている事に変わりはない。

 視界に入っていたニーシアと目が合うが、顔は背けない。

 レウリファに対して会話を続ける。

「急いで済ませたい用事はあるか?」

「いえ、ありません」

「なら、明日は魔道具屋に行っていいか」

「わかりました」

 討伐組合で聞けば店の場所を教えてくれるだろう。

 人から魔法を学ぶ事が多くても、魔道具を使う探索者がいない事はないはずだ。

 探索者の遺品が魔道具でなければ、壊れる事を気にしないで扱える。

 その後は壊れた道具の修理をする店に行っておきたい。

「体の調子はどうでしょうか?」

 レウリファが離れてから、体を起こして肩や腕を動かす。

「楽になったよ。疲れた時は、また頼んでいいか?」

「いつでも、ご命令ください」

 服を着てから食事を始める。

 都市に向かう間の非常食なので調理は不要だが、野営していた時と違って火が使えないため、ニーシアが作る温かいスープは飲めない。

 加熱が必要な食材を避け、物によっては水洗いをして食べた。2人も干し肉を水に漬けて食べていた。

 食事を終えると体を拭き終えると、寝台に寝転んだ。



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