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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
1.意思編:2-37話
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4.人ひとり



 背中が痛い。こんな石みたいな床で眠っているから仕方がない。コアルームに毛皮とかを持ち込めると良いのだが。

 もしかすると、今まで考えていなかったけれど、コアルームに生物も持ち込めるのではないか。事実、食事もしていた。生物持ち込んで大丈夫だろう。

 体起こしてから、とりあえず背中伸ばす。背骨からのいくつも破裂音が耳に届くが少し高い音を最後に止む。気にしないほうがいい、おそらく健康体だ。体が錆び付かないように軽い体操を習慣にすべきだ。

 水で体と服を洗って乾かすが裸で過ごす事になってしまった。体なんて水気を手で弾いてしまえば、すぐに乾く。服は絞ってもなかなか乾かない。


 この数日でダンジョンが少し住みやすい環境になった。一番変わったのはゴブリン達だろう、しっかりと道具を使っている。後で召喚したホブゴブリンのおかげで木と石の道具が作られた。

 木の棒と木の板で組まれた、担架のような運搬道具で土も多く運べるようになったため有能だ。本当は縄が欲しいけど、まあ時間がかかるし。今は簡単な道具から作ってもらっている。

 ホブゴブリンが黄色の肌だから自分と同じ存在を労働させているみたいで怖い、顔さえ見なければ衣服を着せてあげたくなる。彼のおかげでゴブリン達の作業効率があがっている。

 未だに土運びは完了していないけど、入口付近の壁や床は土で覆われているため擬態として最低限はできた。外から見れば人工物ではなく自然にできた洞窟と思われて欲しい。

 ダンジョン内に土の山をいくらか作り終えて。いくらか予備の確保もしてある。ゴブリン達の石投げ訓練も見学した。なかなかの精度の悪さだと思う。数で勝負だな。

 食事は残念なことをした。ダンジョン入口に住んでいた腹切りねずみを配下に入れてしまったのだ。というか餌あげていたら勝手になっていた。配下が増えるといいなー、なんて言ってしまって。気づいた時には配下に追加されていた。ダンジョンの地図には配下やその他の生物が表示されるため、見て驚いた。これはもう食べれないと。なので、新しく召喚したねずみ達をゴブリンで狩らせて、その内の一匹をもらった。

 ダンジョンの奥でねずみを召喚して動かないように命令して、棍棒を持ったゴブリン達に襲わせた。

 本当は抵抗して欲しかった。何度も頭をなぐられて倒れるのを見て、ダンジョンの利用者の命令力を思い知ったというのか、食欲が無くなるくらい落ち込んだ。

 ホブゴブリンに外で焼いてもらっているうちに、香ばしい匂いにより食欲が復活したため。しっかり一匹、骨も舐めるくらい美味しくいただいた。ホブゴブリンも焼いたねずみを食べるらしい。他のゴブリンは生で食べていたけど。

 残った骨はアメーバさんの処理装置に回されて分解されていく。骨も良い飼料になった後で、いつかおいしい食べ物になってくれるだろう。

 召喚した生物を殺しても、DPがわずかしか得られなかったから、ダンジョンの外と内の生物で、何が違うのか確かめておきたい。もう1家族、ねずみさんが来てくれると助かる。一匹で勘弁しておこう。寂しがるなら家族丸ごとでも構わない、そのぐらい美味しかった。それまでの粗食が引き立ててくれたに違いない。

 家族といえばゴブリン3体の中で1体が雌だった。食料が安定しているから生活環境も整ったら、繁殖するのかもしれない。自然に数が増加するなら戦力増加につながるし、DPの収支を考えないといけないかもしれない。当分、先のことではあるが。

 昨日より味気の無い食事を済ませてから、ダンジョンの外へ向かう。


 ねずみとゴブリン達と一緒に、道具を持って周辺の地形を調べる。彼らもダンジョンの外は疲れるみたいだ。自分だけがおかしいわけではなかったので、共感できる仲間がいて安心する。

 外を歩きながら景色を覚えていたので、おおまかに、風景から自分の位置が分かるようにはなってきた。とはいっても、山の尾根や谷といった山の表情ぐらいしか判断する材料が無いので居場所がわかりやすい。連山であるため一周をしようと思わないが、裏側もいつかは見てみたいとは思う。

 ダンジョンと自分に繋がりがあるのか、離れていても意識すれば帰りの方向がわかる。この距離に限界があるのか確かめきれていない。

 配下の魔物はゴブリン3体と腹切りねずみ7匹である。探索する前にねずみは5匹追加したため、ダンジョン側に何匹か残して活動ができている。

 自分の護衛であるゴブリンに囲ませて、体の小さい腹切りねずみ達が広く周囲を警戒している。この辺りに住む動物なら殺すなり逃げるといった対処できる。ゴブリン達も狩りで大きな怪我を負った事が無いため、最低限の安全は確保できているだろう。

 動物なんかが居ればすぐ戻るように指示はしているが、自分がいる事が原因なのか他の動物に遭遇しない。狩りに行かせると成果を持って帰ってくるので、動物はこの辺りに住み着いているはずだ。

 ねずみが帰ってくる、その場で小さく一周して元の方向へ進んでいく。何かを見つけたみたいだ。


 前方には木が薄れていて、草が削れて土がむき出しの道らしきものがある。恐らく道に従えば町や村に着くことができるだろう。

 ねずみが示す方向を見ると、人間が道の先から向かってくることがわかる。少し下がって通り過ぎるまで、隠れて過ごす。

 男が2人に麻袋の荷物、何か会話をしながら道を進んでいる。体格が大きい方が剣を常に持っており、小さい方が大きな麻袋を背に担いでいる。


 大きい方が止まり、小さい方が続いて立ち止まる。

 もしかして、こちらを見ている。

「てめぇら! こそこそ隠れてるんじゃねぇよ」

 自分の位置がばれていたか。道から離れた林の中まで警戒するのか。

「出てこねぇなら、こっちからやるぞ」

 相手が手に持った剣を、

 横から突き飛ばされた……。片腕が地面にぶつかり、痛い。

 突き飛ばしてきたゴブリンには剣が刺さっている。

 自分では戦えない。

「お前ら、大きい方を襲え!」

 魔物を向かわせる。

 あの男、2つも武器を持っていたのか。


 ねずみが足元からよじ登ろうとして、大柄の男が片手剣で振り払う。

「ゴブリンは挟み込んで腕を叩け!」

 2体のゴブリンが男の前後から木の棍棒を振るう。

 斬撃を大きく避けながら何度も棍棒を叩きつけている。


「くそがぁ」

 傷ついた男の手から片手剣が落ちる。

 ねずみが駆け上がり、男の顔や胴体を喰い破っていく。

「うぐぉおあ」

 背中を丸めながら男の腕が激しくうごく。

 血が飛び散るのも構わずに全身を搔きまわす。

 

 何匹が腹に大穴を開けたようで中に潜り込むと。

 何かの千切れたものが這い出でる。

 水の跳ねる音が、零れ落ちる。

 

「ひぃぃぃぃい」

 音をたどると小柄の男が恐怖でおののいている。

 男はその場を動かず、ただ転がっている肉塊をみている。

「おい! そこのお前」

「うぁぁ」

 重い音を立てて麻袋が地面へ倒れ落ちる。

「いっ……いやだあ」

 走って逃げていく。

「行け」

 2体のゴブリンと外にいる腹切りねずみ達が追い駆けていく。


 大柄の男が落とした片手剣を拾い、怪我をしたゴブリンの方へ戻る。

 自分の来ていた服を脱ぎ剣で破り布を作る。ゴブリンの腕から剣を引き抜き、怪我をした部分に布を強く巻きつける。

「さっきは助かったよ」

 赤い血が地面に広がっている。

「腕を押さえておけ」


 死体をそのままにできないので、ダンジョンに持ち帰ることにする。

 大きな麻袋の口を開けて、底を持ち上げる。


 酷く汚れた少女が転げ出てきた。

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