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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
1.意思編:2-37話
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36.川遊び



 湿らせた布を左腕に当てる。

 熱が奪われていき身体が震えた。

「アケハさんは鳥肌が立っていないですね」

 隣で岩に座って体を拭くニーシアが腕を見せてくる。

 自分の腕と比べてみると細い腕だが、柔らかい肉が包まれた内に筋肉の気配が残る、触り心地も良さそうな腕だ。

 ニーシアの腕に自分の腕を並べると彼女がこちらへ身体を向ける。

「羨ましいです。指もたくましい気がします」

 こちらの腕を軽くつかむニーシアが答える。手も捕まえられて指を揉まれる。

 腕に軽く力を入れて彼女の自由に動かせるようにする。手の向きを変えたり指の間を触られたりしている。

 討伐組合にいる探索者たちの方が優れているが、そういう意味ではないのだろう。

 レウリファと対人訓練では緩急のある動きが多く、素振りを繰り返していた時よりも身体を鍛えられている。

 無理に避けようとして体勢を崩す事を減らして足の運びに余裕を持たせている。

 木剣を避けられないものの、足を動かしながら腕を動かす事が出来るようになった。

「これでも駄目ですか……」

 目の前のニーシアが布で腕を拭いてくる。

 身体を拭くための布は目が細かいものが用意してあるため、肌に傷がつくことは気にしなくていい。

 ニーシアの手が肩まで登ってくると腕から手を放される。

 彼女は腰を上げると岩の上に敷いていた布が残る。

 反対側に移動してくると、濡れていない右腕が拭かれる。

 肌をこするのではなく、筋肉まで揉みほぐすように彼女の手が動く。

 少し時間はかかるが運動後ならこの方で拭いた方がいいかもしれない。

 ニーシアが腰掛けていた岩に敷かれた布を川で洗いなおす。

「アケハさん。頭を洗うので、この岩に座って前かがみになってください。」

 正面に桶を持つニーシアが立つ。

 上半身を彼女の方に傾けて頭を下げると、後頭部に冷水が少しずつかけられて指で広げられる。

 顔まで水がかかるので目を閉じて相手の指示を待つ。

 濡れた指で耳の内や裏まで撫でられるほど隙間もなく洗われる。

 眉の上に手を当てられると頭部の形に沿って動いていき、髪に残った水が首を流れていくのが分かる。

「顔を拭くので姿勢を戻してください」

 頭の後ろに手を置かれる。布を軽く押し当てられて拭かれる。

「もう目をあけても大丈夫ですよ」

 背後にいるだろうニーシアの吐息が間近で聞こえ、肩に手が置かれる。

 肩を上下に動かしたり胸を張ったり引いたりと、動く限り遊ばれて肩をほぐされる。

 肩甲骨の辺りで動く親指や肩に置かれた指の感触が残っている間に、ニーシアが背中に少しずつもたれかかる。

「大人の間では肌に触れるのは信頼の証だそうです。私は魔法も使えないので安心してください」

 背中にはニーシアの胸やお腹が当てられていて、振り向けないほどの位置に彼女の顔がある。

「こうしていると体が温まるので、冷たい水でも気持ちよくなれます」

 脇から通された布が持ち上がってくる。

 ニーシアは濡れた腕同士がこすれ合う事も構わずに胸と腹を拭いていく。

 首筋に当たる熱のある息を気にしていると、彼女が離れた。

「すこし噛みますね」

 首元に開いた口を当てるニーシアが、内で舌を動かして肌を舐めた。

 彼女の口が離れるとすぐに布で拭かれて熱が抜ける。

 脇腹や背中を拭き終わると、彼女は離れて正面に戻ってきた。

「今はまだ、ここまでしか教えて貰えてません。次は私を拭いてくれませんか?」

 近くにいるだろうレウリファは見当たらない。2人の仲が悪い場面を見た事は無いが、会話をしている様子も見ていなかった。暮らしづらい関係でなければ問題ないだろう。

 自分の体を洗ってもらった事に軽く負い目を感じていたため、ニーシアの要望に応える。

 岩に敷いた布を洗ってからニーシアを座らせる。

 自分の布は腰に回して結んであるため、ニーシアが使っていた布を受け取る。

「髪は初めに洗ったので、顔から下をお願いします」

 先ほどニーシアがしていた事を思い出しながら、時間をかけて拭きあげていく。

 最初に出会った時を思い出す。生気の無かったあの時よりも成長して体つきも良くなっただろう。

 ダンジョンでの生活は作業も多いが、食事の量も好きに決められる。特に肉が自由に扱える事に喜んでいた。

 慎重に拭いたり、布の使わないように指示をしてくるような反応はあの時には無かった。

 本心と関係なく起こる生理現象を指摘すれば、ニーシアが嫌いな出来事を思い出すだろう。

 彼女の変化を気にする事なく体を拭き上げていく。

 ニーシアの後ろ髪は首の片側を通り、前に集められている。

 彼女が髪を寄せている間に、背中を焦らずに拭き終えた。

 肌を早く乾かすために、絞った布で肌の水気を落として、最後に服を着た。

 ニーシアが着替え終えた時に、こちらを待っていたかのようにレウリファが姿を現す。

 レウリファは護衛ができないという理由で、身体を洗う事を断っていた。

「ニーシアさん、気分はどうですか?」

「周囲が開けている事が少し失敗でした」

「そうですか」

 川で体を洗うというニーシアの提案をレウリファは気にしていたのだろう。

 魔物がうろつく場所では、護衛がいたとしても落ち着く事は出来ない。

「身体も洗って気分も良くなったので、この辺りの食べ物を探しましょう」

 背負子に道具を仕舞ったニーシアが歩き出す。


 ダンジョンに帰っていると小型の獣に襲われた。襲った獣は今はゴブリンに運ばれている。

 配下のゴブリン達が狩りに行く時と同様の武装を整えていた事や、レウリファが守ってくれていたので安全に狩ることが出来た。

 殺した場所で処理を済ませた獣の肉は、数日後の食事に並ぶ事になる。

 案内と警戒しかさせなかったゴブリン達も、狩りの成果がある事で気持ちも楽になっただろうか。

 ダンジョンを守るための戦力を食料確保に使っている自分は、同情する立場にいないのだが。

 途中で植物を見つけて足を止めることを繰り返して、ダンジョンに帰る。

 日が落ちてくると外よりもダンジョンの中の方が明るくなる。

 入口付近では土を積み上げてあるため光が漏れることを抑えているが完全ではないのが見てわかる。

「帰るのが遅くなってしまいましたね」

 手を繋いでいるニーシアは帰りがけに山菜採りをした事を謝っているように見える。

「この辺りに見つからない山菜も採れたから良かったよ」

 川遊びも普段から娯楽の少ないこの暮らしでの気晴らしになっただろう。

「食事の時に手元が暗いといけないので、今日は中で料理していいですか?」

「そうだな。その方が料理も楽になるはずだ」

「料理は手を抜きませんよ」

 地中からダンジョンの一部を伸ばして、照明を作るのも良いかもしれない。

 腰丈ほどの柱にしておけば、隠すための布や囲いも用意できるだろう。


 柱から視界を確保したり盗聴できるので、遠くに設置できれば監視にもなる。

 このダンジョンはコアまでの距離が短いため、放棄する事も考えると侵入される前に敵を確認したい。

 生活空間や資源があるためダンジョン内での戦いは避けた方がいい。

 ダンジョンから飛び出して敵を撃退しなければならない現状では、自分がその場で命令をする場合に敵に狙われる危険もある。

 探索者が来た時は逃がさないように引き付ける役割して、報告される事を防いだが毎回できる事ではない。

 地面に床だけ設置すれば、山を掘り進めて天井と壁を作るよりも、DPの消費も抑えられる。

 コアルームに居ても遠くまで細かい指示ができれば安全にダンジョンの防衛が出来る。

 配下の魔物たちに命令する手間が増えたり、一度に攻めてくる人数が増える事になるので限界がある。

 ダンジョンを守るだけの生活は楽しくない。



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