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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
1.意思編:2-37話
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34.皮肉



 狩りに出ていた配下たちが獲物を担いで帰ってきた。

 ダンジョンの入口で降ろして、DPの増加を確認して解体場所へ運んでもらう。

 魔物がその他の動物と区別されている理由として、魔物には大きさに合わない強さを持っている事がある。

 この前に戦った墓守熊は動物だとレウリファから聞いた。

 墓守熊が人間にとって脅威であることは過去の被害を知ればわかる。

 あの巨体から生み出された力は、自分と同程度の体重を持つ雨衣狼を投げ飛ばせるほどであった。

 墓守熊の強さは、資料で調べる必要もなく、体の大きさを見るだけで想像できてしまう。

 魔物の特徴として魔法が使える点がある。

 鋭い爪や牙、毒を持つなどの特徴を持つ動物と同じで、見た目では気付けない強さを全ての魔物が持っているのだ。

 魔法を使うために消費する魔力を蓄えている魔石は、基本的に魔物の体内にあり、外からでは見つけられない。

 一般人が小さな魔物を追い返そうとする場合は予想以上に被害が出てしまうのだ。

 そんな魔物が基本的に持つ特徴として、身体が硬くて傷を負わせにくい事がある。


「確かに刃が通りにくいな」

 肉の抵抗が刺している刃物から伝わってくる。この状態で魔物の腹を切り開くのは難しい。

 切りづらいのは表面だけのようだが、内蔵抜きをする際はどうしても手間がかかってしまう。

「まだ魔法の効果が残っているのでしょう。本来は刃が通りやすくなるまで放置しておきます」

 レウリファは奴隷される前は、狩りに同行していたらしい。

 奴隷教育でも庶民の生活を学ぶ事があるだろうか。

「奥の肉まで一気に切り開いている感覚だ」

 実際は肉が深く裂けていることは無い。

 切り込みを入れる際に下手に力を入れると、内臓を包む膜まで刃が通ってしまう事もあるだろう。

 皮をひっぱり、内臓から遠ざけると腹を開いていく。

「このまま最後まで処理をしてしまいましょう」

 レウリファがこのダンジョンの暮らしで、獲物を解体する際に違和感があると言っていた。

 そのため、この一体はダンジョンに入れないまま処理をしてみたいと、自分からレウリファに頼んだのだ。

 実際にしてみると魔物の解体は面倒だと良くわかる。

 隣にあるもう一つの作業台には比較のために同種の魔物の死体が置いてある。

 既に内臓の処理は終えてある。何度も解体は手伝っていたため大体の作業はできる。加工時間も倍はかからない。

 他にも解体すべき肉はあるのだが、レウリファはこちらを優先してくれている。

 手間を増やした面倒な作業を手伝ってくれている状況をみるに、レウリファとの主従関係も少しは整ってきたのだろうか。

「魔法の効果が消えるまでに時間がかかる場合は、腐敗の速い内臓付近の肉を捨てる事もあります」

「腐敗を防ぐ方法は無いのか?」

「強力な冷却の魔法を使用すれば、硬化魔法が消えるまで待つこともできます。狩人や解体士の中で使える人は少ないでしょう。四肢の肉以外は諦めろと書かれていた魔物も資料にありました」

 近い都市の庶民が魔法を必要としない生活をしている時点で、魔法使いが少ないことは想像ができる。

 強力な魔法なら魔法使いの中でも少数だろう。

「硬化魔法が消えるまで待つ必要のないダンジョンは便利です」

 台にのせられた死体を支えてくれているレウリファは、肉の加工に対する豊富な知識を持っている。


 ニーシアはこのダンジョンに来るまでは、狩りの獲物を解体する経験は無かったらしい。

 料理に使うような切り肉になるまでの作業を、2人で一緒に想像しながら手探りで試していた。

 肉が多少傷んだところで配下の魔物たちが食べてくれる。自分たちの食事に使われる肉が減るだけだった。

 解体する場所を整備できたのは大きな進歩だと自分では思っている。

 ダンジョンから水を通して解体場所の掃除の手間を省いたり、解体作業のための比較的頑丈な台も用意した。


 レウリファが来てからは肉の解体技術が大きく変わった。

 獲れたての獲物を解体して切った肉が潰れてくる事や、内臓を誤って傷つけ肉が悪くなる事は学習していた。

 レウリファが受け継いできた加工方法に従うことで、捨てる部分も減り、肉の味も良くなった。

 丸ごと焼いて食べていた光景はもう見られない。配下の魔物たちもしっかり学習している。

 肉を貰うだけの関係でなくなったのは、後ろめたさも無くなる良いことだ。

「魔法が早く消える効果がある事には気が付かなかったな」

 獲物をダンジョンに一度入れるのはDPの獲得のためでしかなかった。

 台の脇に置いた樽に取り除いた内臓を落とす。

 食べられる内臓も保存できる設備が無いため、ほとんどは捨てている。

 水が豊富に消費できればいいのだが、樽に詰めた水程度では足りない。

 掃除用の溝とは別に水を通す水路を宙に作ってしまおうか迷っているところだ。

 ダンジョンの壁生成は大きさもある程度まで変更できるため、水路も作ることは出来るだろう。

 分厚く覆われた水路ができあがるが、屋外なら逆にいいかもしれない。

 今はDPに余裕が出来たら試してみたい。木製で作るよりは壊れにくく、整備もしやすいだろう。

「他にどのような利点があるのでしょうか?」

 ダンジョンを操作できる事は伝えてあるが具体的な方法は教えていない。

 ニーシアとレウリファがダンジョンで知っている事は、魔物の生成や壁の操作をする際にコアに触れる必要があるという事ぐらいだろう。

 DPの扱いまでは教えていないが自分しか操作できる人がいない現状では、具体的な操作を教える必要はないだろう。

 彼女たちに弱点を見せている事に変わりはない。

「魔物たちがダンジョンから離れている時間を減らすことが出来る」

 少数しか居なのでダンジョンには多くいた方が良い。

「解体の時間が不要になる事で捕れ高が増えますね」

 説得力のある理由では無かったようだ。

「話はかわるが、討伐組合の買い取りで内臓もあるようだが、傷んだりしないのか?」

「食事や薬には痛み具合を気にしますが、それ以外でも用途はあります。飼料や肥料であったり、特に腸であれば避妊に利用されます」

 腸の質感や形状を知っていれば具体的な予想はできる。

「それは、……動物や魔物を犯すのと違いはあるのか?」

 予想が正しいかは別だが。

「病気が大勢に広がるよりは騙して使わせた方が良いでしょう。客層のほとんどは知識層ですが彼らは知っていて気にしていません」

 知識層でない庶民はどうなるんだ。買えない値段なのだろうか。

「高級品なのか?」

「はい、長期間保存できない以上、余分に確保したり、捕れる量も少ないです」

「使えない人間はどうなる?」

「病気にかかれば閉じ込められて、あるなら薬を使うぐらいです」

 閉じ込められる時点で仕事もできなくなる。病気を隠して生活できるのか。

「症状はどんなものがあるか知っているか?」

「はい、体調不良で治るもの、身体に異常が現れるもの、長くない間に死ぬものまであります」

 死ぬ病気になれば、仕事も症状を隠すことも出来ない。

「庶民向けの娼館では被害が出ると関係者を隔離する事が通常の処理です。病気持ちに商売をさせたりすると信用問題になりますから」

 病気になっているか事前に調べたりするのだろう。

「貧困区では性感染症が広がって、女性の声だけになったといった例もあります。男が残る場合は内部で暴動が起きたり、表通りに攻められる前に焼却されます」

「レウリファは知識を持っているんだな」

 都市部での生活方法を知っているレウリファは、自分や二―シアに必要な人材だ。

「獣人でも妻様の助人をしたり、ご息女の教育をする場合もあります」

 知識が高価であることは、資料館を利用して実感している。

「ご主人様も娼館を利用するのであれば質の高い店を選んでください。決して一夜姫は選ばないようにしてください」

 今までの話を聞いていると、名前だけで不穏な印象を受けてしまう。

「相手をしてもらうと、……どうなるんだ?」

 レウリファの眉が落ちて血の気が引いている。

 こちらが死ねばレウリファも死ぬだろうな。

「……終えて帰ってから苦しむ例もあれば、何も感じない例もあります。ただ、次の日には死んでいることがほとんどです。死ぬほどの快楽といった言葉でうたわれていますが、実際はそんな技量も無いと確認されていました。悪く言う人も現れませんので」



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