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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
1.意思編:2-37話
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32.招かれざる者



 真上にいた日が下り始めた頃には、狩りに出ていた配下たちが帰ってきた。

 普段より足音を立てて近付いてきたのは、周辺にただよう血の臭いに気づいたからだろう。

 彼らが持っていた獲物も内臓の処理したら急ぎの用もなくなり、夕食を食べて寝るだけだった。


 配下の魔物たちが狩ってくる動物は頭部から魔石が見つかることがある。

 討伐組合の資料では魔石を持つ動物は魔物として扱われていて、基本的に魔物は魔石の無い動物より危険と書かれていた。

 そんな魔物の死体をダンジョンに持ち込むとDPがわずかに増える事がわかった。

 魔石を持たない動物は持ち込む必要がないことはわかっているが、ニーシアやレウリファにはダンジョン操作の詳しい話はしていないため、獲物を区別せずに一度はダンジョンの中に持ち込ませている。

 DPが増える事と魔石を取り出す以外では魔物とその他の動物で対応は変わらない。

 ニーシアやレウリファと協力して解体を行い、売却用の素材や食肉を得ている。


 戦った墓守熊たちが流した血は、掃除をしたことで見た目は綺麗になった。

 自分では気付かないが、嗅覚の優れたレウリファは血の臭いが強く残っていると知らせてくれた。

 外の動物が血の臭いに誘われる可能性もあるため外出を控える事に決めて、配下の魔物たちにも狩りに出ないように指示をした。

 数日間は狩りの出来ないが配下の魔物たちはダンジョンにいる間は食事の必要はない。

 獲れたての生肉はないが、長期保存が出来る形に加工した肉やダンジョンから生み出せる餌があるため、食事は楽しめるだろう。


 レウリファとの訓練を終えて身体を水で洗っていると、ゴブリン達が身体を洗った形跡がある。

 外に置かれた樽には水が溜められていて、身体を洗う時に使わせている。

 狩りから帰ってきた際に川まで行って水浴びをしたような様子もあったので、彼らゴブリン達が綺麗好きとは知っていた。

 水と場所を用意してみれば日に一度は身を清めるようになっていたので、それまでの間は汚れを我慢していたのかもしれない。

 植物の汁や血の汚れを付着したままダンジョン内で寝させていたので、ニーシアが臭いが食べ物に移ると悲しんでいた。

 ダンジョンの奥に入らないように指示していたが、ダンジョン全体に臭いが広がっていたらしい。

 ニーシアが教えてくれなければ、彼女よりも臭いに敏感なレウリファはここで住めなかっただろう。

 ここの生活を改善するための提案をしてくれたのは、嬉しかった。

 ニーシアはダンジョン暮らしの衣食住を支えている。村の道具を貰う事を提案したのも彼女だった。

 体を着替え直して広場にある食卓へ向かうと、食事を作っているニーシアがいる。



「以前より時間をかけてみたが、問題はないか?」

「はい、奥まで染み込んでいます」

 見張りや囲いをつけて夜も干し続けた結果、墓守熊の干し肉は乾燥作業を終えた。

 素の状態のものだけでなく、調味液に漬けたものも作成していた。

 確認のために味見をしてみると問題なくできている事がわかる。

 噛んだ瞬間は固いが、次第に肉のうまみが広がる。薄く切ってあることで脂身の少ない部位でも砕きやすく、舌全体に味を感じさせる。

 墓守熊の肉は美味しいという事は実感できた。

「こちらも美味しいです。味も濃くて、匂いも良い」

 隣にいるニーシアにも味見をしてもらうと、問題なく乾燥を終えて食料棚へ移す許しを貰った。

 異なる部位も味見をしていて、調理法やその優劣を呟く。

 結ばれたニーシアの髪が頭を傾けられて揺れる。すぐ隣で屈むニーシアから彼女の匂いがする。

「子供の方もできていますよね」

「そうだといいな」

 親の肉が美味しかったため、子供の肉も期待できる。

 ニーシアが口に含んでいたものを味わってから喉へ送った。

「飲み込んでしまうと、口の中が寂しいです」

 ニーシアの控えめに開く口の中が空だった。彼女の視線が行き来していたので、差し出す。

 自ら咥えにくるニーシアの様子に、配下の魔物たちへ餌を与える時に似た安心感が湧く。

「ありがとうございます、アケハさん」

 時間をかけて堪能しらしいニーシアが答える。

 唇を舐める仕草を見せるようにニーシアがこちらへ顔を向けた。





 配下の夜気鳥が戻ってくる。

 彼らはレウリファのような嗅覚はないが、空を飛ぶことで広い範囲を警戒できる。血の臭いで嗅覚が邪魔されている今は、早期に警戒できる彼らの目が頼りだ。

 外にいる配下たちをダンジョン内に戻す。配下の魔物は全員揃っている。

 武装を整える間に夜気鳥を飛ばして、近付く存在の居場所を教えてもらう。相手は林の中に潜んでいるため、ダンジョンの入口からでは正体が確認できないだろう。


 林から表れた存在は、立ち止まる事なくダンジョンの入口へと歩いてくる。

 剣と盾を構えた相手を見てコアルームを出る。

「相手は人間だな?」

「はい」

 レウリファが外を覗いている。

 慎重な歩みをしている相手はこの場所がダンジョンである事を気づいているだろう。

 広場に立ち入った時点でダンジョンまでの距離は近い。ダンジョン特有の心地よさ、誘われるような感覚を覚えているはず。

 魔物の襲撃に対応できるように剣と小盾を構えている。

 目の前の一人の他に姿が無いのが気になる。襲われる危険がある林で単独行動をするだろうか。離れた場所から観察している可能性はある。

 他に仲間がいるとしてもダンジョンまで一人で歩かせるだろうか。

 逃がすわけにはいかないため、相手の詳しい情報が欲しい。

「レウリファ、一緒に来てしてくれるか?」

「わかりました」

 こちらも武器を構えてダンジョンを出る。

 相手の歩みは止まっている。

「ご主人様、止まってください」

 ダンジョンから離れていない距離で止められる。

 視線の先にいる革鎧を着た男が構えを解いて腕を少し下げる。

「そこにあるのはダンジョンか?」

 自分よりも背が高く、細身とは言えない体格の男が確認してくる。

「ああ、そうだ」

 答えると相手は、広場を見回す。

「ここのダンジョンはまだ報告してないな?」

「その通りだ」

 小盾を外した手をゆっくりと首元に持っていき、首飾りを顔の横まで持ち上げて見せる。二つが重なった金属板は、探索者が持つ識別票だろう。

「クロスリエ所属のスタンだ」

 こちらも見せる方がいいのかもしれないが、仮登録であるため識別票は持っていない。

「こちらは仮登録で、今は識別票を身に着けていない」

 逃げられる可能性を考えると名前を答えられない。疑われるかもしれないが仕方がない。

「そうなのか」

 首飾りを降ろした男が少し驚いたような声で答えてくる。

 周囲に生活の跡があるため、探索者が長期間ダンジョン攻略をしていると勘違いされたか。魔物が大量にいるダンジョンは初心者が行く場所ではないだろう。

「報告が信用されないと思うなら、報告についていこうか?」

 虚偽の報告と組合に判断されたら報酬はもらえないだろうな。

「行くつもりはない」

「そうか。攻略に雇う気はないか? 報酬は人数割りでいい」

「他に仲間はいるのか?」

「俺一人だ。途中で襲うつもりは無い……というのは信じられないか」

 優しそうに話す男は武器も降ろしていて、空いた方の腕がよく動く。

 仲間が隠れているとしても、目の前の男をダンジョンに入れた時に姿を見せるだろうか。ダンジョンのコアが見られてしまう事や奇襲ができない事を考慮するとあまり近づかせたくない。

 夜気鳥を飛ばして周囲を探させるべきか。見つけられるか確実ではないが他に方法もない。

「単独攻略をする場合はダンジョンの報告をこちらでさせてもらう。大規模なダンジョンであった場合の危険はわかっているはずだ」

 魔物が生み出されて人間を襲うことは知っている。

 相手がこの場所を黙ってくれる事は期待しない。

「俺はアケハだ」

 敵が隣にいるレウリファに視線を向ける。

「護衛のレウリファです」



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