表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
11.***編:296-
313/323

313.錯覚



「光神教の方では、どこまで経歴を把握していますか?」

「王都での騒動以前には、辺境の都市を訪れていた事。長期の滞在が見られず、おそらく近場で生活した。拠点となっただろうダンジョンの存在も確認しています。……それ以前は、まったくです」


 ラナンの頷きを見た進行役が答える。


 詳細どころか、自分の経験を完全に把握されている。説明は省ける。

 最初に暮らしたダンジョンの件についても、調査報告の改ざんでリヴィアとの交流を推測しただろう。どうしても繋がりが強い人物になる。


 光神教の調査能力は予想以上であり、一方では予想通りでしかない。


「二年と少々、それが自分の全てです」


 ダンジョンにも人が生活したような痕跡は見当たらなかった。過去は存在しないと思っていた。

 ただ、手紙の送り主は光神教でも調べきれなかった過去を指摘した。


 嘘の可能性はある。記憶を忘れたとしても痕跡は残るという、当然の考えもダンジョンが関わるなら別だ。

 ダンジョンでは成体の魔物が突然現れる。巣が形成されている例を含めても、探索者によって運び出される魔物の数は異常に多い。内部の魔物を滅ぼしても、翌日には足音が聞こえてくる。

 幼い期間が省かれて出現するのだ。仮に作り出された人間がいるなら、過去の痕跡など存在しないだろう。


「過去の記憶がない。親も生まれ故郷も知らず、目覚めた場所は、外に森が広がる、辺境の小さなダンジョンだった。……どうしてか、生活できるだけの知識は持っていて、知らない土地でも生活できていた」


 知識はあっても経験はしていない。

 ダンジョンがなければ生存すら困難な状況だ。ニーシアとレウリファが加わった後でも大きく変わらなかった。


「ダンジョンから逃げようとは思わなかったのですか?」

「食料を得るにもダンジョンが頼りで、未整備の森に入る危険もあれば、当時は迷宮酔いの事を勘違いして、離れる事の方が困難でした」


 壁に囲まれた環境というだけでも、外では重用される。

 とはいえ、ダンジョンに対して無知でも、人を襲う生物を操るだけでも異常だ。他人との接触は優先できなかった。


「女爵とは何度か会った仲でも、記憶異常の件は話していません。知られた経緯も分からなければ、そもそも、手紙にも待ち合わせの場所や日時は記されていない」


 自分を話題にしながら、自分が関われない問題に思えてくる。


 元々、話し合いの目的は手紙の送り主への対処であり、候補であるリヴィアに関する情報共有だ。

 記憶の話題を詰めても問題解決にならない。


「仕事のために拠点を各地に持つとは聞いていましたが、具体的な場所は分からず、逃亡した場合の移動先も予想できません」


 ただ、注目される人物であるだけ。

 教会に届ける手紙でも、実在する名前であれば、途中で廃棄される可能性も少なくなるはずだ。


「……女爵は魔族だったのですか?」

「いえ、教会での検査は順調に終えています。以降も協力的で、家宅捜索の許可も早々に提出されたようです」


 知らないという情報を提供した後は、他の専属従者と変わりない。

 捜査対象が知人という要素から今後の調査に立ち入れない場合でも、日常業務は継続されるだろう。


「アケハ。難しい話題だけど話してくれてありがとう。このまま調査を進めるつもりだけど、どこまで協力できる?」


 話題の終わりと同時に、ラナンが告げる。


「記憶の件も、リヴィアの行方にも、興味はあります」


 主人としても、従者の積極性は懸念するものだろう。

 聖者の役割からすると対象の殺害もありうる。知人が追跡される事に関して不快に思えば、内通までいかずとも、業務の妨害を行うかもしれない。


「魔族の元関係者が失踪した件で、魔族との接触が続いているのであれば対象の処罰もありえる……。会う機会が今回限りになるなら、なおさら調査に協力したいです」


 どのみち、自称されるまでサブレを魔族と気付けなかった観察力では、確実な貢献はありえない。

 この場は意思を伝えるだけに留める。確約など不可能だろう。


「リヴィアが既に殺されていた場合でも、後で知らされるより諦めが付くと思います」


 捜索面でも、相手と面識がある事で違った発想も思い浮かぶかもしれない。

 妥当性を判断するのは自分だけではなく、客観性に欠ける提案も参考になるはずだ。


「仮に参加が認められる場合も、途中で担当を外される事は覚悟しています」

「わかった。これからも頼むよ」


 次の会議では、リヴィアの拠点を記した新しい地図が設置される。聖女も両名が呼び出され、外部の人間も招く会議も始まるだろう。


 忘れた過去を調べれば、ダンジョンを操作できるようになった原因も見つかるかもしれない。

 ラナンによって保護され、既に自身の異常は許容された。リヴィアが主犯だとして、独自の目的で対立するなら衝突は避けられない。

 自分の過失に耐えられず、一度は離脱した。判明する過去が、特別に許容されている現状を崩すようなものなら、次の居場所は無い。生き残れないかもしれない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ