3.初めての配下
食事を済ませたらしい奴が帰ってきた。ダンジョンにある同種達の巣を抜けて奥へと向かっている。
「お願いだからコアの近くまでくるなよ……」
腹切りねずみは動きを止めて、壁に寄ると口に溜め込んでいた食べ物を吐き出した。ねずみは体を落ち着けている。これ以上近づいてくる様子もない。
配下ならばコアやその利用者を他の魔物と区別する意識があるのだろうか。試しておかないとダンジョンの防衛ができないかもしれない。小部屋に直ぐ入れるように身構えてねずみに声をかけてみる。
「俺の元に来い!」
こちらを観察していたねずみが動く。自分が歩くより速い速度でやってくる。鼓動をひどく感じる。もしかしたら襲ってくるのではないか。
ねずみが明らかに加速している、並んで走れるほどの速さだ。近付いてくる相手に耐えられなくなる。
「そこで止まってくれ!」
ねずみが緩やかに速度をおとして止まる。全身が震えている。襲ってきても部屋に逃げ込めなかっただろう。
警戒しながらも深呼吸をして落ち着く。
「後ろを向いてくれ」
ねずみが後ろを振り向く。
「一回転してくれ」
横に転がって確かに一回転した。芸に意外性がある。
「こちらを向け」
確かに主人として認識しているみたいだ。
「少し待っていろ」
小部屋のコアに触れて餌を作り出す。コアルームに入らなくてもコアを触れば、ダンジョンの操作ができるみたいで手間がかからない。
ついでにもう一匹腹切りねずみを呼び出す。自分のそばに出現させたが襲ってくる様子もない。餌もさらに用意して待っているねずみの元へ向かう。
「食料を渡しておく、今後は2匹で協力してくれ」
新しく召喚したねずみが待機しているねずみのもとへ向かう。餌を転がしてやると、頭で転がして入口の方へ餌を移動させていく、器用で賢いらしい。
ひとまずコアルームに戻り、配下のねずみを観察する。配下として出現させた生物は命令に従ってくれるらしい。荷物の運搬とかをするなら便利かもしれない。
すこし大型の生物を呼び出してみたくなった。ねずみも餌を運び終えて寝ている。あの量なら5、6食は持つだろう。
緑の肌に半分ほどの身長、角張った頭にとがった長い耳、やや膨れた腹。腕や足は自分よりも重たいものが持てそうな隆起が見える。
ゴブリンは先ほどのねずみと比べると3倍程DPを消費するが人型は都合がいい、2体ほどさらに呼び出す。爪で引っかいたり、噛みついたりして人間を襲うのだろうが何も持っていない手がさみしい。肩もしっかり筋肉があるので投擲でもこの住処を守れそうだ。
「お腹はすいているか?」
ゴブリン達は首を横に振る。こういう意思疎通もありなのか。
「ダンジョンの外にある石を、身を隠せる程度に集めてくれ」
3体ともゆっくりとダンジョンの外へでていく。今日一日ぐらいあれば石の山も出来上がっているだろう。ひとまず休ませてもらう。
労働力が集まったらダンジョンの入口を岩や土で隠してしまうのも悪くない。今は人間を相手にする余裕がない。まだ遠出もしていないし周辺を探索しつつ地図を作製する必要がある。
自分の食事はダンジョンから取り出せるから心配していない。時間がかかっても足場固めをしよう。
ゴブリンは怖い。配下であるため従うといっても自分身長の半分ほどもあると威圧感もあるし、3体に襲われたらすぐ殺されてしまうだろう。獣というか野生臭いというか……本能で逃げてしまうというか。
あの爪でひっかかれて、腕なんか掴まれて噛みつかれる……食いちぎられて血がこぼれる姿を想像してしまうけど、少しずつ慣れていかないとダンジョンが発展しないよな。
雄とか雌とかあるのかな、凶器に注目しすぎて気が付かなかった。
そんなことを考えているとゴブリン達が集まって何かをダンジョンに運んでくる。鹿に近い形状をしていて毛皮が所々食い破られて血がしたたっている。想像通りの死に方だ。石が積んであるところまで持ってくると床に置いて、それぞれが身振り手振りをしている。
自然増加とは別にDPの量が増加する。動物の死体でDPが増加するならダンジョンの改造も進むかもしれない。
ダンジョン内で動物を殺してDPを得られるなら、遠くから人間を誘い込んで殺す必要も無い。人間を襲うよりは安全にダンジョンを成長させられそうだ。そんなことを考えているとゴブリン達が石集めに外へ出ていく。
素手で石を集めてくる様子をみると道具が欲しくなる。ダンジョンの周辺には木とかあるから見た目を考えると棍棒がほしいくらいだ。
ゴブリン自身で道具を作ってくれないかな。木を切り倒す道具なんて無いし、人間と交流しないといけない。道具を作るための道具がない。手間を考えても作っておきたい。自分で作ろうとは思わない。恐らく。
ゴブリンにも雑穀団子を与えてみた。喰った。彼らはあまり咀しゃくしない、生肉はよく噛んでいたのに。30回ぐらい噛んだらきっと彼らもおいしく感じるだろう。
肉を食べたいなー。彼らの獲物を奪うこともしたくないし、奪ったとしても調理も面倒だし。召喚できるねずみって良いぐらいの大きさだよな。かなり食べ応えもあるし。一回ぐらい食べてみてもいいかもしれない。
自分の配下のねずみは食べようとは思わないけど、都合よくダンジョンの入口に住み着いている個体がいる。DPの消費の少ない雑穀団子に飽きてしまったら一匹拝借して、丸焼きで食べてみようか。
100DPで一食は少し高めだけど、挑戦してみる価値はあるだろう。体内に毒とかもっていたら怖いから、ゴブリンや野生動物に試食させることも考えないと。
そういえば召喚項目の初期に載っているアメーバさんは便利だ。移動は遅く、防衛には全く向かないために最初は用途がわからなかった。けれど、どんなものでも食べてくれて臭いもおさえてくれるので、衛生面で特に助かっている。完全に処理された後の排泄物は臭いも少なくて、量も小さくなるため、排泄用に掘った穴を長く使える。ゴブリン達の排泄場所を決めて臭いがダンジョン内に漂うことを防ぐことができた。
小部屋を作成した際に除去されていた土は、ダンジョンのどこかに収納されているみたいでコアの機能で取り出せた。多少DPがかかるけど、物を保管できるのはダンジョンの機能でも重要そうだ。
ダンジョンが深くなった時には、入口で回収して各所に行き渡らせる事もあるかもしれない。ほとんど直線しかない今のダンジョンでは、まったく必要無いわけだが。
土の保管、取り出しが可能なら、配下の移動も可能ではないかと考えてダンジョンの機能を探してみた。
腹切りねずみよ。次に目覚めたときには、隣にいたはずのもう一匹のねずみが反対側の壁に移動している事に気づくだろう。寝ていると移動に気づかせない程度に優しさがある移動機能だ。
配下を収納したまま保てるなら食事も考えないといけない。収納していて餓死するなら、居住区を別に用意しなければいけないし。精霊も財宝で人を誘うと言っていた。生物を収納するには適さない気がするが試してみるのは悪くない。
考えていると外も暗くなってきたため、食事してから寝たい。