表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
10.先導編:268-295話
293/323

293.意図



 魔力に揺れを感じて、身を起こす。


 部屋を見回しても、ダンジョンの弱い発光は保たれており、中央に設置されたダンジョンコアと台座には異常が見えない。


 自分の感覚を疑うには早い。

 夜中とあって出歩くのは諦め、コアに触れてダンジョン周辺の監視を進める。勝手に魔物が放出されるなら対処が必要だ。


 二重の防壁は健在で、分離された外側の防壁が至近距離に死角を残す。

 ダンジョンの周囲を探っても異変は見当たらない。夜闇が続く遠方を疑ったところで、門の扉が倒れている事に気付く。


 いくら素人が作ったとしても、扉二つが同時に倒れるのは異常だろう。

 開閉用の溝にはめ込んだ単純な構造で、利便性を考えて重量は減らした。木組みに板を打ち込んだ強度で劣る代物だとしても、設置時には皆で動作を確認していた。

 ダンジョンの規模を決めた最初期に作った以上、欠陥があれば早くに壊れていたはず。


 倒れた門扉も形状を保っている。突進で壊すような魔物の工作とは思えないなら、別の原因を探すべきだ。

 外周の監視を中断して、内部に目を向ける。


 早々に三人の人間が見つかる。

 部外者だ。

 ダンジョン自体の明かりで、一人の手にある照明道具の仕切りを閉じている。


 内部で動く存在は少なく、まとまって歩く姿は目立つ。

 外から来たなら当然の事だが、腕には刃物が見えた。

 おおよそ野盗の類だ。


 自分が目覚めた原因とは思えないが、優先すべき問題を見つけた。


 不意の遭遇ほど危険は無い。ダンジョンの操作でヴァイスに逃亡をうながした後は、寝ている皆を起こしに行く。

 こちらの動きを知られないよう、静かに部屋を移る。


 個室の扉を叩いたところで、目覚めはしない。

 部屋に踏み込み、寝台で眠るレウリファに近寄る。


「レウリファ、……起きてくれ」


 小声で呼びかけながら、体を揺らす。

 毛布から抜け出した上半身に抵抗が生まれ、目覚めの声が出る。こちらを認識したレウリファが抱き寄せてくる。


「レウリファ。起きてくれ。緊急事態だ」


 動作を受け入れ、耳元で告げる。

 少し停止したレウリファが、言葉の意味を捉えたように表情を探ってきた。


「侵入者だ。他の二人も起こしに行くから、武器を持ってくれ」

「わかりました」


 接触を解くと、レウリファは起き上がる。

 護身用の武器を取ると、一緒に部屋を出た。


「相手は?」

「三人。槍と薪割り斧を見たくらいで、服も布のようだった」

「野盗でしょうか?」

「見た目はそうだ。武器も、交戦まで隠しているかもしれない」


 移動の間は短い会話で済ませて、ニーシアとリーフを起こした後、ダンジョンコアのある部屋に四人で集まる。


「偵察じゃないかな?」


 報告を聞いたリーフが告げた。


「三人は少ないか」

「うん。笛なり火矢なり、連絡手段は持っているかも」

「ダンジョンの付近ならともかく、夜闇に潜まれると見付けようがないな」

「明かりも落とすだろうから、視認は難しいね」


 ダンジョンコアから敵の位置を教わりながら、会話を続ける。


「撃退は必要だよな?」

「もちろん、外への警戒も必要だけど、長々と荒らされても困る」


 部外者に知られたい施設ではない。

 光神教の監視下であっても正式な活動ではない。実在を知るのは少数、近隣だけに制限しておくべきだろう。

 討伐組合が管理する場合と大差ないが、情報の流出は好ましくない。


「……私も出る」

「いいのか?」

「食客だからね。こういう場面で役に立たないと、食事量が減らされちゃう」


 戦力として求めたわけでもない。一時的に逃げ出しても食事を奪うような真似はしない。少なくとも自分は。


「助かる」


 リーフは光神教で内部監視をする部隊に属していると自称している。

 内通者や不正を行う者を秘密裏に処理する。実態を見たわけでもないが、外部で活動するために複数の役職を兼任するといった変な経歴を持っているのは事実だ。

 監視役といえど護身術くらいは学んでいるはずだ。


 襲撃が連続する場合には連絡を頼める。撤退には他二人との情報共有が必要になってくる。


「ニーシアとレウリファは、この部屋で防御を固めてくれ。家具も壊してくれて構わない。生き残ることが最優先で、危険なら建物から逃げてくれ」


 重たい家具の移動も、獣人のレウリファなら難しくない。

 出入り口が二つあれば、逃亡の隙も狙える。


「ダンジョンは良いんですか?」

「簡単に壊せるものじゃない。放置しても取り返しがつく」


 ニーシアが、ダンジョンを扱う事も考慮した上での判断だ。


 ダンジョンを操作して撃退するのは最終手段である。

 公表すると大きな混乱を生む。既存のダンジョン管理にも変更が求められる、ダンジョンを個人所有する以上に危険な情報だろう。

 

 少なくとも、ダンジョンには残す価値があり、破壊も即刻行われるものではない。

 魔物は食料になり、建物まで揃っている現状では、野盗が一時的な居住地に選ばないとも限らないだろう。


 相談も長くは続かない。

 方針が決まれば動くだけだ。

 武器庫に寄った後は、ニーシアとレウリファと別行動をする。

 

 リーフの武装は簡素なものだ。

 普段着のまま、手持ちの武器も暗器に近い。身を隠すには適しているだろう。


「アケハ、相手の位置は?」

「最後に見たのは運動場の方だ。足は遅かった」

「……まず拘束だよ」

「ああ、難しければ、殺しても問題ないよな」

「逃がすよりはね」


 建物を出ると最短経路で相手の元に向かう。


 ダンジョンで作り上げた施設内は、特有の明かりで夜闇を退ける。

 各施設の配置に余裕があり、見通しも悪くない。


 侵入しながら声を隠さない相手は、薄明りの中でも簡単に見つけられる。


 侵入者の男三人が、ヴァイスを追いかけている。

 魔物を見つけて対処に急いだ。逃げるだけの魔物に気を取られて、周辺への警戒が失われている。


 建物の脇から覗くかぎり、ヴァイスには余裕が見える。暗さの問題があって全力でない状態でも、駆け回る中で休憩できている。


「強い光で妨害できない?」

「できるが、……外の敵に知られないか?」


 悩み声を出すばかりで、リーフの応答が遅い。


「どう見ても素人で、たぶん心配もいらない。本気で対抗するなら投網くらい用意したはずだよ。連携も無い」

「そうか……。ヴァイスを逃がすために、先に注意を引き付けてもいいか?」

「私はいつでも対応できるから、ヴァイスの目を守ってあげてね」

「そうだな」


 相談を終えて動く。

 建物脇から駆け出し、次には声を上げる。


「ヴァイス!」


 相手は声に振り向いただけだった。

 魔物の方向に進んだためか、横切る間も動きが止まっていた。


 ヴァイスの元に来たところで、自分の体でヴァイスの顔を隠す。

 背に向けた手から光球を作り出し、魔力の制御を強めた。


 一帯が昼より明るくなる。

 色を捉えたのは一瞬で、後には白に染まった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ