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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
1.意思編:2-37話
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29.墓守熊との戦闘



 自分の何倍もの大きさの体を持ったオスの墓守熊が目の前の雨衣狼を狙って突進を仕掛ける。

 腹から登ろうとしていた2体の雨衣狼は振り落とされ、レウリファは距離を離す。至近距離で注意を集めていた1体は避けきれずに踏まれたようだ。

 走り抜けた墓守熊はその場から距離を取って、後から追い駆けてくる2体の雨衣狼へうなっている。

 離れた所で戦いの様子を見ているメスの墓守熊の動きを見逃さないようにしながら、倒れている狼の元へ向かう。

 地面に倒れている雨衣狼は前足が歪な方向に折られている。立ち上がる事はできないだろう。重い怪我しているが今の状況で安全な場所に動かす余裕はない。

「立ち上がらずに休んでくれ」

 怪我の部分から血が外へ流れていることは無い。

 今戦っている位置まで続く血痕は、配下の狼たちが墓守熊に傷をつくった事で生じたものだろう。茶色い毛皮で覆われた敵の顔の辺りでは赤が良く目立っている。

 そのしぶきを浴びている狼は隙を見て顔へと飛び掛かって、顎を開けている。

 レウリファが近づいてくる。

「ご主人様、槍を貰います」

 レウリファが持っていた盾をホブゴブリンに手渡すと、ホブゴブリンの背負子にある投げ槍を数本持っていく。木の先端に石の穂先がついた物で、この場にいる2体のホブゴブリンが背負う量は使い切れないほどだろう。

「使い捨てて構わない」

 敵へ向かっていく彼女に伝える。槍は後でいくらでも作れるが、人は簡単に補充できない。

「お前は敵から離れた場所で彼女に槍を渡せ」

 盾を持つ一体のホブゴブリンに彼女を追いかける様に命じる。

 レウリファは剣を腰に仕舞い余分な槍を途中で落とすと、両手で槍を持ってそのまま敵へと走る。

 2体の雨衣狼が敵の前方にまわって顔を執拗に狙っている。

 レウリファが離れると、敵の脇腹に刺さる槍が見えた。

 敵は体を揺らすが激しく揺れるだけで槍が抜ける様子はない。

 彼女が地面に置いた別の槍をかがんで拾った時には、ホブゴブリンもその場に着き、次には手渡せる態勢が整う。

 雨衣狼が敵の顔に牙を立てている隙にレウリファが再び刺突を行うが、今度は敵の体に刺さらずに彼女の手に残った。

 最初に刺さっている槍の根元から血が流れ落ちている、敵が激しく動いた事で傷口を広げたのだろう。


 敵は噛みつく狼を無視してレウリファの方に走る。

 レウリファに投げられた槍が敵の進路上に突き立つと、4つ足で駆ける巨体が急に勢いを落とした。

 槍を大きく避けようと動くと、雨衣狼の一体が止まった前足へ噛みつく。

 直後に振り飛ばされるが問題なく立ち上がり、再び向かっていく。

 もう一体の狼は敵の正面に移動して強く吠える。

 敵の顔を足場にして跳ね上がり突進の直撃を避ける。

 レウリファは槍を背負うホブゴブリンへ近付き背から数本を掴み取ると、傾きを付けて槍を地面に刺していく。

 穂先が次々と地面に埋まっていき、人が走って通る隙間がある木の壁ができる。

 敵は脇腹に刺さる槍から背に登る2体の雨衣狼を嫌がり、振り払っている。

 傷口から落ちた血を踏んでいる狼たちが血の跡を広げていた。


 レウリファが迫ると、雨衣狼が敵の前方を通って敵の向きを変える。

 今度の槍は深く突き刺さり、両側の胴体に足場が出来る。

 敵は激しく転がり槍を外そうとするたびに、槍の持ち手部分、柄の向きが大きく動く。

 立ち上がった時には槍の一つが抜けていて、下半分の毛皮は地面に広がった血や土にまみれて傷口もわからない。

 距離を置いていた狼や彼女を追うように動くと血の線が引かれていく。

 雨衣狼は少しの距離を保って敵を誘い、体力を少しでも浪費させているようだ。

 レウリファがその間に槍を用意して、狼が敵の顔を覆う場面をみてから再び脇腹を狙った。

 離れたレウリファの腕が血まみれになっている。

 槍は手に無く、敵のそばにも落ちていない。刺した槍が深くまで差し込まれているなら、動いたところで抜ける事は無いだろう。

 レウリファは待機しているホブゴブリンから槍を受け取り、次の槍を持つ。

 

 雨衣狼やレウリファは戦う場所を変えながら、次々と槍を敵の体に残していく。 突き刺そうとして何度も槍を足元に落とす事もあるが、落ちたものを拾わずに新しい槍を取りに行く。

 雨衣狼たちは敵の振り払いを避け損ねると飛ばされて転がる。地面に広がる血にまみれていくと、次第に元の毛皮の色も見えなくなる。

 血の臭いが自分の元まで届くようになるころには、槍が十を越えて突き立てられて敵の動きは遅く、噛みつかれている顔さえ十分に守ることが出来ていない。

 前方で避け続ける狼たちは顔を狙い続け、レウリファが刺さる槍から離れた部分へ突き刺していく。

 彼女が投げた槍が敵の頭に当たり、敵の体勢が崩れた。

 敵の動きも無くなり、配下の狼も近くから離れる。その間も親熊と子供は動かずにいた。


 装備の前面が血に染まったレウリファがこちらに歩いてくる。呼吸も深く、足取りも重い、見た事の無い疲れがレウリファに現れている。

 配下の2体の雨衣狼からも普段とは異なる荒い呼吸が聞こえる。

 レウリファが周囲に槍を立てていく。

 荷物の重みも無くなったホブゴブリンはここで待機させて、もう一体のホブゴブリンをレウリファに預ける。

 囲いの中で休んでいる間もメスの墓守熊は動かない。

 墓守熊の子供たちは動き回るものの親の傍を離れず、こちらへ近づくことは無い。

 レウリファの呼吸も整えられて血色も戻ってくる。

 食卓近くのたき火の火も消えて、鍋も冷め始めているだろう。


 レウリファは留まっている群れを見ている。

「子供を逃がせば、積極的に人の前に現れるようになります」

 同じ村が何度も襲われたという記録はあった。逃がして後で襲われる可能性は高い。それに加えて自分たち以外の人間も狙われるようになる危険もある。

「そうだったな」

「はい」

 出会わなければ、殺す必要もなかった。

 最初に襲い掛かってきた時点で群れのすべてを相手にする事は決めていた。残りが逃げたとしても配下の魔物に追わせただろう。

 護衛のレウリファは主である自分を危険にさらす許可を求めている。

 疲れている状態のレウリファや配下の魔物が殺されれば、自分も殺される可能性は高い。このまま逃がしてしまうなら、襲ってくる可能性を常に警戒しなければならない。彼女が判断するよりは任せてもらった方がいい。戦わない自分が悩めばいい。

「殺せ」

 レウリファはこちらから距離をとるように移動し始めた。

 彼女の後を配下達が付いていき、動きの無いこちらから彼女たちの方へメスの墓守熊の注意を誘っている。

 槍を投げる。

 子供の近くに槍が落ちると親がレウリファの方へ走り出し、子供たちは後ろをついてくる。

 2本目の槍を投げる。

 槍が刺さった子供の動きが悪くなり、距離が離れていく。

 雨衣狼が親の方に襲い掛かり、もう一体の子供にはレウリファが向かった。

 子供の墓守熊を蹴り転がしてから、その頭部へと腰から抜いた剣を叩きつけた。

 動きが鈍ったところで子供を踏み、頭をめがけて両手で握った剣を突き立てる。

 槍の刺さっている方の子供は死体の傍に寄ると立ち止まっている。小柄の体に刺さる槍は普段より大きく見えてしまう。

 レウリファは突き刺さった槍を両手で握り直す。

 子供の体に槍を深く埋めた後、剣を振り下ろした。

 レウリファはもがいていた死体から離れて、槍を受け取りに向かう。

 メスの墓守熊は最初に襲い掛かってきたものよりも弱い。

 2体の雨衣狼は頭、前足、後ろ足と次々に噛みついていき、蹴り飛ばされる事も少ない。

 レウリファは一度槍投げたが胴に突き刺さらなかったため、直接槍を刺しに向かった。

 足元で横たわる配下の狼も息をしている。



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