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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
10.先導編:268-295話
288/323

288.業因



 光球を手元に留めて建物を一周する。物音を聞き。風で揺れる木々の中で眼球の反射を探す。星明りの空より手元ひとつの光が頼りになる。

 最後にヴァイスの小屋に寄って、眠る姿を確認してから家に戻る。


 生活の場を壁で囲った後でも、見回りは回数を減らしつつ継続する予定だ。

 少数で土地を維持する苦労を実感する。村を興すために人を集めるのも、最低限の頭数が必要だからだ。ダンジョンで助けられている今でも一部の作業は残る。


 自室に入って、ダンジョンコアに触れる。

 手で接触するだけで以前と同様に操作できる。


 ダンジョンを形成する壁や床は全て、ダンジョンの目だ。

 侵入者への警戒も、単純な見回りより安全に行える。


 建物の周囲に不審な存在は見当たらず、対して、この部屋に隣接する居間でニーシアの姿を見つける。


「アケハさん。起きてますか?」


 本当の視界に注意を向ける。

 足音を抑えたニーシアが部屋に入ってきた。


「眠っていたら怒られるか?」

「いくら、アケハさんでも許しませんよ」


 交代には早いが見回りを欠く事態は防げる。眠気が残っても昼間に眠れば解決するだろう。


 こちらに近づいたニーシアがダンジョンコアの方を見る。


「今なら聞いてもいいか?」

「……いいですよ」


 ニーシアがダンジョンコアの上部に手をのせる。


 部屋の入り口側から物音が鳴り、迫りあがった壁が入り口を塞ぐ。同時に天井部の通気口も塞がれて、部屋が密閉された。

 ダンジョンを操作した。


「アケハさん。数歩だけ離れてもらえませんか?」


 距離を取ると、ニーシアの姿が消える。


 自分が出入りできなくなった空間で広い視界を得ているかもしれない。部屋の周囲を見回してみると、時間を置かず、ニーシアは姿を現した。


「やっぱり、入れないんですね」

「何度か試したが無駄だった」


 軍は魔法に対する防御で転移を防いだ。自分の場合でも、体内の魔力が邪魔になっている可能性がある。


「ダンジョンって魔物みたいですよね?」

「思った事はある。魔石代わりになる時点で遠くない存在だろうな」


 ニーシアはダンジョンコアから離れて、こちらに寄る。


「アケハさん。……私、魔法が使えません」


 人間は洗礼を受けなければ魔法を使えない。

 魔族に協力した罪で洗礼を禁止されたニーシアは、洗礼を受けられず魔法も使えない。


「魔道具も扱えない。アケハさんと同じ働きはできません。……私がいても良いのですか?」

「……今、迫られても、情報を握って取引するみたいになるな。変に心配しなくても一緒にいて困るなんて言わない」

「酷いです。私も、そこまでは考えていませんでしたよ。……単に、思い詰めた頃を思い出しただけです」


 接近と同時に頭突きをしてきたニーシアを受け止める。


「言い方が悪かった。このまま一緒にいて欲しい」

「もう、仕方ありませんね」

「……牢屋から連れ出した件で、認めてくれても良かったんじゃないか?」

「それはそれ、これはこれです」


 見上げてくる顔を正視する。


「心配ない。俺よりも優秀だ。出来過ぎて俺の立場が失われそうだ」

「返って駄目じゃないですか、その私。……分かりました。アケハさんのために適度に弱みを残しておきますね」

「いいや。遠慮せず強くなってくれ。……ただでさえ人手が足りないんだ。優秀な分、頼らせてもらう」


 距離を作ったニーシアが姿勢を正す。


「また、お世話になりますね」

「住み心地が良いとは言えないが、楽しめる工夫はするつもりだ」


 笑みの後、呼吸を整える一時の間が生まれた。


「ダンジョンは、彼らの目的があって行動しています。私たちは指示できるだけで、従うかは彼らの判断でしかありません。私の能力不足というだけなら、アケハさんの持つダンジョンコアもDPを増加させなかった。……私は彼らに交渉したんです」


 ダンジョンに独自の意思がある事は認める。最初に出会った存在からは意思を感じた。姿を変えた後も以前の姿を見せてこないとは限らない。 


「教えてください。アケハさんはどうして……、そのダンジョンコアから特別扱いされているのですか?」


 ただ、特別扱いされていた覚えはない。ダンジョンコアを区別するような事も考えていなかった。


「分からない。ただ、思い出せる最初がダンジョンの……あの部屋の中だった」

「ありがとうございます」


 魔物同様に生み出されたというなら魔法が使える事にも納得できる。それでも、魔物を大量に生み出すダンジョンが自分を特別扱いする理由があるだろうか。

 魔法に関しても、訓練して扱えるようになっただけだ。


「分かれた後に色々と試していました」


 魔族であるサブレと協力していた件は追及を避ける。

 ニーシアの語る順序で聞けば、情報の整理も早いはずだ。


「どうしてダンジョンがDPという形で力を貸すのか。野生の魔物を連れ込む。規模を広げる。人を殺す……求める傾向は変わりませんが、意外にも、それぞれで報酬が違うみたいです。結果毎の報酬が違ったり、そもそも操作に必要なDPの要求も変わる」


 ニーシアは一度、背後にある台座に目を向ける。


「正直に言うと、アケハさんのダンジョンは特別出し惜しみが酷いです。まったく力を貸してくれません」

「……そうなのか」

「はい」


 ニーシアは悪いと断言する。

 DPを隠していた事実もあり、出し惜しみは真実だろう。

 

「多分ですけど、DPと一律に示しておきながら、実際の労力は別なんだと思います。魔物を作る場合でも、個体差があるなら生成する際のDP消費に差があって然るべきですよね。……精々が種族差で、操作が容易になるよう単純化されている」


 DPで表されない誤差に納まるとは思わないらしい。生み出される魔物が同一の存在ではないため、ダンジョン側が操作を助けてくれているのは事実だろう。


「試してはいけない事ですが、そのダンジョンだと、放棄・再設置を繰り返せば、DPという基準も崩れると思います。……もちろん駄目ですよ。私も交渉なんて言いつつ、決定権はダンジョン側にある。あくまで要求を受け入れてくれただけですから」


 見た目に変化が表われるわりに放棄や再設置にDPは消費しない。

 壊されるより一方的に苦労して逃亡できた方が良いというのか、操作側が抵抗なく選択できるよう仕向けられている。


「彼らが魔法を扱うというなら、逆に魔力を与えてDPが増えてもいいとは思いませんでしたか?」

「試した事はある」


 魔力を送っても反応は無かった。

 ダンジョンが求めてくるのは労力ではなく成果だ。それすら誘導する意図かもしれず、本当の目的は分からない。


「ダンジョンはいつだって協力的です。私たちの要求に合わせて動いてくれる。……けれど警戒は忘れないでください」

「わかった。忘れないようにする」


 会話の後、ニーシアの提案で一旦、外の警戒を行った。


 自分が部屋の端に座ると、ダンジョンに姿を消したニーシアも再出現する。

 並んで床に座る。


 光球を指差すニーシアに合わせる。光球は包む両手で運ばれ、離れた位置で解放される。

 ニーシアが笑みを見せる。


「ここまで話しておきながらですが、実は私、……まったく魔物を操れません」

「そうなのか?」

「はい。ダンジョンから命令して、どうにか動かせる程度なんです。それに強力な魔物だと命令に従わない事もありました。……私、役に立ちますかね?」

「今の情報だけでも十分だ。魔法が使えないのに魔物のそばに立つなんて、自分では試せない」

「それなら良かったです」


 重心を傾けてきたニーシアを支える。


「ダンジョンコア……、一つしか持っていないんですね」

「二つ目を持ち帰るわけにもいかなかったから、問題にならない相手に譲った」

「権限を与えたんですか?」

「いいや。売却できるとしか説明していない」


 ニーシアはこちらの事情を知っていたから協力を求めた。事情を話してすらいないアンシーを巻き込むのは好むところではない。


「……あれには結構、蓄えていたんですよ」


 ニーシアから返された時点では、入手した当時と変わらないDP量だったはず。DPの残量を偽る程度は簡単に行えるようだ。


「どれだけのDPを溜めてあった?」

「今の十倍くらいです」

「それは、……大きいな」


 今でも村の規模でダンジョンが作れる。十倍となると使い切る方が難しいだろう。

 本当に困窮した時には、譲ったはずのアンシーに頼みこむかもしれない。


 光球を消して、ダンジョンの明かりの中で夜を過ごす。

 部屋の出入りを開放した後、ニーシアに寝具を貸して、夜番を続けた。



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