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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
10.先導編:268-295話
286/323

286.再始動



 道なき平地を歩いて雑木林の手前で止まる。


 村長から聞いた通り、日当たりの良い林がある。

 木々の間隔は広く、地面も歩行に困らない。端から切り倒さずとも台車と共に林の奥まで進めるため、伐採に苦労しない。

 林の規模を見ると、村人が管理した結果というより、元から林業に適した状態があったと考えるべきだろう。


 林には魔物が生息しており、伐採の際には盾持ちが必ず加わる。武装した者が先頭となって、全員で撃退するらしい。

 村の監視も毎日見かける程度に、魔物が生活に影響してくる。


 村の外れに暮らす自分たちも同様だ。


 警戒させない距離に設置するとしても、村との往復は欠かせない。

 これから拡張する事を考えると、半端な位置になってしまった。


「最初は小屋程度の建物でいいな?」

「見せてもらうよ」


 旅中で語ったとはいえ、リーフにとっては初めての経験だ。表向きは平静を保っていてもダンジョンへの警戒はあるだろう。


 地面に置いた箱鞄から、ダンジョンコアを取り出す。

 皆から離れた場所に移動して、設置を試みる。


 地面に置いたダンジョンコアは、下部から特有の建材を生み出し、触れやすい高さまで柱を生成する。

 足元にも若干の床を広げて工程が完了した。


「……久しぶりだな」


 石の柱に飾られたダンジョンコアがある。表面を撫でて以前どおりのDPを確認する。


 自分の始まりはダンジョンの中だった。ダンジョンで出会った存在に名前を与えられて、迷宮酔いから離れるのが危険だと思って生活していた。


 部屋に運ぶように操作する。

 視界が変わらない。四方を壁に囲まれた空間は見えず、周囲を歩き回ると視界通りに土の地面がある。

 かっての部屋に移動できなくなっている。


 ダンジョンを設置できている以上、操作方法が変わったわけでもない。アンシーの隣家に住んでいた頃までコアルームにも移動できていた。


 以降でダンジョンに関わったとすると、ニーシアが操るダンジョンを制圧した時。制圧部隊の一部が転移によって行方不明になった件だ。

 ダンジョンによる転移を防いだのは魔法防御だ。他者の魔力が魔法の妨害になる。自分が強化魔法を続けているかぎり、ダンジョンによる転移が通用しない。


 身体強化を止めるも転移は行われない。

 他者の魔力が邪魔だというなら体内の魔力も放出する。


 欠乏するはずがない。

 身体強化の魔法を常に維持していた。

 いつしか魔力量に限界を感じなくなっていた。


 魔力が不足したのは、魔法を学び始めた時だけだ。

 最初に魔道具で体内の魔力を引きずり出された。欠乏から来る不快感も訓練を続けて感じられなくなっていた。


 魔力を放出しても、満ち足りた状態から変化しない。

 今が最大だ。極端に放出量を増やせば、魔力の制御を乱す危険もある。

 転移は諦めるしかない。


 深呼吸をしてから、ダンジョンコアへと触れる。

 予定通りに小部屋を生成する。


 台座の床が広がり、床の限界から壁が伸びていく。

 一定の高さまで成長した壁から屋根が作り上げられる。


 四角い部屋だ。

 中央に台座がなければ、四肢を広げて寝転べるほど。

 宿屋の二人部屋でも最小の広さしかない。


 これで蓄えていたDPの三分の一が消費される。時間毎にDPが自然増加するとしても、消費分を回復するには日数がかかるだろう。


 転移できない問題が発覚したが、操作の確認はできた。


 出入り口から屋外に出る。

 扉を設置すべきだが、通気用の窓も欲しくなる。以前より生活環境を追及してしまうようだ。


 部屋が完成した事で警戒が薄れたのか、リーフを含めた三人が近くにきていた。


「本当なんだ」

「便利だろう?」

「こうも早いと仮設の拠点にできそう」


 全ての機能を教えたわけではない。

 魔物を生み出す事と建物を作れる事。DPという具体的な制限は、今の段階では悩む必要が無い。


 リーフの発想は遠征が基準のようだ。

 人が建物を組み上げる場合は資材の運搬で苦労する。簡易的に組み上げる加工をしても物は消えない。遠征先で建材を調達できるとも限らない。

 ダンジョンコアひとつで済むなら、時間も労力も節約できるはずだ。


 開拓の最前線に使える。一か所に留まるには過ぎた性能を持つ。拠点を築いて魔物を仕向けさせる。防衛にも襲撃にも優れた能力だ。


「明日にでも村長に視察に来てもらおう」

「そうだな」


 村長に説明したとはいえ、村を警戒させる関係にはなりたくない。最終的に防壁で囲むとしても、建物の高さや大きさは抑える予定だ。


「……防壁の補強や石材の提供も、候補にできそうだ」

「破壊された各地のダンジョンも原型を留めているみたいだけど、切り離した石材の強度は確認しておきたいね」


 小部屋の外観は灰色だ。

 無地の灰色。ダンジョンを形成する石質の建材は綺麗とは語れない。光神教としても、ダンジョン産の石材が流出するのは嬉しくないだろう。


 緊急時や資金が枯渇した場合だけ。

 石材を村に提供するのも、安全を高めるためだ。

 実生活に活用できる存在と教えて、警戒を減らす。


 知名度が少なければ、交易の品目にも加わらない。

 こちらで制限する間は、変な騒動も起こらないだろう。


「部屋ひとつでは困り事も多いから、この後も少しだけ拡張する。構わないよな?」

「頼める? このままだと休憩小屋だから、定住にはつらいものがある」

「任せてくれ」


 いずれ全員分の個室を用意する。

 今は物置程度の小部屋を増やすべきだろう。野生の魔物も入り込めるためヴァイスも野ざらしにはできない。


 生成したばかりの部屋に戻ると、既に迷宮酔いが感じられる。

 ダンジョンとして機能しており、試しに壁を両手で包んでから覗くと弱い発光が見られる。夜でも最低限の明かりが保たれるはずだ。


「大丈夫ですか?」

「ああ、機能している」


 隣に来たニーシアは、こちらを横切りダンジョンコアに触れる。


「やっぱり綺麗ですよね。……これ」


 ニーシアがダンジョンコアを撫で下ろす。

 すぐ後には、こちらの腕を引っ張ってきた。


 ニーシアに誘導されてダンジョンコアに触れる。

 ダンジョンコアから伝わるDPの数値が増加していた。


 異常な増加だ。

 全てを消費すれば村一つ分をダンジョンに収められる。大量の魔物を生み出して、都市に襲撃をしかける事も不可能ではない。

 本来DPは連れ込んだ生物を殺した際に貰える。ダンジョンを成長させても自然増加が多くなるとしても、この瞬間に増加する要因が無い。


「秘密ですよ」


 笑顔で答えたニーシアが外へ去っていく。


 自分が扱ったことのない量のDPが示されている。

 DPの値に余裕が生まれたのは、決して悪い状況ではない。ニーシアの意図は安全な時間を作ってから聞き出せばいい。


 増やした部屋には小上がりを作り、棚も仮設する。村の一軒家に劣らない間取りが完成した後には、荷物を屋内に運び込んだ。


 早めに夕食の準備を始めて、夜に備えた。



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