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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
10.先導編:268-295話
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283.ひと吹き



「明日は教会に向かうけど、アケハも一緒にどう?」

「用事があるのか?」


 聖都から隣の都市に移ったところで教会は教会だ。数日の休養を決めたとはいえ、暇だからと訪れる場所ではない。そもそも壁寄りにある宿屋からは遠い。


 直前まで予定を相談していたニーシアやレウリファも、知らない話題に静止している。


「手紙だよ。定期的に報告するなら必要になるでしょ」

「準備していなかったのか……」

「時間が足りなかったんだもん」


 監視を自称した割に準備が足りていない。鞄に手紙を詰めるのに時間はかからない。忘れたと言われる方が納得できるくらいだ。

 ここで断ったところで、魔法やらで代用する手段は持っているだろう。


「そもそも、専属従者と告げて、門を通してくれるものなのか?」


 紋章を見せたとしても偽装を疑われる。専属従者は独立した地位ではない。聖者や聖女の同行でなければ訪問に事前の連絡を求められるはずだ。

 であれば、教会に向かうことは予め決められていた行動になる。


 質問に対して、リーフの表情は多大な自信を語っていた。


「ふん。聖女に頼らなくても現地調査員としての立場も持ってる。素通りとはいかなくても敷地内に入るのは訳ないよ」

「普通じゃないな」

「一応、正式な処理は通してある。もちろん無報酬」


 仕事を兼任するなど聞かず、専属に外の仕事を任せているのも不合理だ。いくら日常業務が少なくても他の都市を往来するほど暇ではない。


「懲罰部隊って聞いたことある? ……ま、不都合な人間を排除する役職かな」


 説明を求めると簡潔に返される。


「派閥争いを防がなかったのか?」

「基本関わらない。外部勢力を招くなら別として、顔が入れ替わるくらい正常の範囲内だよ」


 光神教の存続が第一だとしても、勢力が弱まるのも困るだろう。人命に関わる状況でも働かない部隊に活動実績があるとは思えない。


「だとしても、俺を殺さずにいる理由が分からないな」

「まず私では勝てない。それでも監視くらいはすべきでしょ?」


 リーフだけで対処しなければいい。監視と言いつつ今の状況も、安全に殺す環境を整える時間稼ぎでもあるだろう。


 多方の教会を訪れるには便利な立場にいる。最適な人選に変わりない。


 ただ、身近に置きたくないアプリリスが都合よく押し付けてきた可能性もある。

 必要以上に休憩を求めようと専属従者に残されていた。リーフが懲罰部隊に所属していた事も推測していただろう。


「足りない物はある? 教会から持ってくる事も可能だけど……」

「いや、緊急で欲しい物は無いはずだ」


 旅の道具に特殊な物は求めていない。少々の不足も数日間の買い物で済ませてしまえる。


「これからも定期的に報告を送るわけか。目安を教えてくれれば書く時間も作るぞ」

「うん。助かるからお願い」


 旅中は落ち着ける時間が少ない。


「お互いに特だね。……ついでに読んでみる?」

「まあ、定住する頃には覗かせてもらう」

「いいよ。せっかくなら暗号も入れてみようかなー」


 敵と宣言しながら結局はこれだ。

 居場所は把握されており、問題を起こせば即座に追撃される環境にいる。


 今の状態は万全ではない。

 身一つで戦えるなど虚勢でも言えない。都市の中では無力に等しく、住民を巻き添えに破壊活動を行ったところで一過性のものだ。

 光神教に損害を与えるためではなく、自分を存続させるために動いている。


 地位も信用も無く、半端な武力だけを持っている。ダンジョン操作できる事は未だに解決していない。ひと言で済ませられるのはあの聖女くらいであり、他の者からは外敵と思われるだろう。


 攻める際の被害を惜しむくらいが理想なのだ。簡単に攻め落とせない自分の拠点を作る。それすら許されないなら自滅覚悟の抵抗をするしかない。


 素直に聖者の代役を受け入れれば、今ほど悩まずに生きられた。

 罪悪感に溺れていれば解決した話だ。自力で手に入れようとするから苦労する。与えられるものに従っていれば、死の直前まで安心でいられただろう。


「ちなみに目的地はどこだっけ?」

「現地を見ない事には判断できないが、村になるだろうな」


 法国は古い。長く存在する間に壁外の脅威は減りつつあり、探索者の需要も少ない。

 主要な街道では魔物に遭遇せず、人の流れが絶えないおかげで野盗が盗みを専門にするくらい安全な道になっている。

 魔物が害と知られているわりに、被害は都市間の中継でない村に偏っている。魔物の領域に接する国とは状況が違う。


 都市で新たに獣使いを受け入れる理由がなく、獣魔が暮らすには厳しい街並みが保たれている。泊まれる宿屋も両手で数えられるほどであり、家を持つ場所としても不適だ。


「個人で扱える広い土地が欲しい。新しい村となると周囲との共存が怪しくなるから、許可を貰って村の外れに住み着くくらいから始めたいところだ。……俺がダンジョンを操作できる事は知らされているか?」


 最後の話を聞いて、リーフが小さく納得する。


「忘れてた。……なら、国を移らない方がいい。同盟国でも遠方だと指示が遅れる。国独自で軍を動かさると後処理が面倒だよ。公に見せたいものではなく、かといって隠したくもない。国境沿いでも主要な街道から外れたところ、国同士の軋轢を生みたくないから、遠方からは目立たないようにしてね」

「そうだな」


 自身の判断が誤りとは思わないが、光神教を離脱したのは衝動的な行動だった。

 専属従者も一時的な立場と考えていたはずだ。異常を隠すばかりに目を奪われて、離脱後の備えを忘れていた。


 理想を語れば尽きないが、不足に気付くと後悔してしまう。

 村の選別の為に光神教の資料を探ればよかった。十分な資金があるとしても旅に費やす時間は少なくしたくなる。


「見つめられても教会には行かないぞ」

「えー。つれないなあ」

「捕まるのが怖いからな」


 窓の外は未だ明るい。リーフの積極性もあって宿の確保が早く済んだ。隣の部屋も借りているため各自で過ごす時間も作れる。

 三人の仲が今後も保たれるとは思わない。協力すべきと今は納得していても、状況は留まってくれないだろう。


 自分が殺されるまでの関係だとしても、見ている間は穏和であってほしい。


 夕方の内に宿屋の獣舎小屋にも顔を出して、一日を終える。



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