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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
1.意思編:2-37話
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26.曇りのち雨



「おはようございます、アケハさん」

「ご主人様、おはようございます」

 自分が朝の訓練のために外へ出ると、2人がくつろいでいる。食卓にある腰掛けに向かい合って座り、飲み物を飲んでいたようだ。

 薄い曇り空はダンジョンの中にいるような気分になる。

「おはよう。ニーシア、レウリファ」

 食卓の上に乗った金属の水差しには、彼女たちが飲んでいるものが入っているだろう。

「アケハさんも飲みますか? レウリファさんのお手製ですよ」

 自分が来る事も想定していたらしく、3つ目の器が用意されている。

 一杯だけ貰い口に含む。朝早くに飲むものなので濃いこともなく、寝起きの喉を洗ってくれるような味である。

「ありがとう、レウリファ」

「はい」

 飲み終えて器を返す。


 木剣を振り回せるような場所へ行き、柔軟運動をしてから素振りをする。実用的な武器では重さに負けてしまうため、木剣を使って鍛えるしかない。一振り毎に力を込めるように意識して、目標の位置で剣を止める。こんな事をしたところで本当に鍛えられるかはわからない。

 配下のゴブリン達の訓練を真似して剣の素振りを始めたのだが、投擲武器が作られてからは、彼らの訓練内容が槍投げに変わっていた。狩りの獲物を見ても刺し傷が多くなった。彼らに襲われたら、槍が飛んでこない場所まで走って逃げるしかないだろう。

「ご主人様、訓練の相手をしましょうか?」

 レウリファが訓練を手伝ってくれるようだ。

 彼女の普段着は袖と裾が長く、手足と頭、あとは尻尾ぐらいしか服から露出している部分が無い。それに革鎧、革の小手を着ているため、攻撃できる場所も限られてくる。

 二人で物置部屋へ行って装備を選んでいたためレウリファの装備はわかっている。こちらと同じ木剣を持っていて、盾や他の武器は装備していないのは良かった。盾を持たれると、何度剣を振ろうと防がれる想像しかできなかった。

 少しだけ開けた平坦な地面で二人の間には切り株一つ無い。

「行きます」

「来てくれ」

 攻め方が分からない事を察してくれたのか、10歩ほど離れた場所からレウリファが剣を構える。ゆっくりと歩いてくるので、自分から狙っていけそうだ。

 右手に持った剣を軽く握りる。半歩引いて、とっさに移動できる体勢をとる。剣を振り下ろしても自分の腕前では弾かれるだろう。であれば、一回でも攻撃が当たる事を目標にして、突きを狙った方が良い。

 こちらから踏み込む機会を待ち、近付くレウリファの胸をめがけて剣を突き出す。低い衝突音に気づく。軌道をずらされ、こちらの剣は宙を刺した。

 伸びた腕を引き戻し、レウリファの腕が戻らない隙に再び突く。下がるレウリファに剣先が届かず、戻ってきた剣がこちらの刺突をそらす。

「攻め続けて下さい」

 止めていた息を吸い直す。

 突く他にも横薙ぎをしたり振り上げたり、後ろに回り込んで攻めてみるが、空振りになるか剣で逸らされる。レウリファは自分との距離を保ち、こちらの剣を流し続けている。

 斬撃を剣で受け止められた時には、引くようにレウリファの体も動き、次の攻撃が届かない。

 避けられる隙間を埋めようと、体当たりを狙ったが当然に避けられる。体勢を整える間、レウリファは剣を振らずに待ってくれている。


「ご主人様は魔物を仕向けられますので、敵に攻撃せずに守るか逃げた方が安全です」

 配下の魔物を連れていない状態でも活動したい。

「ですから、今度は私の剣を逸らしてください」

 レウリファの剣を振る速さは、先ほど守りを固めていた時よりも遅い。ただ、その事が分かっていても受け止められずに、腕や手に痛みが生まれる。

 走って逃げ続けるなら、彼女が追わない限り攻撃されることは無いだろうが、対人の訓練にならない。胴を突かれる痛みには目が閉じてしまい、体勢が崩れて地面に手をつく。

 最初から対応できるとは思っていない、元々彼女の剣速には敵わないのだ。近くで武器が振るわれることに慣れて、防げるものを増やしていけばいい。

 立ち上がって地面に着いた部分を叩く。


「そろそろ、食事の時間になりますから訓練を終えましょう」

 レウリファが武器を下ろしてこちらに来る。

「レウリファは洗礼の時に戦士の印を貰ったのか?」

 ニーシアが洗礼の印には種類があるといっていたので気になった。自分に適した能力が分かるなら訓練もしやすいのではないか。

「ご主人様、獣人は洗礼を受けられませんので、印を持っていません」

 洗礼を受ける前から魔道具を扱えるのか。自分も洗礼を受けた覚えはない。手の甲に印は無いので受けていないだろう。

「そうなのか」

 洗礼を受けると魔道具が使えるらしいが、都市の生活では魔道具を使っている様子は無かった。手の甲に浮かび上がる印で自身の才能が分かるだけでも、洗礼を受ける価値はあるのだろう。

 レウリファとの対人訓練を終えて武具を片づけをする。


 ニーシアが料理をするのは見慣れていたが、レウリファが配膳を行う様子を見るのは初めてだ。自分だけ食卓に着いている状態が落ち着かない。

 食卓に料理がのぼるようになってから日が経っていないのもある、たき火も食器も無かった生活から少しづつ進歩している。

 配下の魔物との食事を懐かしむ間に配膳も終わり、3人で食事をする。


 空を見たニーシアが今日明日中に雨が降ると教えてくれた。湿り気も多いと自分でも思っていた。

 濡れては困る物をダンジョン内へ運び入れる。干していた食材、食卓、たき火の薪や枝。荷車にのせて、数回往復するだけで終わってしまう。


「雨の日だと、時間が余ってしまいそうですね」

 ニーシアが食卓の天板に伏せながら声をかけてくる。

 天板代わりにしている数枚の木板は表面が滑らかで、腕を乗せた時でも擦り傷が付くことが無い。切り出した木板には棘や引っかかりがあり、そのままの状態では使った際に怪我をする事は容易に想像できた。

 途中で休憩を行うほど時間を使い、危険な部分を金属のやすりで削り取り、全体を石でみがいたのだ。窪みや山が残り、売り物にならない出来であるが、使うには問題無い具合になっている。 

 ここの生活では雨の日には出来る事がかなり限られてしまう。山菜取りや伐採作業も晴れていないと服が濡れてしまう。濡れた服は肌に張り付いて動きづらく、重さも増えて余計な体力を使う。雨の日に外で長時間の活動をする事は避けるべきだ。

「ニーシアさん」

 レウリファは腰掛けに座っていて背筋も伸ばしている。

「レウリファさん、どうしたの?」

「良ければ、お菓子を作りませんか?」

 身を起こしたニーシアが立ち上がると、食卓の回り込んだ先にいるレウリファの手を握り持ち上げる。

「早速、行きましょう」

 ニーシアはレウリファを連れ去る様に物置小屋へと向かって行った。料理道具や食材を確認しに行くのだろう。食材は十分にあるし、都市の市場で買い込んだのは彼女たちだった。お菓子を作る材料も買い揃えてあるのかもしれない。奴隷商店に行った時に食べたお菓子も美味しかった。

 自分も手伝った方が時間を忘れられるだろう。



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