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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
1.意思編:2-37話
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25.レウリファの気持ち



 ダンジョンで用意できる寝台は、宿屋に置かれている物と大して変わらない。配下のホブゴブリン達に木を伐採させて作らせた木の板を、自分が組み合わせて釘で留めたものだ。職人のような技も無いため、寝台の枠の部分とその上に置かれた横板の間に隙間ができている。

 寝返りをすると固定されていないような不安定な音が鳴るため、隙間ができる部分に布を詰めて音を抑える事はした。寝台自体がきしむ音は残念ながら防げなかった。

 組み立ての容易な部品は外して軽くしてから、運べるものは荷台に乗せて運ぶ。彼女の部屋の入口は人が通れる広さしかないので。部屋の前まで寝台を運んだ後は手作業で運び入れる。寝台に使っている木の板は分厚く、大きな部品は協力しないと時間も手間もかかる。

 部品を運び終えると部屋の中で組み立て、使えるか2人で確認する。寝台の上に今まで使っていた敷布を乗せれば完成である。

「これで少しは眠りやすくなったはず」

「はい」

 部屋の中は掃き掃除をして清潔を保とうとしているが、通路や外から運ばれてくる砂ぼこりは防げない。地面に布を敷いて寝ていた頃は、一日敷いておいた布を叩くと砂ぼこりがでていた。

 地面より高い寝台で寝転ぶなら、砂ぼこりを浴びる事を多少は気にしなくなるだろう。それに部屋で休憩したい時には椅子代わりになる。


 自分も寝台を準備して疲れたので二人で並んで座っている。横を見るとレウリファの茶色い髪と人間とは異なる耳が見える。

 彼女は軽く俯いていて、背の高い自分では表情が分からない。

 寝巻を着ている彼女の首元からは、少し日焼けをしたような淡い褐色がのった肌が覗ける。

 外着の彼女は自分よりも足取りも軽やかで、締まった体つきは護衛らしさがあった。今の彼女は寝るためにゆとりのある服を着ていて、責めたてる気を失わせてしまうのを感じる。

 寝巻からはみ出ている手首足首には獣人特有の毛並みがついていて、彼女の腰には尻尾もある。

「少し触るからな」

 当たった瞬間にわずかに動くことはあったが、それ以上の抵抗も無い。

 彼女の袖部分をめくりあげると前腕に生える毛がしっかり見える。ただ、水で濡れた後は放置して乾かしたような癖がついていて、ニーシアが言っていた通りで毛並みを整えるようなことをしていない。

「毛繕いはしていない……」

 都市からの帰り道で野宿をしたときでも毛を整えていた。ここへ来てから、使う道具を持ち出した様子も無かった。

 自身の体の管理を怠けているレウリファの様子を疑い、手で彼女の髪を避けて奴隷がはめている首輪へと触れる。

 首輪に指輪を当てることで魔力の溜まり具合を確認した。

「首輪に魔力を溜めていないのか?」

 彼女は答えない。

 主人の近くにいる場合に魔力を溜められる奴隷の首輪は、奴隷が溜めるはずの魔力が無くなると逃走と判断され奴隷を殺す機能が働く。

 彼女自身が生きることを諦めている理由がわからない。勝手に死なれても困るので、主人の魔力で奴隷の首輪をへと魔力を送る。


「良いのですか?」

 彼女から声を発する。

「私は貴方を殺そうとしたのに」

 奴隷を扱えないのは自分が原因だ。

「今は気にしていない」

 レウリファに対して特別な嫌悪は無い。殺されかけた事に警戒しているだけだ。

 配下の魔物が近くにいる事を知っているため、彼女の隣に座る事ができている。

「ここに暮らす魔物たちを見ていたら。自分たちと変わらなくて。自分が間違っているような気になって。村が魔物に襲われたのは嘘じゃないの」

 ダンジョンは人間を殺すためのものと、最初に出合った精霊が言っていた。

 人間、獣人を区別せずに襲うのなら、魔物はダンジョンと違い目的があって作られたものでは無いのかもしれない。あるいは獣人も人間の範囲に収まるのだろうか。

「村を襲った魔物も、私を奴隷にした人間も、私にとっては同じはず。私が見た魔物も村人も人間も、見た目ほど違いは無かった。どうしようもない気持ちをまぎらわせたくて、何かにぶつけて楽になりたかっただけなの」

 都市で人間と同じように生活している獣人は見かけなかった。自分たちで隠れているのかはわからないが、同じような生活は望めないのだろう。

「お願いします、私を殺さないでください」

 彼女がこちらを向いている。身勝手な意見ではあるが、彼女を殺さなくても済むなら損が少ない。

「魔物に被害を受けていたなら、レウリファが魔物を従える俺を殺そうとするのは当然だ。俺は無差別に人間を襲わせるつもりは無い。その事だけは覚えておいてくれ」

「わかりました」


「荷物から道具を取り出すからな」

 箱鞄の中を漁る。櫛や布は簡単に取り出せる場所にあったため早く見つけることが出来た。大きい布や目の細かさの異なる櫛を取り出して鞄を閉じる。

 長時間洗濯をしていた疲れは今も残っている。それは相手も同じだろう。

 今までに見た彼女の毛繕いの様子を思い出す。


 寝台に腰掛けるレウリファの肘部分に粗い目の櫛をあてる。自分の爪よりも短い毛で覆われてたレウリファの腕の、肘から手の先へと櫛を動かしていく。短い距離だけ進み、毛を揃えると、半分ほど戻りそこからとかし始める。

 手の甲まで届くと、目の細かい櫛に持ち替えて同じように動かす。途中で肘を回して、整え忘れる部分が無いように気を付ける。

 櫛を通した際に集まった毛を布へ落とす。

 道具の扱い方にも慣れた頃に足の方へ取り掛かる。


 足首まで隠れた靴は紐で固く結ばれていたためレウリファ自身に脱いでもらった。

 寝台の上で両膝を立てるように座らせて毛を整える。

 毛繕いをする間、レウリファの視線を感じている。緑に近い青の瞳が、こちらの繰り返すような手の動きを逃さずに捕らえている。

 スカートの裾は太腿が覗く辺りまで持ち上げられて、太腿の下で結ばれた手がしっかりと押さえている。

 腕の毛並みは、見たところでは乱れ毛や逆毛が無く、つやが所々で広がるようになった。足には変な癖の残る部分はなかったので、整える前と後で大きな変化はない。

 横に垂れている尻尾が目に入るが、この部分の毛並みを整える必要があるかを覚えていなかった。

 こちらで毛を整えるか彼女に聞いてみると、彼女自身で行うと返される。


 外は暗いが布に入った毛を捨てるぐらいはできる。通路の隅には配下達もいて、最初に準備させた石の山もあり、一人だった頃を思い出す。ダンジョンの形はほとんど変わっていないが生活感が増して、人間らしくなった。

 レウリファの部屋に布を戻しに行くと、彼女が箱鞄を開けて中を漁っていた。

「布なら俺がもっているが」

 折りたたんだ布を彼女の手に返すと部屋を離れて自分の寝台に向かう。


 首輪の魔力の確認をしておけば、彼女も殺される事を怯えなくなるだろう。

 コアルーム内でダンジョン全体の様子を確かめる日課を済ませ、寝台へ寝転ぶ。

 雨衣狼を呼び出した時には2000DPを下回っていた。レウリファの様子があれでは、護衛用の魔物を生み出した事は無駄な消費でしかない。配下の魔物が増えるたびに維持費もかさむ。



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