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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
1.意思編:2-37話
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19.都市クロスリエからの出発



 寝台から体を起こすとゆっくりと関節をほぐす。

 水を部屋まで運び顔を洗っていると、物音に彼女たちも目を覚まして身を整え始める。昨日は資料館で時間を過ごしてしまったので、朝の内に屋台の市場で食べ物を揃えたい。

 出発が遅れてダンジョンに着く時間が次の日の暮れになってしまうが、ダンジョンの方向は分かるので夜に進んでも迷うことは無いだろう。

 井戸の周りで男たちが水を被り体を洗っているが、それら体格は自分よりも遥かに屈強で、誰一人でも相対する事は避けたい。人間を殺すためのダンジョンを持っている自分は、ここで身を洗うことさえ身の危険を感じてできない。側溝に水を捨てて部屋に戻る。

 ニーシアとレウリファも寝巻から着替えて出発の準備をしている。

 市場以外に寄るところを聞いてみたが二人とも無いらしく、都市を出ることには賛同してくれた。


 身の丈をはるかに超える都市の城壁を抜けると、視界を大きく遮る建物が無くなる。人の多さは変わらないが、街中より安心できる。

 食料の買い込みは都市に来て最初にニーシアと見て回った時より時間もかからずに終わった。討伐組合の資料館で見つけた資料に載っていたものやレウリファの料理の知識があり、調理方法を考える手間が少なかったのだろう。

 食料品には香辛料や豆類の小袋や、比較的大きな食べ物を詰め込んだ袋がいくつかある。

 調理道具、食料、衣類、生活用品、レウリファの手荷物、配下の魔物たちが使う武器など、荷物が3人で運べる重量を超えることは予想していたので荷車を最初に手に入れた。

 彼女たちが市場の屋台で買い物をしている間は、少し離れた場所で荷車と一緒に荷物が来るのを待っていた。道行く人たちの買い物や会話風景を眺めて時間を過ごしていると、待たせた事に気を使ってくれたのか、料理を買ってきてくれる事もあった。

 自分が押している荷車は大人4人が乗るだけで隙間が無くなるほどの大きさで、都市内や都市までの道でも同じ大きさの荷車を使っている姿は無かった。ダンジョンに帰るためには道を外れて木々の間を通る必要があるため、この位の大きさが限界だろう。

 荷車は中央に2輪あり、転落防止用に台は箱型になっている。車輪の外側に布が巻かれているのは、衝撃や音を抑えるためらしい。

 この荷車には買い込んだ品が載せられているが。彼女たちにも食料を持たせてあり、魔物や盗賊の襲撃で荷車を置いて逃げても、住処に向かえる程度の備えはしている。背負う荷物が軽い分、都市に向かう時より楽に歩けるだろう。

 自然の多い景色を見ながら道を進んでいく。


「畑の芽も育っているといいですね」

 住処にある畑は数日間は見ていないため、確かに気になる。

 畑に水を与えるようにホブゴブリンに指示はしたが、植えたものが育っているかは分からない。

「そうだな、育っていたら畑も気楽に広げられそうだ」

 ダンジョン内の畑でも成長できるなら、天候に関係なく畑を管理する事ができるようになる。

 現状だと肥料があっても土の養分が減ってしまい、土を足したり入れ替えたりする作業が必要になるが、それは先の話らしい。

「調理道具も増えましたから、ずっと料理が美味しくなりますよ」

 ニーシアの村にあった調理道具は重いものや大きいものは運ばなかった。そんなものも都市で購入しており、この荷車に載っている。村で食べられていた料理でも、道具が無くて作れかった料理もあるのだろう。

「ニーシアの料理もまだ食べ尽くしていないからな」

 都市で食べていた料理も美味しかったが、いろんな香辛料を使っていて味が濃いものが多かった。

 長く食べるならニーシアが作っていたような喉に優しい味がいいだろう。

「はい!」

 帰り道には同じ方向に進んでいる人が見える。この道を進む人が増えるなら、盗賊よって一度占拠された廃村も中継地点として直されていくだろう。

 村から持ち帰れなかったものを回収しに行く事は控えた方がいい。盗賊と勘違いされる可能性もあり、実際に村から持ち帰ったものがある分、さらに都合が悪い。


 洗礼を行うための教会が崩れたことも含めて、魔物が人間に大きな被害を与えているのは確かだ。お金を稼ぐために登録した討伐組合でも、ダンジョンの情報が漏れていないか探った方がいい。

 ダンジョンが小さい内だと簡単に壊されて、コアも売られてしまうだろう。 奴隷商店で買った奴隷使役のために魔道具を買うのに木貨数枚で払ったことを考えると、手で掴みきれない大きさのダンジョンコアからは、かなりの数の魔道具が作れてしまう。魔道具の部品の内の一つとはいえ売れば聖光貨は届くはずだ。

 都市で生活してみて知った事であるが、聖光貨一枚は庶民の商品で買えないものは無かった。

 ダンジョンを壊されてしまうと自分たちは他に生活する場所も無い。都市や村で稼ぐための知恵も力も自分たちには無いため貯蓄も長くは持たない。レウリファだけで3人を養うという期待はしない。

 それに自分で操作できるダンジョンの価値はコアを壊して売った聖光貨数枚で収まるものでは無い。

 時間はかかるが魔物を呼び出して労働力として利用できて、自分が生活する最低限の食料も呼び出せる。

 その最低限の食事も魔物に狩りをさせれば改善できるため、時間が経つほど生活状態も良くなる。周囲の獲物を狩りつくすことも簡単に起こる事では無いし、それまでに気づいて魔物の数を抑える事もできる。

 魔物たちも狩りや木材の加工もできるため稼ぐことも不可能ではない。都市から離れていてもそれなりに文化的な生活ができるだろう。

 ダンジョンが壊される危険と、コアを売って手に入れた聖光貨が盗まれる危険を比べるなら、ダンジョンで住むほうが今は安全だ。壊されそうになるなら自分で壊して売りに行くようにすれば良い。

 自分がダンジョンを操作できなくなった時が問題になる。

 

 背負って運ぶより楽ではあるが、荷車を押すにも力は要る。レウリファは警戒のために前を歩いてもらいたいし、力の弱いニーシアも食料を背負い歩いてきた。交代する相手がいない。休憩を多く取ってもらい体力を取り戻す。

 自分の体力が尽きないうちに夕暮れも始まり、野営の準備をした。

 3人がたき火の近くで座っている。道からも林の木々からも離れているここで野営をする。

 ニーシアが料理をしている間に、レウリファと自分でたき火の枝を集めたり、寝転がるための準備を終えた。最初に寝るのはニーシアとレウリファでいいだろう。

 ふたの閉まった鍋にはスープか蒸し焼き料理だろうか。漬け込み肉も厚めに切られ串にさされて焼かれている様子をみる限り、住処に帰るまでに使い切ることができそうだ。手の甲ほどの大きさの平焼き餅も火の傍に置かれて温められていく。これは麦を使った料理で長期保存もできる。

 ニーシアが料理している様子をレウリファが見つめていた。料理を教わるのも帰ってからになるが、そのために観察しているのだろうか。

 野営の準備を済ませた時点で他にする事も無いのだろう。

「食材が揃っていると料理も楽しめますね」

 都市に行く前も山菜取りをしたりして食材を増やしていたが、どうしても足りないものがあったのだろう。

「料理本も買った方が良くないか?」

 討伐組合の資料館には料理本も置いてあった。探してはいなかったが都市であれば資料を売る店もあるだろう。

「今は無くても十分です。資料館で本はありましたし、まだレウリファさんから教わってもいません。その後に買います」

 レウリファは奴隷商会で出されていた嗜好品の菓子の料理法も教わっているらしく、これは特にニーシアが喜んでいた。貴族しか使えない調理設備があったら料理も限られるが代用できないこともないだろう。安定した加熱や冷却の手間がいる料理は作れないが、ほとんどの料理は可能とレウリファも言っていた。

「ニーシアの好きにしたらいいと思う」

 この辺りの食材も料理もニーシアの方が知識がある。少しずつ教えてもらっているが他人に食べさせるほどの腕ではない。

「住処の洞窟に戻ったら食事にあの団子がついてくるんですよね?」

「まあ、そうだな」

 消費DP少ない、味薄い、腹が空かない、いい事尽くめのかさ増し食料である。雑穀を固めたような噛み応えのある団子はダンジョンから都市に向かう途中まではお世話になっていた。配下の魔物たちも狩りの成果に限らずしっかり食べているだろう。

「美味しいとは言えませんが、何故か食べたくなる不思議な味ですよね」

 どうだろうか、食糧節約のためと考えて食べていたはず。最初からあの団子だけを食べていれば、いずれ飽きてしまっていただろう。

「屋台でも売っていませんでしたし、いろいろ料理法を試してみたいです」

 お金が減る心配も減って、とても都合がいい。

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