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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
6.同行編:158-185話
180/323

180.個人



 実験棟はどの部屋も同じ内装かもしれない。

 中に置かれた新しい装置は相変わらず、素人目では得体の知れない生活感の無い見た目である。


「今回も魔力による妨害を試すが、前回より指向性を高める」

 マギポコが装置のひとつに触れながら話す。

「魔法妨害を防ぐ工夫もあるとは話したな。今回は強度の高めた魔法を妨害する。試す事といえば、結界の魔法を壊すだけだが、原理として学ぶには適している」

 魔力を放出するだけでは、壁で防がれたり、迂回で避けられたりする。《灯火》の魔法を妨害した際にも、距離が離れるほど多く魔力を消費していた。

 敵が望み通りの行動をしてくれるとも限らない。

 多くの状況に対応するためには、有限な魔力を効率良く利用する、工夫を学ぶべきだろう。


 マギポコは操作を止め、こちらへ姿勢を戻す。

「魔力を固めて放つだけだが、流れを集める程度でない、れっきとした魔法だ」 

 マギポコの指示で、自分の隣に魔法の光を用意する。

 生み出された光球は、合図と共に消されて、待つまでもなく再出現した。

「《灯火》は構成も単純で消えるだけで済む。魔法によっては暴発する場合もある。攻撃魔法なら射出方向を狂わせるだけでも十分な効果だろう」

 使用された魔法は《魔弾》と呼ばれるらしい。

「魔力を放出するだけの状態を吹く息として、今回のは飛ばす唾だな。範囲が小さく、狙いを付けないと無駄打ちになる。代わりに威力は高い」 

 壁際の装置から平面状の《結界》が生み出される。

 白が徐々に増して現れた四角。これまで見た色が青や透明であり、色は調節できるものらしい。

 離れた地点に立つ自分は、すぐ正面に立つ板へと手を重ねる。魔力が奪われ、正面奥の白い壁が軽い音と共に割れる。

 拳大の穴ができた結界は、穴が広がるように薄まり、最後は消失した。


「どうだ、アケハ。覚えられそうか?」

「はい」

「人に当たっても直接の害は無い。魔法を組む途中でも大抵は霧散するだけだろう。体内で圧縮しても悪影響は無いはずだが一応警戒しておいてくれ。こればかりは本人でないとわからん」

「わかりました」

 マギポコの懸念を聞いた後、結界の修復を待って装置へ再び触れる。

 結界の魔法は壊れる度に作り直す必要があり、割れた部分は強度が下がり、棒で叩いて壊れるほどでしかない。 

 叩いても壊せない強度に結界が調節され、魔弾の魔道具の方もマギポコがいじる。その間は立って待つか、灯火を浮かせて遊ぶ。魔法を試せる場所は限られている。

 結果的に、数回で覚えてしまい、後の数回は装置無しに魔弾を放っていた。


「早いな。魔力操作を再現できるのは才能だろう。身に受けた攻撃魔法を再現しても怪我を重ねるだけだが、ひと工夫で変わる」

 適性が無い事を除けば、優秀であるとは何度も聞いた。

「金と人出を考えなければ、いくらでも魔道具を身に宿せるという。……魔力量も合わさり、便利極まりない」

 実用性を確認するために、マギポコの動かす光球を的に練習した。


「残念だが、国が求めるのは集団込みの汎用性だからな。多種の魔法を、一定の火力で扱う。そこに多少の誤差は構われない」

 体系化された魔法は、細かな制御をしなければ一様な効果が得られる。

「覚える種類が少なく、極めたところで効率、質が良くなるだけ」

 自分の場合、強さを調節合わせられるとしても、そもそも同じ魔法を覚えられない。魔法を覚える設備が特別に必要で、準備に手間と費用がいる。

 光神教の依頼でなければ、少数である自分に機会は無かった。


 いつまでも、他人との差を意識してしまう。

「まあ、遠出にうってつけの存在になれる。着火の魔法も準備はあるから、後で運んでこよう」

 魔法の知識は確実に増えている。

 手に洗礼印の無い、自分でも魔法を扱える。





 掴んだ剣で、向かい来る斬撃を防ぐ。

「肩に八。腕に二十四。頭に三」

「正解! 次、この質問は何回目?」

 ロジェは剣を交わす間に会話や質問を続ける。

「答えは七回目。覚えてね」

「七……」

「そう!」

 覚えるために言い直した言葉をロジェが拾う。

 訓練室は個人で借りているため、自分とロジェしかいない。

「知ってる? 聖職者と結婚するのは法国でも、かなり出世なんだよ」

 砕けた口調で、よどみなく話す。

「この学園に通う者なんて、ほぼ皆無だし、現役となると貴方だけだと思う。普段過ごす中で繋ぎを作れるなんて、すごくお得じゃない?」

 腕も体幹も、動じない。

 ロジェの体型からすると難しいはずの、激しい動きへ誘導できない。見た目の優位で実力を測れない。


 それでも、頼りない自分の見極め方は日々修正されている。

 剣を振る際の緊張も、ロジェの言葉には表れていないのだ。

「知り合いを紹介してもらえるだけでも、縁談の機会にもなるし」

 力で押し負け、避けに回る自分とは比べようがない余裕が感じられる。

「……俺には無理だぞ」

「ほら、後々、身のためになるかもしれないじゃない。じゃあ次……」

 盾を持つため、こちらが有利なはずだが、実力差が埋まるほどではない。


「アケハの出身地はどこ?」

 生まれた土地。

 自分の場合はダンジョンだろうか。


 あと百日を数える間に、一年が過ぎる。

 だが、意識して数えだしたのはダンジョンにいた時点からである。

 生後一年とは答えられない。


 知らない物を知っていた。

 経験の無い生活の術や物の名称を、覚えていた。

 それまでの自分は、自身を意識せずに生きていたかもしれない。

 なぜ、日数を数える事さえ、欠いていた理由が分からない。


 ダンジョンで精霊と話して、何が変わったのだろう。

「油断!」

 盾ごと弾かれた腕を掴まれ、剣を突き付けられる。


 ロジェの質問には答えられない。

「答えられないなら諦める。迷うと隙になるよ」

 自分にとって迷いの元となる、大きな弱点だ。


 諦めて、諦めて、目的だけに集中する。

 攻撃に集中、防御は雑に。


 周辺は把握しておきながら、身勝手に壊すくらいでいい。

 周りより、自分。後で直せばいい。

 直せない物なら、始めから戦場に持ち込まない事。

 私たちの腕の届く範囲なんて、予想以上に短いんだから。

 自身の足元だって、届かない人はいるのよ。

 どうせ負ければ死ぬんだから。使い切るくらいでいいの。


 相手に傷を与えられないなら死ぬしかないんだから、捨て身で食らいついていかないと。

 万に一つの隙を探すのは疲れるでしょ。

 制限している今は駄目だけど、突きを狙われたのは嬉しかったよ。


 勝つという目標に、これからの一撃は必要なの?

 一撃を狙えば、勝てるわけではないの。

 当たれば、傷が深ければ。

 結果が遠いなら、目の前の一歩より、後の一歩を邪魔されないよう環境を整えないと。

 敵の体勢を崩すにしても、すぐ復帰される。周囲の環境も放置できないよ。


 敵を殺すのに剣は要らない。

 敵の特性を探って、隙を作るのに適した手段を用いる。

 剣は具体的に学ぶための道具でしかない。


 剣だと取り回しが楽な分、立て直しも早いと誤解してしまう。

 戦闘では一度の傷も侮れない。

 意識すべき時間は、剣を振るよりも短い。

 剣だけだと実感しづらい。

 手を離れて、操作の利かないような長物の武器で学ぶ必要もでてくる。


 今は実戦でなく、競技だよ。

 生かすには、多く経験して違いを認識しなければ。


「本日は、ここまで。……にしましょう」

 ロジェが訓練の終わりを告げた。

 語りながら優雅に剣を流していたロジェ相手に、今日だけで何度転がされたか。剣に打たれた回数は、もう諦めている。

「戸を解放しておきますから、先に更衣室を使ってください」

 まだ、自分は息が整っておらず、立ち上がってすらいない。

「悪いな。……先に休ませてもらう」

「はい」

 ようやく答えた後は、ロジェを残して部屋を移った。



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