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魔法迷宮で暮らす方法  作者: 朝日あつ
1.意思編:2-37話
18/323

18.討伐組合の人々



「素材買い取る場合は量にもよるが、一度預けてから丸一日ぐらいで買い取り額を決める。預かった際に箱番号の書かれた札を渡されるから失くすなよ」

 受付の男は実際に使われている札を見せてくる。都市に来るなら買い物もするから待ち時間には困らない。

「この建物の左右は組合が管理する資料館と宿泊所がある」

 この建物も食事処が併設されている。

「周辺には壁外活動に使う道具を扱う店が多いから一度は見ておけ」

 受付で探索者登録を終えて、その場を離れる。

 建物内の食事処と受付の間には掲示板があり、依頼内容がかかれた紙が貼られている。壁外での素材回収も探索者の仕事であり、依頼用紙には文章の脇に描かれた植物を模した絵もある。紙がまばらに貼られた様子は、係員が依頼を受ける探索者の人数を調節するために紙を抜き取った結果だろう。

 並ぶ掲示板を抜けると円卓が各所に置かれた空間がある。円卓が近い位置に集められた場所では相談や連携をしていたのだろう。今の時間帯は人も端の方に座る程度で、それぞれの会話内容が聞こえる。

「ここらでも迷宮が見つかると狩りも楽なんだがなあ」

「お前まだ夢見てたのか」

「秘宝で金持ちになるとか男の目標だろう」

「迷宮狂いになんてなりたくねぇよ」

「酒と変わらんね、慣れたら飽きる」

「それはないだろ、女は一途の癖に」

 討伐組合は迷宮、ダンジョンの管理に携わる事もある。自分が住んでいる場所も見つかれば追い出されるだろう。ダンジョンの場所を移動できないのなら、隠れ続けることも難しい。

 討伐組合に気づかれた場合は逃げ出すか、来る人の対処するか決めなければいけない。組合に知らされないように見た人の口を封じる必要もある。今のダンジョンでは人を殺すにも監禁するにも適していない。

 男たちが木の器を傾け、中身を口に注いでいる。

「ニーシア、レウリファ。なにか食べていくか?」

 そばにいる二人に聞いてみる。

 それぞれ断る様子をみて、食事を試すのは次にしようと思った。

 この建物でできる用事は済ませたので、周辺の施設をまわる。


 近くにある武具屋に入ると様々な武器や置いてあるのが見える。壁に飾られているものがあれば、区切られた箱に並べられているものもある。店にある武器の多くは同じ規格のものを量産していて、これらは職人の育成のために作られたらしい。

 店の一角で試す場所があり、店主に借りることを伝えて武器の使い心地を確認する。ニーシアには腰に構えて突き刺せるような小型で扱いやすい刃物を持たせた。切っ先の上部にはえぐれた部分があり解体にも使えるため、自分やレウリファが使える予備も買う。

 自分も盗賊の持っていた剣では少し重たいので、一回り小さく軽い剣を選ぶ。

 レウリファは自分よりも力も強いので大きい剣を持つと思っていたが、自分と同じくらいの剣を選んだ後に、金属を木型に打ち留めたような丸盾を手に持っていた。

 そんな理由で防具も身に着けたほうが安全なことに気づき、胴体を守るための軽めの革鎧をそれぞれ探す。頭部を守る革兜はレウリファには適さないらしく、二人分だけ選ぶ。

 ゴブリン達のために剣や槍を数本買い。武器の管理用の油や砥石もここでまとめて買う。武器の管理方法は知らなかったので店主に教えてもらえてよかった。汚れを落としてから油を塗ったり、刃を残すように砥石を当てる、誰でもできる程度のものだ。

 血止めの軟膏も売られていて購入すると店をあとにする。

 

 資料館にはこの辺りの生き物や植物を中心に資料が揃えられているらしい。危険な生物はあらかじめ知っておきたい。ニーシアも食べ物が載せられた資料を探したいと言ってくれたので資料室に寄ることにした。

 資料は厳重に扱われており、入館料を払い手荷物検査をしてから建物の奥に進む。

 棚同士の間隔は広いが様々な媒体の資料で埋められている。台車に資料が載せてられて運ばれている。司書は見てわかる服装をしており、入館者が読んだ資料を棚に戻す作業をしている。閲覧用の机のまわりは他より明るく、自分たち以外の利用者の、机に積み上げた資料を読む姿がみえる。

 自分とニーシアは文字が分からないので、レウリファに自分たちが興味のある資料を探してもらい、数冊選んでから机に並んで座り読み上げてもらう。

 レウリファが挿絵のある書物を多く選んでくれる。自分も植物関係には興味があるので注意して聞く。いつかは文字を覚えて一人で本が読めるようになりたい。外で住み慣れていないレウリファも別の資料を読んだりするだろう。

 人よりも大きい動物が自然に住んでいるのは、ゴブリン達の狩りの結果からも知っていたが、魔石を持つものと持たない生物では危険度が異なるようだ。

 特に魔物は魔法を使う事ができて、見た目より力強い場合があるらしい。討伐者が読むため作られた資料なのか、利用できる素材や剥ぎ取り方、作成当時の買い取り額が書かれているものもあった。

 本を返すたびに同じ司書の人と顔が合うため、同じ棚の資料を回数を分けて運ばせる事で少し面倒をかけている気にはなるが、手間賃も入館料に含まれていると言い訳をしながら司書に本を渡す。

 窓の外が暮れていく頃に司書から閉館を知らされる。今日の内に持ち帰る食料を買う予定だったが明日に延ばしてしまった。

 日も暮れてきた今から都市を移動する事は安全ではないため、討伐組合が管理する宿泊所で一夜を過ごす事に決めた。

 資料館を出て、大して歩かず辿り着く。食事が付かない素泊まりらしい。男が多い討伐者たちのために共同部屋も用意がある。

 個室を確保しておいて、討伐組合の食事処へ向かう。


 昼間と違う人の多さは、この都市周辺の魔物の多さを教えてくれる。円卓も移動しており、立って食べる人もいるほどの人だかりになっている空間。人の声、食器が打つ音、奏でられた賑やかな様子は大通りを歩くよりは心地が良い。

 どこの席でも武器が立てかけられて危ない気持ちもするが物騒な気配はない。空間の中央は円卓が集められていて、端のほうは通れるように場所が開けられている。

 通路の邪魔にならない場所に背負子を椅子代わりに二人を座らせる。


 料理を幾つか頼みに行き、受け取る。大きさの異なる木の盆も用意されていて、机が足りない状態でも立って食事ができるようになっている。

 床に落ちている肉片や飛び散った汁を踏んだり避けてたりして、二人の場所に戻ると椅子を一つ確保してくれたらしく、そこに座る。

 ここの料理は提供する時間を短くできるような物が多く、この施設で買い取ったものを利用しているのだろう、肉料理が中心で量も多く味も濃い。

 肉の煮込み物と焼き物と揚げ物、といった濃い料理が盆の上に並ぶ。最期に野菜の目立つスープが視界に入ると、目の前にいる彼女たちの目にも光が戻ったように見えた。

 大きい皿にまとめて乗せられているので、3人で分け合って食べる。膝に置いた木の盆が少しずつ軽くなっていく。


 味が濃く、熱い料理に一緒に頼んだ酒の消費も多くなるので。酒だけを頼んでいた客もいた。

 出汁に漬け込んだものなのか肉の中まで味が染み込んでいて、料理ごとに異なる味を楽しめるのは良い。

 野菜の入ったスープを匙を使って飲むと口に残った脂も喉に流してくれる。同じ野菜でも提供する前に加えたのか食感が違う、あるいは注ぎ足したりしているのだろうか。

 涼しい外と繋がる窓が近いことで助かったが、かなりの熱気が漂うこの空間に長居したいと思わない。円卓の集まる中心や調理場ではここ以上に熱い事は間違いないだろう。

 机を超えて会話をしている客もいて、狩りの成果や次の予定の話が耳に入ってくる。今日資料で知った魔物の名前も挙がっていて、理解のできる内容があったので資料館へ行ってよかったと早くも実感できた。

 これだけ人で溢れているが、歩いている人同士の間隔は少し広く感じる。帯剣しているために他人に当てないように注意しているのだろう。

 身の丈ほどの槍を持つ人もいて武器にも個性がある。見える手のひらには様々な印が表れていて印の濃さも違う。都市の兵士たちは装備で隠されていて見えなかったが、装備を揃えていないここでは手の甲を空気にさらす人もいる。

 酒に酔った客が暴れる様子も見えるが周囲の人にすぐさま抑えられて、仲間たちに腕を取られて建物のそとへ運ばれていく。料理が散らばると傍にある掃除道具で周囲をかき集めてごみ置き場に片づける。

 土貨が宙を飛び交う様子もあり、ここ以外の食事処では問題になりそうなことが何度も起きる。

 酔った人を除けば武器を振るう人も無く、酔っ払いも足取りを助けるように地面や壁に杖代わりに武器を使う者も多い。

 そんな様子もいくつか見られる中、食事の時間が過ぎていく。

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